真理が必要だ、とは彼の言葉。
「言葉にする事で変わることというのは、思いの他多いのでしょうね」
まこと、と、ことわり、が揃った時、解き放たれるいう刀を指先でなぞりながら聞く。
「そう……でしょうね」
彼と出会って随分経つが、未だに彼の心は計り知れない。隣に座り何を見るともなく佇んでいる彼の、細くて白い指だとか不思議な色の瞳だとか、女の私よりも綺麗な線を生む首筋だとかに目をとらわれて、くらくらする。今日も彼は言葉少なに私の心をかき乱す。一方私のつむぐ言葉が彼の心を動かすことは無いように思う。私がどんな思い切った言葉を切り出そうが、心どころか、眉一つ動かさないのがこの男だ。 のれんに腕押し、ぬかに釘。
「この調子じゃ遠からず、二人の間にモノノ怪が生まれてしまいますよ」
そう溜め息を吐けば、ゆっくりと瞳だけ動かした彼と、目が合った。
「……さて、私とあなたの間にある、真理とは…?」
彼が嘯く。
「解き明かして進ぜましょうか?」
私は挑発に乗る。すうと息を吸い、彼がいつもするように、鮮やかに彩られた刀を目前に掲げる。
ずしりと重い。二人の間で装飾の玉がキラリと光った。
「私はあなたを好いている。……それが私の真」
「……」
「しかし想いを伝え合うことに長けていない二人は、それ故いつまでも同じところに踏み止まっている。本当は望む形が在るのにもかかわらず」
「……」
「それが二人の理」
少なくとも、今の二人を形作る理由。
「薬売りさん、言ってください」
「言う……とは……?」
「残るはあなたの真のみです」
それが解ればたちまちに、この『恋煩い』という恐ろしい化け物は消えて無くなりましょう。
「……はて、そんなモノノ怪が……いたものか」
「……もう! そうやっていつもいつもはぐらかして! 乙女にどれだけ恥をかかせるおつもりですか!」
「いやあ……妖怪ばかりを相手にしてきたせいか、人間の心は複雑すぎて……いけない」
「よく言いますよ」
モノノ怪を作るのは歪んだ人間の心。慕情、劣情、愛情、非情、人の心理などあなたは誰より知っているくせに。
「少なくとも……あなたは私に会うために、毎日こうしてこの茶屋に来る」
何も言わないなら、勝手に。
「そう思ってもいいんですね?」
「……そうです」
「……!」
「……かね。……どうですかね」
「ハッキリして下さい!!」
放たれるのはいつのことやら。
2008.?.?