Monopolistic


「それで、ドタチンがさぁ」

いつもの帰り道。
臨也と静雄二人きりの、いつもの会話。
…静雄は、眉をひそめていた。
他でもない、原因は目の前のこいつにある。


静雄の不機嫌に臨也は気がつき、苦笑を溢しつつわざとらしく溜め息を吐いて見せた。


「あのさ、何か気を悪くしてるようだけど、俺を巻き込まないでよ、俺までテンション下がるじゃん」

その言葉に、静雄は訝しげな目で臨也を見た。
何その目、と眉根を寄せた臨也が、可愛く思えつつも憎たらしい。


臨也は、クラスが変わってからほぼ毎日のように、帰り道に門田の話をする。
臨也本人は理解していないが、俺はそれが気に入らない。
――彼氏の前で他の男の話を楽しそうにするなんて、どういう了見だ。

確かに、俺が告白して付き合いだす前から、門田と臨也はずっと仲が良かった。
それは承知だったから、今まで特に何も思わなかったのだけれど。

進級してから、それが妙に気になりだした。
その第一の原因は、クラスが離れてしまったことだ。
1年の頃同じクラスで散々喧嘩をしたせいもあり、クラスを離されたのだろう。

門田は友人だし、そんな私事も私事な理由で邪険に扱うのは心苦しい。
だから、未だに臨也には何も言えないでいる。


「でもさ、シズちゃんもドタチンくらい優しくなってくれればいいのに」


…だからといって、鈍すぎやしないだろうか…。

鬱陶しいな、と返して、静雄は反抗がてら臨也に合わせていた歩行速度を上げれば、臨也は素直についてきた。






次の日。
静雄はいつも通り臨也と帰るために、教室まで迎えに来た。
教室を覗いて、他の人間より黒い姿を探しながら名前を呼ぼうとして、
静雄は固まった。

そこには、門田に抱きつく臨也の姿があった。

呆気に取られている静雄に気がつかないままらしい臨也は、門田に抱きついたまま。
楽しそうに見える二人の会話が聞こえないのが、唯一の救いだろうか。
呆れと代わるようにじわじわと沸き上がってくる苛立ちを落ち着かせようと、深呼吸をしていれば。


にこり、と笑みを溢した臨也は門田の頬に口を寄せると、
その唇を頬にくっつかせた。

ぷつん


頭の中で軽い音が聞こえた気がする。
しかし、そんなことに気を回す余裕なんて、既に静雄には無かった。

「臨也!!」

「へ?ああ、シズちゃん。
待っててね、今行くから」

そう言って門田から離れて、鞄を取ろうとした臨也は、
静雄に腕を引かれて鞄を取ることも出来ずにバランスを崩した。

「え、ちょっと…」

意味が分からず動揺する臨也を引き寄せると、
先刻門田の頬に寄せられた唇を、奪った。

「ふ!?…ん、…シズ、ちゃ…、ここ、ン…教し、ふ…んゃ……」

戦慄く唇に噛みつくようにキスをして、周りの視線なんて気に留めることも出来ないままに貪る。
抵抗してくる掌を捕らえて指を絡ませれば、臨也の指は意外にも素直に絡められた。
重ねて、離して、また角度を変えて重ねて。
唇を貪る自分すらも呼吸を乱しながら、ただひたすらにその柔らかな感触を求めた。

赤ら顔の奴、はやしたてたい空気が滲み出ている奴、
色々いたが、静雄は気にすることなく臨也の鞄を抱えると、未だに放心状態の臨也を引いて、教室を抜けた。
30秒近く続いた口付けを終えた頃には、教室は静寂に包まれていた。

「な、んで、いきなりキス、なんか…!」


いつもの通学路であって、ほんの少し違う通学路。
顔を赤く染めたままの臨也の声に、静雄は溜め息を吐いた。
意味が分からないまま静雄に腕を引かれて歩く臨也は、静雄を見上げては逸らして、を繰り返す。


「手前…本当に分かってねぇのか?」

「何をだよ、馬鹿」


唸るように言った臨也は、どうやら本当に分かっていないらしい。
静雄は足を止めると、臨也へ振り返る。
びく、と肩を跳ねさせた臨也へ、静雄は意を決して口を開いた。

「俺の前で、門田の話はするな」

臨也の目が、ぱちくりと瞬く。
意味を分かっていないのか、そう思い、躊躇いつつもゆっくりと、今まで溜め込んできた言葉をぶつけた。


「彼氏の前で、他の奴の話なんか止めろ。
俺以外の奴に、キスなんかするな。
臨也の彼氏は、俺だろ」

あまりに直球な言葉に、臨也は真っ赤に染めた顔のまま、こくり、と頷く。
…その姿が可愛くて。
今まで溜めてきた不満など、一瞬のうちに何処かに追いやられる。

きゅ、と肩を優しく抱き締めれば、臨也の腕もおずおずと回された。

そのまま、臨也はぽつりと口を開く。

「ねぇシズちゃん、ひとつ訊いていい?」

「あ?」

何だよ、と臨也を覗き込もうとしたものの、臨也は静雄の肩に頭を埋めたまま離れようとしない。
仕方なく、そのまま話を聞くことにした。


「シズちゃんのそれって、やきもち?」


「っ!!」

あまりに図星な言葉に、静雄は石のように固まる。
その様子に気がついた臨也は、馬鹿にするでもなくただ照れるでもなく、にこ、と笑って静雄を見上げた。


「うれしい」


透き通る声で紡がれた言葉は、胸にゆっくりと浸透した。
今度は静雄が臨也をじっと見詰めるなか、臨也は綺麗にはにかんで言う。


「俺とシズちゃんって喧嘩はするのに、シズちゃんずっとそういうこと言ってくれなかったから、嬉しい」

「そういうこと?」

首を傾げた静雄に、「分かんないの?」と臨也は馬鹿にしたように言う。
お前だって人のことは言えないくらい鈍いぞ。
そう言いたかったが、臨也の先の言葉を聞きたくて、ぐっと堪えた。


「俺がドタチンのことばっかり喋っても、何にも独占するような反応無かったし」

「っ、それは、門田も大切な友達だから…!」


意気地無しだとか鈍いだとかそんな訳じゃ無いんだ、と半ば叫ぶように言えば、臨也は「分かったから静かにして」と苦笑を漏らした。
そして、その華奢な腕を再び、静雄の腰に強く回した。
それを抱き締め返すと、臨也はほんのり染まったままの顔を上げて、にこり、と微笑う。


「もっと独占してよ。
シズちゃんで頭がいっぱいになるくらい、さ」


まぁ無理だろうけどね。
恥ずかしさを紛らすために紡いだ声は、震えて何の意味もなかったけれど。
静雄は、笑う。
その眩しくすら感じる笑顔に胸を温められたり、焦がされたりしながら。


「望み通り、俺でいっぱいにしてやるよ」


重ねた唇は、誰よりも強い独占欲の証だってこと、
忘れるなよ?


END


神前様から15万フリリクで頂きましたっ

あああありがとうございます!
もう嫉妬シズちゃん大好きなんです←
でも友達を思って嫉妬心を隠してるシズちゃんカッコイイです><*

素敵な小説ありがとうございました!





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