***10***
『ボンジュール、ヒーロー。今回の相手はネクストよ。ダイヤモンドで身体を包み込む能力らしいわ』
PDAから流れてくるアニエスの情報に、虎徹はバーナビーの機嫌を伺いながら言った。
「そりゃ硬そうだな。どうするバニーちゃん?」
「――もう僕にかかわらないでください」
機嫌の方は最悪のようだ。脇目も降らずに走るバーナビー。
「貴方が関わるとろくなことがない。これからはコンビだと考えず、僕一人で何とかしますから」
近くで待機していたトレイラーに乗り込むと、二人は早速スーツを装着した。
バーナビーはスーツの胸元に、前にはなかったマークがある事に気付く。どうやら自分のスーツを模したマークのようだった。兎に見えなくもないところが少し憎たらしい。
『それはオマケだよ!! バーナビーが誕生日だと聞いてスーツを改造しておいた! ついでにタイガーもな!』
いつもは耳をそばだてて聞いても聞き取れるかくらいの斉藤の声が、スーツを着用してマイクを通すだけでテンションが高くうるさい事に虎徹は驚きながら、二人は出動したのだった。
『おーっと最初に登場したのはキングオブヒーロー、スカイハイ!』
ヒーローの活躍はテレビで生放送されている。その声はPDAからも聞こえてくるのだった。
逃げ出した男たちの名前はポーリー一味。宝石を盗む窃盗団だと、テレビのアナウンサー、マリオが鼻息混じりで言っていた。
追跡していたヘリコプターよりも高い位置から、スカイハイはポーリー一味の乗った車を見下ろしていた。
「君たちのせいで練習した芝居が無駄になってしまった。折角覚えたのに!!」
一生懸命に書き上げた台本が台無しになったと、持っていた台本をくしゃくしゃに丸めて捨てた。
そんなスカイハイをよそに、ポーリー一味は尚も逃走を試みていた。
スカイハイの怒りのこもった攻撃が、車に向かって猛烈な風を纏いながら突っ込んでいった。
車は風にあおられ、その場で何度か回転すると、上下が逆になったまま止まった。
今のうちだとスカイハイは車に近付いたのだが、ポーリー一味は用意していたジェットパックを装着すると飛んでいってしまった。
逃げおおせたかと思い、地上に戻ってきたポーリー一味だったが、三人の前に虎徹とバーナビーがたちはばかった。
『だあーっと! ここでタイガーアンドバーナビーが能力を発動! 五分間のハンドレットパワー開始です!!』
「散らばれ!」
ポーリーの呼びかけに再度ジェットパックで空に逃げようとするが、一味の一人は飛び立つ前にスカイハイによって捕獲されたのだった。
『スカイハイが捕獲だー!』
「次行くぞバニー! ってあれ、バニー、バニー!?」
逃げた他の男追おうと虎徹はバーナビーに呼びかけたが、既にそこにはいなかった。
テレビは逃げた男の片方にカメラを向けた。
キョロキョロと辺りを見渡していた男の前に、スポットライトで照らされたボディラインの綺麗なヒーローが現れる。全身に青色の装飾を纏ったヒーローは手から氷を出すと男を鉄柱に叩きつけた。
『もう一人の犯人を捕まえたのは、ブルーローズだああ!』
実況のマリオは興奮気味に叫ぶ。スポットライトとカメラの前で、ブルーローズはポーズをとった。
「ワタシの氷はちょっぴりコールド。あなたの悪事を、」
「遅かったわあ」
ビシッと台詞に被ってきたのはファイヤーエンブレムだった。炎をイメージした愛車に乗ってようやくかけつけたようだ。
「ちょっと!決め台詞くらい言わせてよ、」
「わたしだって!!」
「「え?」」
思わぬところからの叫びに二人は上を見上げた。そこにいたのはスカイハイ。
「決め台詞が、言いたかった。ずっと待ってたのに……路地裏で一人、佇むわたし、とても寂しかった……」
マスク越しというのに激しく落ち込んでいるスカイハイを見て、ファイヤーエンブレムは優しく言った。
「じゃあお詫びで残りの犯人譲ってあげるワ、捕まえてきたら?」
「いや、遠慮しておくよ。ここは彼らに任せてみようじゃないか」
「二人に?」
「だって今日は、特別な日だよ」
マスクの中でも笑っているのがわかる程、スカイハイは優しい声で言った。
その言葉にブルーローズとファイヤーエンブレムは、お人好しだと肩をすくめながら笑い返したのだった。