「好き? ……ああそう」
イルミさんのこと好きだな、と思ったから「イルミさんのこと好きです」と言ったら、彼は頷いてそれきりだった。この人は顔が顔だから、沈黙すると本当に空気が止まる。あまり心地良いものではない。
「……婚約者とか恋人とかいるんですか?」
「いないよそんなの。まあいずれは家のためにもどこかの誰かと子供を作るかもしれないけど」
彼の思考は全て"家"に帰結される。ゾルディック家の血筋と家業がいかにして栄え続くか。それは種族繁栄のためにのみ生きる動物的本能に近いようだった。
「まあ、そのために迎える相手が君みたいになんの能力も利益もない女じゃないことは、確かだね」
なるほど。相変わらず彼の発言は理にかなっていて解りやすい。時々やってきては意味不明瞭な言動をするどこかの奇術師とは大違いだ。
「イルミさんは私が嫌いですか?」
「別に嫌いじゃないよ」
「……じゃあ好きですか?」
「好きでもないかな」
「えーと、つまり、興味ないですか?」
「……」
彼は黙って手元の水を飲んだ。無言の肯定に、予想していたとはいえ心が折れそうになる。
「俺の興味ってすごく限られてるんだよね」
そのまま流されると思ったので、会話が続いたことに驚いて顔を上げた。
「だから君に特別興味がないというよりは、興味があるもの以外には興味がないんだ」
それも、言葉通りの意味なのだろう。しかし私には慰めに聞こえてしまう。イルミさんは意外と優しい。そう思うのが乙女心だ。
「君は俺に抱かれたいの?」
「へ!?」
彼との会話は平坦に続いたかと思うと、突如落下することがある。そんなときは思わず変な声が出てしまう。
「違った? そういう"好き"だと理解してたんだけど」
「ま、まあ……突き詰めれば、そう、ですね…」
「じゃあちょっと突き詰めてみようか?」
「え!!」
「冗談だよ」
ハハハと言って彼は脚を組み換えた。目どころか口も笑っていないけれど。
「イルミさんの冗談解りづらい」
「あまり言わないからかな」
そういう問題じゃないと思う。
定形外
2012.3.9