プリーツとやっかみ



彼女のスカートの中が気になってしょうがない。
俺の部屋のベッドでうつ伏せになっている彼女のスカートは、平均的な女子高生のそれであるため、肌を隠すという機能において極めて頼りなかった。細かいプリーツは上がったり下がったりと波打ちながら、水平になった太ももの上に絶妙な影を落としている。付け根へと向かう脚のラインは内部の構造を予測するに、かなり際どい位置まで見えているはずだ。あと少し。

「またふられた……」
「ふーん」
「今度は大丈夫だと思ったのに」
「それはそれは」
「……臨也、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる、すごい聞いてる」

正直聞いていなかった。
彼女のこのような愚痴は今まで5回くらい聞いたし、そのどれもが誤差5%ほどの代わり映えのしない内容だったため、聞かずともアドバイスくらいできた。そしてそのアドバイスを無視するから、彼女はまた愚痴るはめになるのだ。もはや聞く義理はない。

「私の何がいけないんだろう」
「俺のアドバイスを聞かないところじゃない」
「臨也のアドバイスって、難しいんだもん」
「じゃあ、相談する相手のレベルを下げた方がいいね」

なにも難しいことを言った覚えはなかったが、彼女が理解できないと言うならますますまともに受け答えをする気は失せる。しかし彼女がこの部屋から出て行ってしまっては困るので、俺は少し声を優しくして「でもさ」と続けた。

「そんな短期間でダメになるような相手、元から縁がなかったんだよ」
「縁がないなら最初からOKしないでほしい……」

このやりたい盛りに、好意を寄せてくる女を振る男なんてそういないよ、と言おうと思ったがやめた。泣かれたら面倒だし、自分もその一人だということに気づかれたらもっと面倒だ。彼女がため息をついて足首を組んだ拍子に、スカートがわずかに広がる。俺の可能性も広がる。ベッドに寄りかかっていた背中をぐっと反らせた。が、奇跡的なくらい些細な要因が合わさって俺の悲願を阻んでいたため、苛々してベッドに乗り上げた。紺ソックスのふくらはぎを押さえつけ、足の裏に親指を立てる。

「!?痛い痛い痛い!」
「うるさい。だいたい君は俺になんて言ってほしくてここに来てるわけ」
「そんなの決まってるじゃん!臨也って頭いい癖にそんなことも解らないから、いまいち立ち位置がパッとしないんだよ!」
「お前絶対、俺の言うこと理解してるだろ。馬鹿なふりして腹立つな……」

馬鹿な行動ばかりしているが、俺は彼女を本物の馬鹿とは思っていない。彼女は馬鹿でいることで人生をさぼっている、ただの面倒くさがり屋なのだ。その結果失敗ばかりしているのだからまあ確かに馬鹿かもしれないが、しかし、今の発言からしてやはり彼女は頭が悪いわけではないのだろう。

「誰の立ち位置がパッとしないって?」
「臨也の、立ち位置が、いまいち」
「ねえ、ほんとに酷いことするよ?」
「足つぼより?」
「足つぼより」

心なしかうきうきしているように見える彼女に気分が萎える。俺は彼女のことなど好きではないし、好きではないけどやらせてくれると言うのならやる。しかし俺にだって望むシチュエーションや守りたいプライドくらいあるのだ。優位でいたいお年頃というやつだ。

「あのさ。本当はいつも、私からふっちゃうんだ」
「……」
「別れたら、またここに来れるなって思って」

ほらやっぱり、彼女の頭は悪くない。

「さあ臨也くん、何か私に言うことは?」
「……パンツ見せろ」

もう見えてるけど。



2013.8.17

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