ラララふたりで
※R18


「痛かった?」

 布団の端っこに座りながらそう聞くと、彼女はのろのろと首をふり「おもかった」と言った。一応のところ気をつけてはいるけれど、名前の体は小さいし俺の体はでかいから、覆いかぶさったりのしかかったり揺さぶったりしたらそりゃ重かったり苦しかったりするだろう。

「ごめん」
「へいき。重苦しいの、わたしけっこう好きだから」
「そんなことある?」
「あるよ。ちっちゃいころ押入れの布団のすきまに挟まれたりしなかった?」
「した……かなあ?」

 そんなことを言いながら呑気に笑っているこの子は、きっとマゾっ気があるのだと思う。確かに多少無理な姿勢をとらせているときの方が反応がいいし、俺に余裕がなくてむちゃくちゃしてるときだってちゃんと気持ちよくなれるみたいだ。男としては嬉しいばかりだが、終えたあと彼女の肌にうっすらと手形が残ってしまっているのを見ると、なんとも言えない罪悪感にかられる。
 しばらくのあいだ余韻にひたっていた名前は、緩慢な動作で脱ぎ散らした服をかきあつめ順番に身につけはじめた。毎日していることなのだから当たり前だろうけれど、女の子ってブラを着けるしぐさに淀みがないよなあなんて感心しながらぼんやりと眺める。ブラウスのボタンを上から三つとめたところできょろきょろと視線をさまよわせたため、思い当たって毛布の下に手を入れた。

「あ、これ?」

 俺が脱がせたのか自分で脱いだのかも覚えていないハイソックスの片割れが、シーツと毛布の隙間でくしゃくしゃになって丸まっている。引っ張り出して手渡すと彼女は恥ずかしそうにうなずいた。左足だけ靴下をはいて、布団のへりで微笑んでいる名前はなんだか妙に色っぽい。スカートの上に出ているブラウスの裾も、静電気をおびて乱れる髪も、学校にいる時とは違い無防備そのものだ。全世界に知ってほしいほどのこの可愛らしさを、俺が一人で囲い込んで隠し持っているのだと思うと口元が緩んでしまう。にやにやしてしまっているだろう表情をただすのも面倒くさかったため、見られないよう背後に回りこんだ。リボンをつけるために上げた腕の下から、両手を差しいれ抱きしめる。自然と傾いた彼女の背が俺の胸におさまり、ふわりといい香りがした。

「汗かいてるから、あんまくっつかないで」
「全然へーきだよ。うちの部室の汗臭さとくらべたら天国」
「比べるもののデリカシーがなさすぎ」

 名前は不満げに言いながらもさからうことなく身をあずけている。消耗して眠いのか、まつ毛がだんだんと下を向いていく。見ていると俺もつられそうになるけれど、あいにくそこまで悠長にしている場合ではない。俺たちに与えられた自由は少ない。俺の家族が帰ってくる前に襟を正し、なんてことない表情をつくって、そそくさと適切な距離をとらなくてはいけない。悪いことをしているつもりがなくても隠さなければいけないのは、俺たちがまだ高校生で、未成年で、親の金で飯を食っているガキだからだ。けれどガキにだって欲求はある。

「名前、寝ないで」
「うん。もう帰る」
「一緒にファミレスでも行く?」
「いいよ。徹はちゃんと栄養あるもの食べて」
 
 あくび混じりに言いながらブラウスを中に入れると、彼女は立ち上がり髪を整えた。俺だけが知る俺だけの名前の影が消え去って、少し寂しくなる。ぴったりと上げられた両足の靴下を、引き下げて脱がせたい衝動に駆られたけれど我慢する。代わりに膝小僧を指でさすると、ひゃあと高い声をあげて彼女が跳ねた。

「なに! くすぐったい!」
「あーむらむらする」
「……今したばっかでしょ」
「そうだけど、ねえ、もうちょっとだけしない?」
「徹が急かしたんじゃん」
「そうだけど、そうだけどさあ」

 ぐだぐだと言い訳をしながら名前の脚を撫でる。そのまま無様に下半身にしがみつき、お尻の方へ手をまわした。俺のために身なりを整えた名前を、俺の手でふたたび乱す勝手さに興奮していた。

「すぐ終わらせるから、ね」

 スカートに手を入れながら見上げると、彼女は呆れながらも頬を赤くしていた。やっぱりこの子はマゾなのだ。いつもはていねいに全て脱がせるけれど、時間を理由に下着だけをずらし指で触ると、中はまだしっとりと濡れていて柔らかさだって充分に残っていた。耐えきれず膝をついた名前を、抱きしめてそそのかす。

「口でして」

 半分勃ったそれを握らせながら言うと、名前は眉をひそめて俺を見た。けれど息の熱さから判断してもう一押しだ。

「そしたら、すぐに入れられるから」

 どっちにしろこのままじゃ終われないことを言い含め、見つめ返す。優しく言ったつもりだけれどたぶん俺は今笑っていない。瞳孔だって開いてしまっているかもしれない。彼女は背筋をぞくりと震わせると、「わかった」と言って体勢を低くした。這いつくばるような格好で口をつけ、口内の浅い部分で一生懸命俺を包み込む。はじめに教えた時からずいぶん経つのに上達の気配はない。けれどその理由が羞恥心からくるものだと知っているので、恥ずかしさと戦いながら控えめに口と舌を動かす名前を見ているだけで、俺は満足してしまうのだ。

「吸って、もすこし、奥まで」
「んうっ」

 けれど今日は少し強引に進めてみる。自分がサディストである自覚はないし、どちらかというと女の子には優しくしたいタイプと思っていたけれど、名前を見ているとどんどん酷い男になってくる。俺をこんな風にした責任を彼女にはとってもらわなきゃいけない。すっかり硬くなった性器を舌の上に押しつけて、腰を揺らした。気がひけるほど柔らかい口の中が、唾液でどんどん潤んでいく。こぼれおちて、名前が噎せる。

「ありがと、もう平気」

 息を乱している彼女を膝の上に抱えあげ、床へ放っていた箱からゴムを出す。本当は息が整うまで待ってあげたいけれど、性急に押し当てて彼女の腰を沈み込ませた。口よりもっと濡れたそこはすんなり俺を受け入れ吸いついていく。親の帰りを気にしてか、必死に声を押し殺すさまがかわいくて、動きは激しくなるばかりだ。ふだんしない制服の衣擦れの音がおおげさに部屋に響き、これは本当にすぐ終わってしまうと思った。えんじのリボンが揺れている。彼女の中に俺の熱がぜんぶ集まっていく気になる。名前の内側がびくびくと震えているのはわかったけれど、ここで止めることなんてできるわけがない。ブレザーの裾から手を入れて、細い腰を両手で掴む。逃げ出しそうな腰を押さえつけ奥までしっかり味わっていると、彼女はついに悲鳴をもらし俺の肩にすがりついた。ひときわ中がしまり、俺の部屋着になにかが染みていく。つられて、俺も射精した。
 目の前に見える彼女の耳はリボンと同じくらいに真っ赤だ。ぎゅっと一度抱きしめて「すごいよかった」と言おうとした瞬間に、車庫のかんぬきが開く音がして顔を見合わせた。慌てて体を離し、俺は引き出しから替えのスウェットを引っぱり出す。着替えながら横を見ると、急に放り出されて快感の収まりがつかないのか、体を小さく震わせながらも必死に身支度をしている名前の姿があった。
 そんなのを見せられたらまた勃っちゃうだろ、と思いながらも、愛しさと申し訳なさがない混ぜになってもう大変だ。どうにかコートを着終えた彼女の、真っ赤な頬を隠すようにぐるぐるとマフラーを巻いてやる。

「これつかいな」
「ん、でもなんかすごい暑くて、溶けそう」

 防寒どころかどこもかしこも汗ばんでいるんだからそりゃそうだろう。外に出たら汗が冷えて風邪を引いてしまうかもしれない。

「いろいろ、ごめん」
「うん。徹といると重かったり苦しかったり恥ずかしかったり気持ちよすぎたりで大変」
「……いや?」
「嫌じゃないよ。そういうの、けっこう好きだから」

 彼女がまたあっけらかんと言うので、俺は自分の性癖がこの先も悪化していくことを悟った。卒業する頃にはとんだ鬼畜になっているかもしれない。彼女にはしっかりと責任をとってもらわなければいけない。

2017.1.21

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