さわりだけ
※r18(かなり下品です)



 モテるモテるといったって、常に彼女がいるわけではない。むしろできる回数が多いわりには、いない期間が長い。つまりすぐ別れる。
 それに例えいたとしても毎日会えるわけではないし、その行為ともなると時間、場所、タイミング、シチュエーションなど様々な条件が求められる。そもそも何が言いたいかというと、セックスができるできないに左右される話ではなく、それはそれ、これはこれ、言うなればオカズとみそ汁のようなものであるということだ。おいしいおいしいエビフライやハンバーグでご飯を進める喜びを知っても、飲み慣れたみそ汁でほっとする習慣は手放せないものだ。

 そんなわけで俺は、ほっとする我が右手による自分慰め行為にもくもくと耽っていた。敷き布団に横たわり枕に頬を伏せながら、脳内にピンク色の妄想を散りばめ右手を動かすこの時間は、俺が全てのストレスから解放される瞬間であり体を休めるための準備段階のようなものでもある。体中の血行が活発になり頭がだんだんと馬鹿になっていく感覚が好きだった。終わったら夕飯まで少し寝よう。それでだいぶ疲れがとれるはずだ。その後はぼさぼさの頭でリビングに下りて、吸い込むように夕飯を食べ、朝練の時間まで熟睡。帰宅してすぐにシャワーを浴びたから風呂はもういい。英語の課題が出ていた気がするけどそれは明日の朝誰か女の子に写させてもらえばいい。彼女たちは部活を頑張り時間に余裕のない俺が大好きだから、そんなことにはとことん甘い。
 とにかく、これが終わったら仮眠して食事して就寝、これで決まり。それならのろのろと勤しむよりも早いところ出してしまおう。そう思った俺は妄想の中に再びダイブして、わりとえげつない展開を探した。内容は言えない。かなりパーソナルなオカズで抜いてしまっているからこれは自己嫌悪パターンかもしれない。でもしょうがない、こんな欲求を発散できるのは今のところ妄想の中だけなのだ。
 息が重くなって、快楽物質が脳内を満たしていくのを感じながら、少しだけ体を丸めた。あー気もちいい。いきたいけどいくのもったいない。やっぱもう一回しようか。ぶつくさぶつくさ。煩悶しながらも、俺の心身は最高に高まっていた。スウェットのゴムをずらし中で動かしている手のひらは熱く湿っている。そして、わずかに息を乱しながらラストスパートに備えティッシュの箱を引き寄せた瞬間、それは起きた。

 コンコン。

 間の抜けた音が俺の火照った頭、そして十畳の室内に響き渡り、時が止まる。正確に言えば止まったのは俺の右手と盛り上がっていた妄想の展開だけだったが、とにかく一瞬、俺の心と体は真っ白になって停止した。

「徹?いる?」

 そして最悪のきっかけをもって時間は再び動き出す。母親の声、ならどれだけ良かっただろうか。いやそれも充分嫌だが、現状に比べればいくらかましだ。聞き慣れたその声は家族ではなく、しかしそれに大分近い、けれども決定的に違う存在。そう、世に言う幼なじみの女子、気になるアイツというやつだった。

「いっ」
「あ、いる。入るよ?」
「まっ」

 咄嗟の勢いで立ち上がった俺は、元気に立ち上がっているもう一人の俺をぞんざいにしまい込みながら、背中から扉へと体当たりをした。開かないよう押さえ込んだはいいが、こっちの方はとても押さえ込めそうにない。なにしろ最高潮だ。どうしよう。

「わっなんの音、大丈夫?」
「大丈夫だけど!?」
「あのさ、今日辞書返してもらってない」
「は!?」
「……なんでキレてんの?開けるよ?」

 ここで拒否したら怪しまれる。幼なじみというのは大概遠慮がないから、もしバレたら明日学校でおかしなあだ名を付けられるかもしれない。それは嫌だ。モテることで有名な俺に情けないイメージが付いてしまっては取り返しがつかない。イケメンたるもの、オナニーなんてしないしする必要もありませんくらいの強気の姿勢を保っていなければならないのだ。

「どうぞ」

 俺はそう言って扉から離れると、彼女に背を向けたまま敷きっぱなしの布団にあぐらをかき、膝の上にクッションを乗せた。

「辞書ちゃんと持って帰ってくれた?」
「たぶん」
「……なんか徹、顔赤くない?」
「はっ、うんちょっと…………寝てた」
「え、具合悪かった?起こしてごめんね。でも今日、英語の課題出てるからさ」

 彼女は申し訳なさそうにそう言うと、もう一度「辞書は?」と尋ね、俺の鞄に手を伸ばした。学校に辞書の類を持っていく気のない俺はことあるごとに隣のクラスの名前から英和辞書を強奪するのだが、今日は返すのを忘れていた。もちろん持って帰ってすらいない。そんなこともつゆ知らずごそごそと鞄をあさる彼女の姿勢は四つん這いで、こちらに背を向けているためいい位置でお尻が揺れている。俺はクッションを抱え込むことでなんとか様々な衝動に耐え、意識をそらすため他の話題を探した。

「ていうか母さんは?どうやって入ったの」
「ああ、玄関ですれ違ったよ。なんか町内会の集まりがあるんだって」

 そういえばそんなことを言っていた気がする。つまり今この家にいるのは、俺と名前の二人だけらしい。意識をそらすどころかますます追いつめられた俺は、うっと呟いて前屈みになった。

「わっ平気?」
「……」
「風邪?……熱っ!」

 さっきから熱を溜め込み続けてるんだから熱いのなんて当たり前だろう。俺の気も知らずに正面から覗き込んできた名前を睨み上げると、とんでもないものが目に入り瞠目する。こいつ、このシルエット、アレだ、バカか、こいつブラトップなんてもん着てやがる。ブラトップなんてつまるところノーブラじゃないか。舐めてる、いくら付き合いが長いからといって男の部屋にノーブラって、完全に舐めてるだろう。

「お前、ほんと……」
「何よ、さっきから何拗ねてんの。辞書ないならないって言ってよ。PCで調べてなんとかするから」
「何が辞書だよ。こっちはそれどころじゃないんだよ」
「……そんなに具合悪いなら早く寝た方がいいよ。ほら」

 この期に及んで、布団を引っ張り上げようと敷き布団に乗り上げてきた馬鹿名前に我慢などできるわけもなく、クッションを解き放った俺は布団の上でくんずほぐれつ、名前に絡み付いて腕と腰を取り押さえた。ガキの頃のじゃれ合いの延長だと思っている彼女は「ちょっと!」とぷんぷん怒っているが、いったいどの時点で俺に犯される五秒前だということに気づくのだろう。もういっそ知らないうちにヤられてましたとか、それくらい間抜けなのがコイツにはお似合いなんじゃないかと思う。

「まったく、よりにもよって一番盛り上がってる時に入ってくるんじゃないよお前は!」
「なんなの!彼女と電話でもしてたの?」
「ふざけんなマジで」
「離してよ!」
「離さないね、責任とるまで」

 彼女の柔らかな体と、パット越しに押し上げられたデコルテのゆるやかな膨らみに、若干収まりかけていた俺の俺がまた固さを増した。開き直って背後から腰を押し当てると、さすがの名前も状況、というか俺の状態に気づいたのか、身を強張らせ息を呑んだのがわかった。ザマーミロと勢いづいたそのまま、上半身を倒し背後からのしかかる。

「ちょ、サ、サイテー!」
「ハァ?俺が俺の部屋でいつ抜いてようが勝手でしょ。あ、てかこの体勢エロい」
「バカじゃないの!動物じゃないんだから急に襲いかかってこないでよ!」
「急に入ってきたのはお前」

 甘い匂いのする名前の肩に顔を埋めながら、俺は自分の頭がどんどん馬鹿になっていくのを感じていた。細かいことが考えられなくなって、妄想と現実の差異とか相違とかそういうものがどうでも良くなってくる。ついさっきまで頭の中で考えていたことが現実として起こっているんだから混ざってしまうのも仕方ないと思う。何を隠そう、今日のオカズはこのクソ生意気な幼なじみだったのだ。罪悪感は妄想の中で取り払い済みなので、あとに残るは際限のない欲望のみ。不可抗力だ。この状況、俺は大して悪くないはずである。名前もまあ、被害者かもしれない。悪いとすればそれは運とタイミングだ。罪を憎んで、人を憎まず。

「離してってば!バカ最低……!何してんの!」
「うるさいな、何してるってナニしてたんだよ。男の子だから」
「最低最低バカみたい!幼なじみに発情してんじゃないよ!」
「バカバカってさっきから失礼な奴。あんまり動くと逆にやばいからね」
「もうやだへんたい!しんで!」
「……ちなみに変態の俺は、日頃から幼なじみで抜いたりもしています」

 バカやら最低やら変態やら死ねやらと貶されまくり大層腹が立ったので、特大の爆弾を打ち込んでやる。名前はひっと息を吸ってとっさに下半身を俺から離そうとしたが、いつも女の子とエッチをする時の気遣いしいの俺とは違い、ひたすら無遠慮に体重をかけているのでびくともしないようだ。

「う、嘘ばっか!んっ、やだ……!」
「何が嘘?信じらんないならこのままお前で抜いてあげようか?」
「やっバカじゃないの……!?」

 まだ言うか。かたくなに、俺の素直でかわいいと各所で評判な性欲を認めようとしない彼女に、思い知らさなければと気が昂ぶる。というか、彼女が認めようと認めまいともうやめられそうになかった。大変申し訳ないが太ももあたりをお借りする。さすがに入れるのはまずいと頭の端で理性がブレーキをかけるので、服越しに擦り付けていたけれど、すぐに我慢ができなくなってスウェットとボクサーパンツのゴムをずらした。やる気満々、準備万端な俺を彼女のショートパンツの裾のあたりに押し付ける。ぬるい柔肌の感触が気持ちいい。バックの体勢で彼女の体を抱え込み疑似セックスに酔っていると、ふとある疑問が浮かんだ。こいつ、処女なんだろうか。それならかなり可哀想だけど、経験があるならそれはそれで嫌だ。

「ねえ、名前」
「あっ、やだ、バカッ……殺す、ぜったい殺すから」
「名前って処女?」

 物騒なことを口走っている名前に単刀直入に聞けば、彼女は恨み言をはたと止め押し黙った。

「な、処女ならやめてやるよ?」
「……関係ない。変態徹に教えることなんてなんもない……!」
「……あっそ、馬鹿名前。このまま出してやるから」

 実際のところ、幼なじみの体でオナニーするというのは正直、セックスよりもエロいところがある。一方的に体を使っている感じがたまらなかった。気付けばショートパンツの裾からごしごしと滑り込ませるに至っていた俺は、下着の薄い布越しに性器を擦り合わせる新感覚の刺激に脳みそがやられそうになっていた。だんだんと温かくなる温度から名前も濡れているのがわかる。言葉で攻めるべきか否か。耳まで赤くしてタオルケットを噛みしめている名前に、たまらない愛しさと凶暴な気持ちの両方が込み上げた。

「名前……っ、は、きもちい」
「ば、か……しね徹……っ」
「名前だって気持ちいいくせに……っこすられて、感じてるでしょ。なぁ、お前、処女だよね?教えて」
「ん、んっ、バカ、バカ!やだ、あ!」
「名前、教えないなら確かめるよ」
「あっやだ!だめ、入れないで」
「…………」

 畳についていた左手をお尻の方へと持っていき、ショートパンツの隙間から指を忍ばせる。強情な彼女を脅すように下着に指をかけると、一瞬、性器同士が直接触れ合って粘膜がぬるりと擦れた。驚いて腰を揺らした名前は、勢いよく首を振ったあと、観念したのか小さな声で「したことない……」と言った。ぞくりと背骨が震えるような興奮を覚える。

「そっかあ、処女か」
「……っ、お願い、も、やめて」
「ん、もーすぐ」

 彼女が男から性的な扱いを受けるのはこれが初めてなのだと知り、快感のランクが一段上がる。素股と思えないような射精感に腰が震えた。出る、と思った瞬間、下着の中に突っ込んで、ぬるぬるとしたクロッチ部分にたっぷりと出した。ずれた下着を直してやると、隙間から太ももへと精液が垂れる。その様はパッと見、中出しされたようにしか見えない。繋がってもいないのにこの上なく征服欲が満たされた俺は、俺よりも息を乱して上半身を畳に投げ出している名前をどうなだめすかそうかと思いめぐらせたが、馬鹿の極地に到達しているこの頭で良い案など浮かぶわけがなかった。

「……辞書のこと、ごめん」

 とりあえず一つずつ、謝っていくしかないようだ。


2014.11.11

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