相部屋−八戒編−
彼女は、僕の気持ちを知らない。
「パンダ!」
「ダックスフンド」
「ど!?ど、ど、どんこ……」
「川魚とはまた攻めてきますね」
自信ありげに、目の前のベッドに座って僕が次の単語を出すのを待つ姿は少女そのものだ。
「……コーラ」
「ら、らぁ!?もう、八戒さっきから難しいのばかり!」
そう言って腕を組んで唸った。僕はそれを見て笑った。
部屋割りでまさか一緒の部屋にされた時は、正直言って自分の理性が耐えられないと思った。僕は彼女に恋心を抱いているだなんて、三蔵達はおろか、目の前にいる人も知る由はないのだから、同じ部屋にされても文句は言えないのだから。
「あーもう無理!八戒もう寝よ?」
「……そうですね。そろそろ寝ますか」
「ふー。八戒と同じ部屋だとゆっくりできるから好きだぁ」
あぁ、もう。何を言うんだこの子は。
自分が好きと言われたわけではないのに、僕の胸はおかしくなったみたいに高鳴ってしまう。
伸びをしてベッドに倒れ込んだ無防備な彼女の白い首筋を見つめた。
「あ!」と、突然思い出した様に起き上がると、彼女はとても嬉しそうな顔をして僕を見て言った。
「ラモス!ほら出たラモス!」
「人名っていいんですかね」
「大丈夫大丈夫!ほら早くいわないと八戒の負けにしちゃうよ?」
彼女は首を傾けていじわるそうに笑った。
それだけで僕の胸がさらにおかしくなりそうになる。
冷静になりたくて、下を向きながら必死に「す」のつく単語を連想するが、一つしか浮かばない。ふいに口からその言葉が漏れてしまった。
「……好きです」
「えっ……?」
「……貴女と一緒の部屋でゆっくりできるのが好きですよ。さぁ、もう遅いですし寝ましょうか。しりとりは僕の負けですね」
僕はうまくはぐらかす事ができたと安堵した。
苦笑いをして顔をあげると、そこには顔を真っ赤に染め上げて、涙目になっている少女がベッドの前で棒立ちをしていた。
すぐに僕と目が合ったのがわかると、高速でベッドの中に潜り込んだ。
からかわれたと思ったのだろう。しかし自分の本心は言うべきでないとわかっていた。
もういっそ言おうかと口が開くが、それを押し込めて優しく名前を呼ぶと、布団の中から上づった返事が聞こえた。
「……おやすみなさい」
「……八戒の馬鹿、おやすみっ」
機嫌を損ねたお姫様は、顔をこちらとは反対にして一層縮こまって寝てしまった。
もう少しこうやってからかってみるのも悪くない。僕は目を細めてベッドへ入った。
彼女は、僕の気持ちをまだ知らない。