アイツが合コンなんてしているところを見るのは初めてだったから、正直驚いた。
それなりにモテんのに彼氏も作らずぼんやりしている理由を俺は知っていたが、とくに何を言ってやるつもりもなかったし、ずっとそんな状態が続くものだと思っていた。
アイツがこんなところに来る理由なんて大方人数合わせのため渋々だとか、もしくは相手のレベルがよっぽど高いのか……と思い、野郎たちに目を移したが大したことはなく。
むしろいかにもなチャラさ加減に別の心配が過ぎった。場慣れしてない名前は、奴らのいいカモかもしれない。
そんなことを考えていたらせっかく久しぶりに当たりだったチーム女子を口説くにも気が散って、案の定名前が一番チャラい男に適当な理由で外に連れ出された時には、コップを乱暴に置きすぎて隣の女に引かれた。
何をやってんだアイツは。窓から店の外を見下ろせば、アイツは何やらぼんやりとしていて、迫られていることにも気付いていない。本当に、まったく、クソだ。俺は席を立ち、隣のテーブルに歩み寄った。
*
「なにアッサリお持ち帰りされそうになってんだよ……!」
「ごめん、なんかぼんやりしてるうちに……」
歩道脇に立ち止まり上着を着込み、名前と向かい合う。確かにぼんやりしているようにしか見えなかったが、本当にぼんやりしていただけとか、馬鹿じゃないのかこの女は。合コンにおける男子高校生の下心を舐めているとしか思えなかった。
「お前が好きなのは俺だろ? 何ウロウロしてんだよ!」
当然のつもりで言った台詞に、名前は一度目を見開き、呆れたように瞼を伏せる。
「私、山口くんを好きだなんて言ったこと一回もないよ」
「見てりゃわかんだよ」
「自信過剰。それに、いっつもウロウロしてるのは山口くんだし」
ふいとそっぽを向かれ、無性に腹が立つ。にこにこと笑いかけてくる綺麗どころの女子を置いて、俺は何でこんな女を相手しているんだ。馬鹿らしくなって、くるりと踵を返す。
「……どこ行くの」
「戻るんだよ!」
何も考えずに歩いていたから記憶が曖昧だが、確か店はこっちであっているはずだ。元来た道(だと思う)を引き返そうとすると、後ろから何やらイヤな声が聞こえる。
なにお嬢ちゃん彼氏にふられたのー? こんなに可愛い子もったいないね〜。オジサンたちともう一軒行く? オイお前、なに女子高生に絡んでんだよギャハハハ!
一瞬迷った末、チラリと振り返る。名前は相変わらず、何を考えているんだかわからない顔でぼんやりとしていた。
「………畜生!」
再び踵を返し、威嚇しながら彼らに近寄る。
なんで俺は女に不自由していないのに、自分の思い通りにならないような奴ばかり気になっちまうんだ。名前の腕を掴んでリーマンの間から強引に連れ去る。つい先程とまったく同じことをしている自分が、真性の馬鹿のように感じた。
「……山口くん」
NG集をやってるわけじゃねえんだよと思いながら振り返り、名前を睨みつける。今度は名前も目を逸らさずこちらを睨んできた。
「……ほっといてくれなきゃ困るよ!」
こっちだってほっとけたら苦労しないんだよ。なんだか面倒臭くなって、俺はそのまま名前の腕を引き寄せた。
つんのめった名前は俺の胸に手を付いて、顔を上げかけ、しかしそのまま下を向く。耳が赤かった。
ほら、やっぱり俺のことが好きなんじゃねーか。だいたいコイツが俺以外の男にどうこうされるとか有り得ないだろ。独占欲とかそういうことではない。コイツが俺を好きなくせにフラフラしてるから、親切で言ってやってるんだ。それ以上でも、以下でもない。
……と思っていたはずなのに、間近で顔を上げた名前の赤い頬と泣きそうな目があまりにアレで、気付いたら顎を持ちキスをしていた。
何をしている? 俺。
「……もし素直になったら、山口くんも優しくなるの」
「俺、は」
「好き」
反則的なタイミングの告白に、俺がもう一度キスをしたのは柄にもなく赤くなっている顔を見られるくらいなら、責任を取るほうがマシだと思ったからだ。
とりあえず、お前をぼんやりさせているのが俺なのはわかった。
2011.5.19