延朱はなんというか、変だ。

 ここ最近続いていた連続野宿の記録更新をストップさせ、俺たちは宿屋に泊まることができた。三部屋しか空いてなかったので三蔵以外の四人で部屋割りをすると、珍しく延朱と相部屋になった。勿論、三蔵はこの部屋割りに参加することなく一人部屋の鍵を閉めたのは言うまでもない。
 同じ部屋になった所で、延朱は相変わらず無防備にベッドで寛ぎながら本を読んでいる。

「なーなー、寝ないの?延朱ちゃん」
「もう少しで読み終わるのよ」
「そんな小難しい本読むのやめてさ、俺と一緒に夜の街に繰り出そうぜ」
「嫌。髪のこととやかく言われるし、変なの来るし、朝起きられなかったら三蔵に撃ち殺されるもの」

 変な所一つ目は、俺になびかない。これが一番なのは間違いない。俺が優しくこうして誘っても、一度も良い返事をもらった試しがない。そこら辺で引っ掛ける女のコなら二つ返事でついてくるんだけどな。
 そして二つ目はこれ。クソがつくほど馬鹿真面目な所。夜の繁華街に行くなんてもってのほかだし、こうやって俺が読んだら頭が痛くなりそうな本を好んで読んでいる。読めるようになるまで、更に頭が痛くなりそうな程に勉強しっぱなしだったし。
 博打なんてするわけがないし、俺がゲームでイカサマをした時は告げ口か倍返しだ。悟空と喧嘩すると確実に悟空に加勢するし、いらない揉め事にすぐ頭を突っ込むし。そこらへんは正義感が強いってことか。
 でも、そんな優等生のお嬢様なのか、と聞かれたらそうでもない。ちょっと前なんか悟空と二人で俺の顔に落書きしやがったし、たまに三蔵に、俺たちが言えば殺されるだろう啖呵を平気で言ってのける。
 三つ目は、俺が一緒にいたいと思わせる“女”だということ。
 母親の一件があってから、女というもを避けてきたはずの俺が、延朱によってその既成概念を覆されたのだ。
 初めの頃は、女だから一線を置きたくて、延朱にわざと不埒な真似や、嫌われるような事を言っては見たが、全く相手にされなかった。というか気付いていなかった。その事にも驚かされたケド。
 さらには、その一線を気にする事なくずかずかと歩み寄ってくる。それこそ初めは鬱陶しいと思ったが、今では嬉しくて、心地よい。
 自分を捨てない女。そんなものに会ったのは、生きてきて初めての事なのだ。
 こうやって色々と観察していて思うのが、最近、八戒の視線がよく延朱に行くという事。それに気付いていながら、心惹かれている俺がいるのも事実で。
 俺よりももっと前からアイツは延朱の事を好きになっていただろう。それがなんだか悔しくて、羨ましく思える。

「延朱ちゃーん、さみしいから添い寝してくんない?」
「馬鹿なこと言わないでちょうだい」

 延朱は眉をひそめると、顔を逸らした。
 こうやってまた、わざと延朱を俺から遠ざける。
 親友の為一割、俺の為九割。
 これ以上中に入ってきてほしくない、俺の精一杯の悪あがき。それなのに。
 本を閉じて簡易棚の上に置くと、延朱は俺のベッドに座って微笑んだ。

「でも寝れないって言うなら、眠くなるまで一緒にいてあげるわよ」
「――そんな優しい事言われたら、悟浄サン襲っちゃうかもよ?」
「しないわよ。だって悟浄は優しいもの。でも本当に襲われそうになったら、本物の河童にしてあげるわ」
「延朱さん、それどーゆーことで、」
「縛り上げててっぺんザビエル」
「絶対致しません!」

 やっぱり延朱は変だ。
 でも、そういうところも含めて良い女だってことだろ。





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