ふと目が覚める。僕はカーテンの間から差し込む朝日に思わず目を細めた。
 朝日が見えていると言っても、起きるにはほんの少し早い時間だった。他の部屋にいる三人は普段なら起きている時間ではないし、普段の僕だってそうだ。
 隣のベッドで寝ている延朱も例外ではなかった。今も尚、延朱はこちらを向いて規則正しい寝息をたててベッドに横たわっている。
 気付けば僕は延朱の寝顔に見惚れていた。閉じた長い睫毛が頬に影を落とし、小さく空いている唇は血色の良いほのかな赤色。白くて細い首筋が見え、肩が小さく上下している。ベッドの上に広がる髪も、まるで真綿の様だ。
 僕にだけ見せるその無防備な姿が可憐で愛らしいと思ったのと同じくして、きっと今朝も起きれば寝癖のついた髪に悪態を吐く姿を想像してくすりと笑ってしまった。
 僕の声に反応したかのように、延朱の眉が微かに動く。見つめていた事に気付かれぬよう、咄嗟に寝返りをうつ。
 延朱が起きる時間まで見ていた事に僕は内心驚きながら耳をそばだてていると、背後でもぞもぞと布擦れの音がした。
 延朱が起きたのだと察して、僕は自分でも笑うほど芝居がかった動きで仰向けになって息を吐いた。
 その動きに気付いた様で、延朱はこちらを見やった。僕と延朱の目が合った。

「――おはよ、八戒」
「おはようございます。延朱」

 まだ気だるそうな瞳を細めて、延朱はふわりと笑った。
 何気ないこの言葉が、どれだけ僕の心を高鳴らせているのか、彼女が気付くはずもなく。
 やはりというべきか、延朱の髪は寝癖と元々の髪質とも相まって、まるで綿菓子の様になっていた。
 同じ部屋になった時の特権とも言うべきか、普段見ることの出来ない姿を見て僕は朝から小さな幸せを感じていた。
 視線に気付いた延朱が首を傾げた。

「どしたの、八戒」
「いえ、なんでもないですよ。今日も中々すごい髪ですね」
「あー……最悪。やっぱり湿ったまま寝るんじゃなかった」
「昨日は遅かったから仕方ないですよ。梳かしてあげますから座ってください」
「――うん」

 うつらうつらしながらも延朱は自身のベッドに座った。
 僕を待つ延朱の姿も同じ部屋の特権で。楽しみで、嬉しくて、普段よりも良い朝になったと思う気持ちが顔に出ていたのか、延朱が目を細めて言った。

「なんだか八戒嬉しそう。良い夢でも見たの?」
「いえ、起きてから良い事があったんで」
「え、こんなに早く?」
「早起きは三文の得って、こういう事なんですねぇ」
「よかったねぇ」
「はい」

 僕は一層笑顔になって、延朱の髪に手を伸ばしたのだった。







次はあとがき



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