※r18
「起きたか?もう少し寝てろ」
彼の低い声が耳に届き、私はようやく自分が目を覚ましていることに気付いた。
夢の残像だと思っていた白い曲線は実際そこに存在していたもので、鼻先にある乱れたシーツの皺を指でなぞる。
たっぷりとした雪の上を誰かと並び歩いている。そんな夢をみていた気がしたが、もはや定かではない。
ぶるりと身体を震わせた。
「寒ぃか?」
晋助はベッドサイドに投げ出されたリモコンを手にとり、ピッと暖房を起動させる。
情事の最中あまりに熱くて電源を落とし、それきりだったのだ。さすがに素面の今は肌寒い。
下だけスウェットを穿いた格好の晋助は、吸っていた煙草を灰皿にキュッと押し付けベッドに脚をかけた。
布団をめくり、もう少し寄れ、と膝で私の太股をつんつん押してくる。シーツの冷えた部分に体を移動させると、彼はするりと隣に潜り込み再び布団を肩まで引き上げた。
枕の下に伸ばされた彼の腕に首筋を寄せ、誘惑的に窪んだ喉仏の下辺りに鼻先を付ける。
私たちはお互いの身体のおうとつと、それらを包む布団とをそれぞれ馴染ませるように身じろぎし、心地好く収まったところでどちらともなく息を吐いた。
温かい。
「明日早いの?」
「そォでもねぇ。まだ4時間は寝れる」
「そっか、よかった」
晋助の匂いをすんすん嗅ぎながら、少なくともあと4時間はこうしていられると知りたまらなく嬉しくなる。
寝るのがもったいないくらいに幸せだった。しかし心地好いと人はどうしても眠くなる。贅沢な悩みだ。
私は晋助の形を確かめるように胸元に手を当てて、鎖骨の溝や筋肉の割れ目を丁寧に撫でた。
「……もう一回するか?」
「…えっ、したい?」
「いや、誘ってんのかと思って」
「そういうつもりじゃなかったけど、別にいいよ」
「違ぇならいい。…いや、やっぱ無理だ。勃った」
脚を絡ませてきた晋助の、反応したそれが太股に当たる。
同じように胸の間をなぞられ、私も体が熱くなった。
私たちはさっきよりももっと深く、互いのおうとつを埋め合う。
自分の中に足りない何かがそこにある気がして、何度も何度も。
私の中の晋助が動く度、きゅうと切なくなり、たまらなく嬉しくなり、どこか懐かしくもあり、そして少し苦しくなった。そのうち何も考えられなくなり目尻が潤む。
この行為は恋そのものだと思った。
「しん、すけ」
掠れる声を振り絞り、名前を呼ぶ。
彼はなんだ?と問いかけるように私の頬に自分の頬を寄せ、ゆるゆると動いた。
私は呆れるほどたくさんの想いが胸に込み上げていたけれど、結局何も言葉にできずもう一度しんすけ、と名前を呼んだ。
もどかしくてくらくらした。
けれど彼も私の名前を呼び返し、そこからとてもたくさんの想いが伝わってきたから、私は少し安心する。
感じる快感も、伝わる愛も、出来るだけ同じ量だといい。
「熱ぃ」
彼はもう一度リモコンをベッドの下へ放った。
私はまた雪道の夢を見るかもしれないと思った。
そうしたら隣を歩く誰かの顔を覗き込んで、キスをするんだ。
おもいはつもり、あいにうまる
2010.12.13