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○月10日
クロロ＝ルシルフル
晴れ

久しぶりに自分の物にしたいと思う女に出会い、手をつくしているのだが思うようにいかない。普段日記など付けないが、しばらく大きなヤマもないしこんなこと相談する相手もいないので、彼女を手にいれるまでの過程と心境をここに記そうと思う。
自分の持ちうる腕力武力権力などを使えば彼女を手にいれることも容易い。だがそれじゃあ少し頭が悪そうなので、とりあえず俺は知力にのみ頼っている。
彼女に好かれるにはどうしたらいいか。明日も検証と考察が必要だ。
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「やあ、お疲れだな。今日も残業か？」
「……そう凄く疲れてるの。だから会いに来ないで」
「ライバル会社のデータを盗んでやろうか？ そうしたら出世して仕事も少し楽になる」
「いらない……！ 会社ってのは盗賊団と違って、個人の年齢と性別と立場における微妙な力関係によって成り立ってるの。私一人のために勝手なことしないで。それに出世したら仕事が楽になるなんて怠け者の考えよ」
「ほう、なるほど。俺はお前のそういう責任感の強いところも好きだったりする」
「聞いてない！」
「聞いてくれ」



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○月11日
曇り

口説こうにも彼女は俺の話を聞いてくれない。彼女は気が短い。もしくは照れ屋だ。後者であることを望む。
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「食事でも行かないか？」
「行かない」
「どうして？ 今日はまだ早いし、腹へってるだろ？ 奢るよ」
「いらないってば」
「頑なだな。何もその場でとって食おうってほど、がっついちゃいないつもりだが」
「もう、うるさいな！ 幻影旅団だか温泉旅館だか知らないけど、何でも手に入るからって女もそうだと思わないでよ！」
「別に俺は何でも手に入るなんて思ってない」
「でも大抵のものは手に入るって思ってる」
「……まあ」
「私のこともそういう目で見てる。それが嫌！」



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○月12日
曇りのち晴れ

彼女の嫌がることが一つ解った。
収穫だ。物事は積み重ねが大事である。重要なことほど慎重に運ばねばならない。
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「俺の態度が尊大に見えたなら謝る。これでも結構必死なんだ。顔に出ないだけで」
「……つまり、毎日なんやかんや回りくどいけど、あなたは単純に私のことが好きなわけ？」
「……そうだな。動機の言語化はあまり好きじゃないが、ふむ、一言で言うならそういうことだ」
「きもい！ そういうところがきもい！」
「きもいとか言うな、傷付く」



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○月13日
曇り

きもいと言われた。
きもいという悪口は品がないし傷付くからあまり使ってほしくない。それに俺はきもくない。
もう寝る。
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○月14日
雨のち曇り

毎日来るところもきもいと言われた。なるほど。反省だ。俺はきもいのかもしれない。
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「……」
「……何？」
「……誰？」
「俺だよ俺」
「うそ！」
「今日はちょっと気分を変えてみようと思って」
「変わりすぎ」
「こっちの方がいいかな？」
「……どっちもどっち」
「これ持ってきたんだ。あげる」
「なに……？」
「ここのプリン美味いんだよ。甘いもの嫌い？」
「嫌いじゃないけどいらない」


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○月18日
晴れ

今日は髪を下ろして行った。
いつもより自然に話せた気がする。彼女が硬派系より軟派系の方が好きだというのは盲点だった。次からはこれで行こうと思う。つっ返されたプリンは自分で食べた。やはりここのプリンは美味い。俺が人に物を、しかもプリンをあげるなんてどれだけ貴重なことか彼女は解っていないようだ。まあしょうがないが。
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「……なによ」
「……いや」
「見てんじゃないわよう！」
「……酔ってないか？ 相当」
「酔ってないわよー！」
「はいはい。ほら、危ないから暴れるなって」
「んー……」


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○月20日
天気？ 知らん

やばい。寝れん。俺のベッドで彼女が寝てる。
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「……」
「おはよう」
「……」
「コーヒー飲む？」
「……たの」
「え？」
「やったの？ 私たち…」
「……どうだと思う？」
「ふざけないで、馬鹿！」
「馬鹿？……ああ、本当だな。馬鹿らしい。やはりこんなのは俺らしくない。慎重にことを運ぶなんてクソくらえだ。そうさ、お前の言う通り俺は俺の手に入らないものなんて無いと思ってるし、手に入れられないなら奪うまでだ。……というわけで今すぐ俺のものになってくれないか」



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△月10日
晴れ

しばらく付けてなかった日記が、彼女に見つかった。
やはりきもいと言われた。俺もそう思う。
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2012.3.22