彼には好きな人がいる。きっと。
山口くんは格好いい。
彼がイケメンじゃなければ誰がイケメンだ、というくらいにイケメンだ。なにも目を見張るような美貌の持ち主という訳じゃないし(それを言ったら昔馴染みの優山さんの方がイケメンだろう)多少目つきも悪いけれど、なんというか雰囲気にソツがないのだ。つまり「イケメン」というより「イケメン肌」だ。
まあなんにせよ、山口くんは格好いい。
だから多少ナルシストでもプライドが高くても自意識過剰でも、それは然るべきだと思うし、私はそれさえ彼のチャームポイントだと思っている。おそらく彼の周りの女の子の大多数がそう思っているだろう。よって彼はモテる。イケメンの短所は時として長所になりえるのだ。
「あれ、久しぶり」
「あ、優山さん」
「偶然だね。元気?」
「まぁまぁです」
そんなことを考えながら表通りを歩いていると、噂をすればのイケメンに声をかけられた。私は曖昧に頷く。彼は手に持っていた甘そうなマキアートを吸いながら、にこりと笑った。山口くんはこの人が大の苦手らしいけれど、なんとなくわかる気がする。
「そういえば、さっき山口さんとこの賢二くんを、駅の向こうで見たよ」
「……え!」
「また道にでも迷ってるんじゃない? 行ってあげなよ」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。まぁ俺としても、君が頑張ってくれた方が都合いいしね」
「そうですか」
相変わらず何を考えているかわからないけれど、まあこの人はこの人でいろいろあるのだろう。そういえば、弟くんは元気にしているだろうか。
*
「……山口くん、駅そっちじゃないよ」
「……知ってる」
彼には好きな人がいる。
彼の好きな人にも、好きな人がいる。きっと。
方向音痴は地図上だけだと思っていたのに、どうやら最近は心も迷走しているらしい。彼も意外と要領が悪い。そんな入り組んだ道を選ばないで、こっちに来てしまえばいいのに。なんで好き好んで片想いなんて……。
「はあ。私もけっこう、音痴かもしれない」
「は?」
「一方通行、突き当たり」
「……この道の話か?」
道に迷っている人とは思えない涼しげな顔で問われ、私はついそんなところも憎めないなんて思ってしまう。短所は長所。ピンチはチャンス。
「そう。だからそっち曲がって」
「あー。ところで、駅ってこんなに遠かったか?」
「もうすぐ着くよ」
さっきらからちょっと良心が痛むけれど、久しぶりに会えたのだからこれくらいは許してね。
公園の周り4周目
2011.?.?