大丈夫



リーマスくんは自分のことをシャイだと言う。シャイはシャイって言わないんじゃないの?と聞いたら、リーマスくんは笑いながら名前はシャイじゃないからそんなこと言うのさ、と言った。
よくわからない。
リーマスくんの言うことは大体にしてよくわからない。

私がそう言うと、彼はそれは僕が君のことを好きだからだよ、と言った。
やっぱりよくわからない。





「今日は合同実践訓練を行います。非常に危険なので、皆さん余所見をしないように」

防衛術の先生が厳粛な顔でそう言った。グラウンドには様々な学年の生徒たちが集まっている。

「名前、余所見をしないようにね」

リーマスくんがこちらを振り返りながらそう言った。彼はグラウンドの真ん中にいる。

「あ、危ないよ。余所見すると」

私が彼に言うが早いが、リーマスくんは垣根の向こうに吹っ飛んだ。

「先生大変です!ルシウス先輩のステューピファイがリーマスくんの頭に命中しました!」
「それは大変です、名前さん見てあげなさい」
「リーマス、リーマス、大丈夫?」
「うーん……大丈夫大丈夫、君のハートをアロホモラ」
「先生、ダメなようです!」
「いいえ名前、大体いつも通りよ」

横からリリーが言った。そうだったかもしれない。
ルシウス先輩はすごく申し訳なさそうな顔をして、リーマスくんを見ていた。ポーカーフェイスのルシウス先輩にしては珍しい表情だった。

「私のせいか?」
「気にしなくていいと思います」






先生の指示で一応看護室に運ばれたリーマスくんは、昼休みに見に行くと、気持ち良さそうに眠っていた。
すやすや。そんな音が出てくるような寝顔だった。健やかでインテリ肌のリーマスくんは、それに似つかわしくない傷をいくつか持っていた。
消えかけのかさぶたをなぞる。
彼はうん?と言って目を開けた。

「おはよう」
「……おはよう」
「ねえ。次薬学の授業だけど、大丈夫?今日は大事な所やるみたいだから、筆記用具持ってきてあげようか?」

横たわったまま鳶色の瞳をこちらに向けるリーマスくんの顔を、覗き込んで言う。

「大丈夫さ、僕にはこれがあるからね」

リーマスくんはポケットからチョコレートを出した。何がどう大丈夫なんだろう。

「リーマスくん、やっぱりもうちょっと寝てた方がいいよ」
「だから大丈夫だって」
「傷さ、さっきのじゃないね」
「うん……でも大丈夫だよ。僕は君がいれば、大抵のことは大丈夫なんだ」

リーマスくんはそう言って話をそらした。
やっぱりよくわからなかったけれど、私がいなきゃ大丈夫じゃないのだということは伝わった。私はそれならずっと彼のそばにいてあげようと思った。





「ねぇ、あなたは頭がいいのにどうして名前の前だとああなの?」

薬学教室の後ろの席で、リリーがリーマスくんに聞いていた。
リーマスくんは洋皮紙に羽ペンを走らせながら、だからそれは僕がすごくシャイで、名前のことをすごく好きだからだよ、と答えていた。

リリーはやっぱりよくわならない、という顔をしていた。



重症ですね

2010.12.30

- ナノ -