「イルミ、彼女どう思う?」
「どうってどういう意味で? 人間として? 女として? 君の遊び相手として? それとも他に何かあるの?」
「うーん、いや、総合的にさ」
「……人間としてはまともだし女としてもまあまあだけど、君の遊び相手としてはカス以下ってとこじゃない?」
「……だよねえ」
イルミの答えは予想通りだった。自分の考えとも同じだ。
「うん。この前の感じだと、多分そのへんの鶏より弱いよ」
「この前の感じって? 彼女と何かしたの?」
「最初に殺そうとしたって言ったじゃないか」
「ずるい…!!」
「ずるいって、やっぱ彼女で遊ぼうとしてるの? 時間の無駄だと思うけど」
最もなイルミに一度頷き、髪をかきあげた。
ヒソカは困っている。
強さと強さへの可能性にのみ人の価値を見出だしてきたヒソカにとって、「よくわからないけど気になる」「なんか知らないけどちょっかい出したい」などの曖昧な欲求は未知であった。彼の欲はいつでも解りやすく色濃くそして真っ直ぐで、例えそれが間違った方向にせよ愛情表現に迷いはなかったのだ。
しかしそこはヒソカ。迷いがあるとはいえ、待つのが得意じゃない彼はとりあえず名前の元に足を運んだ。もちろんイルミには言わずに。うっかり手が滑ったら、それはそれでしょうがない。
最初のうちはあからさまに警戒し怯えていた名前だが、ヒソカが薄っぺらではあるが紳士的態度を崩さず接しているうちに、この男は見た目ほど危険じゃないと勘違いをし、無難な会話くらいは出来るようになった。
「ねえ名前、キミは身体能力に自信があるかい」
「うーん、あんまり……」
「人を殴ったことは?」
「本気で? はないですね」
やっぱり。ヒソカは首をかしげる。
どう考えても彼女は念能力者でないどころか、下手をすれば平均的な一般市民よりも惰弱だ。おそらく自分が少しでも乱暴に扱えば壊れてしまうだろう。悪い癖を我慢する以前の問題だった。しかし彼女の弱さを知れば知るほど両腕でひっ掴んでめちゃくちゃにしたいような、そんなことだけは出来ないような、矛盾した気持ちになった。
本来それこそが純粋な性欲であり恋心であるということに、生粋の異端児ヒソカはまだ気付かない。
初体験
2012.3.9