設定は男装主人公です。年齢と身長は悟空とほぼ一緒です。
能力は黄昏の主人公と同じものを持ってます。
名前変換は「前世の名前(デフォルトは銀朱)」を変換してください。






残響メモリィズ。






 眼前に赤い花が舞った。否、それが花ではないのはわかってはいた。
 それはまるでスローモーションがかかったように俺の目の前で崩れ落ちていった。
 一体、何が起きた?

 崩れ落ちたそれを見れば見知った顔が苦痛に顔を歪ませていた。
 どうしてお前はこんなところで倒れている?
 どうしてそんなところから血を流しているんだ?
 どうして、こんなことになったのか。
 自問しても混乱している頭では答えがまるで帰ってくる気配はなかった。

「銀朱!」

 背後から怒鳴るような八戒の声で、俺はようやく起きている状況を理解することができた。銀朱は、俺を庇って妖怪に刺されたのだ。
 俺の目の前にいた妖怪は下卑た笑い声を上げて他の妖怪たちに見えるように刀を持った拳を高らかに上げた。

「やった、やったぞ!三蔵一行の一人を殺してやっ、」

 言い切る前に、妖怪の首が飛んだ。銀色の月は繋がれていた鎖と共に主の元へ戻っていった。

「三蔵、ここは俺達に任せろ!」
「猿の言う通りだ!ぼさっとしてねえで早く銀朱を連れてけ!」
「――ッチ、言われなくてもわかってる!!」

 未だに数の減らない妖怪たちを相手にしながら悟空と悟浄が怒声をあげた。俺は銀朱を抱き上げると戦線から離脱した。
 なるべく銀朱に振動を送らないように森の奥に向かって走る。なんて軽いのだろう、頭の片隅でぼんやりと思っていると、蚊の鳴くような声が耳元に聞こえてきた。

「さん、ぞ……降ろしてくれないか」

 言われた通りに木の根元に降ろすしてやると、銀朱は俺に笑いかけた。

「怪我は、ない?」
「――テメェ、馬鹿じゃねえのか!?俺を庇ってこんなになりやがって!」
「しょうがないじゃないか。勝手に身体が動いてたんだよ」
「それが馬鹿だって言ってんだよ!死にてえのか!」
「君が傷つくのは見たく、なかったからね……それに、ホラ」

 腹部に押さえつけていた手を銀朱はゆっくりと離した。刺し傷はみるみるうちに修復され、何事もなかったように元通りになった。

「ね、こんなことじゃ僕は死なないからさ。だから心配しなくても大丈、」
「ざけんじゃねえぞ」

 自分でも驚く程恐ろしく低い声。銀朱は俺を見て目を丸くしている。

「好きな女に庇ってもらって心配しねえ馬鹿、どこにもいねえよ……」

 好き。普段であれば、そんな言葉は容易く口には出さないだろう。だが、先程の惨状を見て、もうこの言葉を口にすることもなくなってしまうという絶望感に駆られたのだ。それと一緒に、俺よりも先に死のうとする馬鹿に、怒りも沸きあがっていた。
 絶望と怒り、相反する気持ちで高ぶっていたせいで、気付けば恥ずかしい言葉をサラリと言っていた。
 しまったと思った時は既に遅く。銀朱は俺を見て目を細めていた。

「物好きだよね、三蔵って。僕、どこからどうみても男なのに」

 銀朱はすっと手を上げると俺の頬に触れた。確かに姿格好は男そのもの。会った時から自分の性別を隠していた銀朱は、四人に女だとばれてからもずっと同じ格好をしていた。そのことについては俺は何も言わない。むしろ良いと思っていた。勿論それはおかしな虫が付く心配がないからだ。
 しかし脱いでしまえば男だと思っていた自分が馬鹿だと思うほどに女だった。悟空と同じ身長だというのに、重さも肉の付き方も全然違うのだ。
 俺は触れるその腕を握った。やはり男とは全く違う。白く、細い腕。触れたせいか、心臓の鼓動が早くなった気がした。

「……中身はどう見ても女だろうが」
「性格のこと?だったら三蔵には負けるなあ」
「殺すぞてめえ」

 身体のことだとは言えずに、悪態を吐き捨てると握っていた手を離して立ち上がった。

「大丈夫なら行くぞ。あいつらなら、終わってるころだろうからな」
「はいはい。まったく、せっかちだなあ」

 背後で「よっこらしょ」となんとも老人のような口ぶりが聞こえたが、すぐにドサリという音が聞こえた。
 驚いて振り返ると銀朱は体を木の幹に預けたままだった。

「――ゴメン。血を流しすぎたみたい。貧血で立てそうにないや」

 ヘラリと笑う銀朱の顔は心なしか青白かった。どうして早く気付かなかったのかと自分を心の中で責め立てた。

「仕方ねえな馬鹿犬。手ェ出せ」
「やだね」
「あ?」
「ねえ三蔵、血、分けてくれないかな」

 変わらずに笑い続ける銀朱にドキリとした。
 血を分けるだけだったら自分の指を少し傷付けるだけで良い。そうすれば銀朱の能力でそこから血を吸い上げることができるのだから。
 だが今の銀朱の顔は明らかに別の意味を含んでいた。それが判ったのは多分俺だからだろう。
 血を分けて欲しいなんてのは単なる既成事実だという事に。
 踵を返して銀朱の前に座り込んで瞳を見つめた。

「……口、開けろ」
「おや、三蔵サマからそう言ってくれるとは思わなかったなあ」
「わかってて言うんじゃねぇ。こうして欲しかったんだろ」
「ふ――っ、」

 俺は無理やり唇を押し割り、舌を侵入させた。口腔に広がるものは、この女しか持ち得ないような、甘ったるいような味。
  頭に熱が昇る。 歯車が外れたように思考が空回りする。
 瞳を固く閉じ、無我夢中になって深い口づけを続ける。男のように短い白色の髪がまとう甘い香りや、時折唇から漏れる切なげな声、胴に擦れるように触れてくる肌着越しの柔らかな胸の感触は、少しずつ、俺を狂わせていく。

「っ……、ん」

目の前の温もりが、たちまち俺の『砦』を焼き切らんとする。 無理も無い。愛しいと思う女と、こうして触れ合っていることに気持ちを揺さぶられるのは当然のことだった。だが、それは俺にとって悔しいものだった。こんな、女一人に感情を振り回され、自制心を壊されてしまいそうにだということが。
 今はただ銀朱が死に掛けていて、血液が足りないからこうやって分け与えているんだ、別にやましいことはしていないと自分に言い聞かせて銀朱から少し離れた。
 銀朱は俺を見上げながら、紅潮した顔や荒くなった息を隠す素振りを見せずにペロリと唇を舐め上げた。

「――おい、もう良いか」
「まーだ」
「いい加減にしねえと、」
「しないと、何?」
「……止められなくなる」

 くすりと妖艶に笑った銀朱の顔で俺は既に限界だった。

「……良いよ」

 首に手を回して再び口付ける。初めは柔らかい唇同士が触れ合う感触。銀朱の舌が唇をなぞってきて、ゆっくり押し開く。歯を舌で丁寧になぞられるだけで押し寄せる快感。強く吸われると身体の中の酸素まで持っていかれて息苦しいのに、もっと欲しいと思ってしまう。
 そんな時だった。遠くから必死に俺や銀朱を呼ぶ声がかすかに聞こえた。銀朱の血痕をたどってきているらしく、段々と声は近付いてくる。
 どちらともなく唇を離す。銀朱は少しだけ唇を尖らせて言った。

「――ちぇっ、もう終わりか」
「終わりかじゃねえよ!もう立てるのか?」
「ああ、もう充分だよ」

 銀朱は立ち上がって足についた土を払った。
 ピンピンしている銀朱を見て溜め息を吐いた俺だったが、ふと身体に違和感があった。先程と全く変わっていないのだ。それが普通といえば普通なのだが、銀朱に血を分けたというのに何も変わった気配はない。
 もしかしてコイツ、そう思って銀朱をじっと見つめると、返ったきたのは不適な笑み。

「――お前、さっきの嘘だったのか」
「さー、どーだろうねー?」

 人差し指を唇に当てて笑った銀朱に一瞬だけ呆気に取られたが、さの笑みを見て俺は口の端をあげた。
 三人の声は少しずつ近付いてきていた。

「……お前、今晩覚悟しろよ」
「楽しみだなあ」

 笑顔で睨み合う二人を見つけた三人は、ただただ不思議そうに顔を合わせたのだった。










88888hit!ここまできてしまった!

落ちなし!
「男装してるヒロインが三蔵を庇って怪我をする」というリクエストを頂きました。
まっっったく男装が生かされていない…申し訳ありません(泣
しかも微妙にエロ…
口調は本編の裏主人公?と同じにしてしまいました。あの人も一応男だし…
肉食系女子と僧職系男子(笑)
意外とアリだと思いました。
また書きたいかもしれないです。

皐月様、88888hitありがとうございました!





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