設定はハロウィンの続きです。




 バーナビーは目の前を暗闇に包まれていた。夜だからとか、目を閉じているからとか、そんな簡単な事ではない。

「――なんですかこの目隠しは」
「バースデーサプライズだから!」

 パオリンは元気に答えた。何も見えなくても、悪びれた様子ではないのが手に取るようにわかった。

「連れてく場所はそれを取るまで内緒よ」
「じゃあ、なんですかこの縄はっ!」
「お前が暴れるからだろ」

 仕方がなかったと言わんばかりの声色をして虎徹が言った。バーナビーは視界だけでなく、体の自由も奪われていた。
 本当に突然の事だった。バースデーパーティーを祝ってもらってから起きてしばらくしないうちに、何も言われずに突然目隠しをされたのだ。当たり前じゃないか、誰でも抵抗するに決まっている。そしてその結果がこれだった。手首だけでなく両手の親指まで縛りあげるなんてどこの軍隊だとバーナビーは思ったが、すぐに犯人が誰なのか検討はついた。こんな外せない結び方、シシー以外にありえない。
 なんで誕生日にこんな目に合うのだと思いながら溜め息を吐くと、隣から声が聞こえてきた。

「すぐに着きますから、もう少しだけお待ちくださいね」

 シシーの声は普段より高い声だった。バーナビーはすぐにシシーが自分の姿を面白がっているのに気付いて口元をひくつかせて言った。

「――シシー、後で覚えててくださいね」
「一体なんの事か、全くわかり兼ねます」

 再び可笑しそうにしらばっくれるシシーを帰ったらいじめ倒してやろうとバーナビーは固く心に誓った。
 どうやら車で移動しているらしく、パオリンとカリーナ、シシー、虎徹の声だけが聞こえてきていた。他の四人はネイサンの車に乗っているのだと虎徹は言った。なんとも男男しい車内だとバーナビーは苦笑いをした。
 しばらくしてブレーキの音が聞こえて車が止まった。
 前のめりになったバーナビーの身体を支えたのはシシーだった。

「大丈夫でございますか?」
「は、はい」
「よっしゃ着いたぞ!」
「ほら、降りて降りてー」
「ちょ、ドラゴンキッド押さないでください!」

 車のドアが開いた音がして隣にいたパオリンにぐいぐいと背中を押されて外に出た。その途端手首に巻かれていた縄の感触が消え去った。バーナビーは視界を遮っていた布を取り去る。
 鮮やかな電飾が辺りを煌びやかに照らしていた。
 入り口には大きなゲートがあり、大人も子供も楽しそうにそこに吸い込まれていく。

「ここ、は……」
「ゆー!」
「えん!」
「ち、だよ! バーナビー君!」

 まるで練習してきたようなタイミングの良さにバーナビーは驚いて一歩後ずさりした。ちなみに上からパオリン、虎徹、キースの順である。
 ネイサンたち益荒男組もいつの間にか合流していた。

「いやそんなのは見てわかりますけど……」

 あからさまに顔をしかめたバーナビーを見て、イワンがしょんぼりした顔で言った。

「バーナビーさんくらいの大人だと、やっぱり遊園地は子供っぽくて嫌だとか……?」
「行きたくないわけじゃないですって。皆さんは良いですけど、僕は顔をだしてヒーローをやってるんですよ? こんなに人の多いとこに来たら、混乱を招くかもしれないじゃないですか」

 現に一度シシーとショッピングに出かけた時はサインやら握手やらで買い物がままならなかったのだ。遊園地で同じような事が起こったら、他の客にも迷惑だろう。何よりも自分が面白くないのが嫌だった。
 後者は口にすると「お子ちゃまだなあ」と言われかねないので黙っておいた。というか、連れてくる前に何故考え付かなかったのかというのがバーナビーの本音でもあるが。
 ヒーロー一同は確かにと納得して困惑した表情を見せた。

「そりゃあ、そうだけどよ」
「どうしましょう」
「どうしようったって……なんとかしなさいよ、タイガー!」

 このままではせっかくのサプライズが終わってしまう。それだけは避けたいと主催者であるシシーと虎徹に視線が集中した。なぜかシシーはすうっと自然に虎徹に向けた。全員から送られてくる視線に虎徹は唸りながら帽子を取って頭をガシガシと掻いた。その時だった。何かを思いついたのか、虎徹は満面の笑みでバーナビーに近付いた。

「これでいけんだろ!」

 「我ながら完璧!」と豪語する虎徹の前で、唖然としているバーナビー。その頭にはハンチング帽が乗っていた。
 バーナビーは慌てて虎徹に言い返す。

「こっ、こんなのでいけるわけないでしょう!?」
「大丈夫だろ。顔覗かねーと、お前だってバレないバレない!」
「似合っているよバーナビー君!」
「お前それ、絶対誰にも触らせねえとか言ってたじゃんか」
「そうだっけか?」
「俺に一度も貸してくれなかったぞ。加齢臭でも染み付いてんのかと思ってたわ」
「はぁっ!? まだそんな歳じゃねーっつの! つか、俺から出てたらお前も出てるだろぉが。特にその胸元からな!」
「何ィ!?」
「ちょっとアンタたち止めなさい。あんまりうるさいと食べちゃうわヨ?」
「「スミマセンデシタ」」

 雌豹に睨まれた虎と牛は青ざめながら地に伏した。

「それじゃあ問題も解決したし、中に入ろっか!」
「え、ちょっと!」
「「おー!」」

 カリーナの号令に付いていくヒーローたち。
 バーナビーは山ほど文句を言おうとしたが、奔放な彼らを止めるのが無理だとわかり、目深に帽子を被って溜め息をついた。

「まあ、今日は仕方ないからこれで我慢しますよ」
「……嬉しそうですね」

 目深に被っても、身長の低いシシーにはバーナビーの顔がはっきり見てとれた。少し顔が赤くなり口元が綻んでいる。
 シシーに指摘されてようやく気付いたバーナビーは益々顔を赤くした。

「う、うれしくなんかないんですからねっ!」

 そう言ってズカズカと入り口に歩いて行くバーナビーを見て、ああこれが有名なツンデレかとシシーは頷くと、その後に付いていった。



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