それから二人は、近くのショッピングセンターで色々な物を見て回っていた。
 主に女性用の、シシーの服や靴を見ていたのだがバーナビーは行く先々でファンからサインや握手を強請られた。しかしそこはバーナビーの愛想のよさと笑顔で軽くあしらうことが出来ていた。
 それよりもすごかったのは男性からの視線だった。勿論それはシシーに対してだった。恋人がいる男性ですら、すれ違い様に目で追ってしまい、恋人に叩かれるという姿を今日だけで十回は見ただろう。それ程に魅力的だというのにシシーは全く気付いていない。ただ、見られてるとでも言おうものなら、シシーはこの場で逃走をはかり、一瞬で消えてしまうだろう。鈍感で良かったと思いながら、物珍しそうな顔をして色々な物を見て回るシシーとバーナビーはウィンドウショッピングを続けていた。

「あ、あの……」
「どうしました?」
「やっぱり視線が、痛いです……」

 一通りショッピングを終えてから、二人は大手の喫茶店に入った。が、やはり顔を見せて活躍しているヒーローがいると喫茶店にいる全員の視線を浴びていた。
 慣れているバーナビーは、後々話しかけてきそうな女性と目を合わせて、ウィンクしたり手を振ったりと、愛想を振りまいている。
 ずっと俯いたままキャラメルラテを飲むシシーを見て、バーナビーは無理やり一緒に外出した事を少しだけ後悔していた。

「……すみません、僕と一緒だとつまらないですよね」
「そんな事はありません。ただ、バーナビー様の職業と顔立ちでは致し方ないかと。ですが」
「ですが?」
「――若い男性にまで人気があるのですね。尊敬に値します」

 頬杖をついていたバーナビーの腕がズルリと滑る。その視線は確実にシシーに行っている! と喉元にまで来て口から出ようとしたが、それをぐっと飲み込んだ。言おうものなら、ここで赤面してダイナミック直帰をしかねない。

「き、きっと皆ヒーローになりたいんだと思いますよ。男は皆そうですから」
「さようでございますか。それならバーナビー様の男性人気も納得できます」
「はは……」

 鈍感な少女は再びキャラメルラテを口に運んでいた。そんな少女にバーナビーは乾いた笑みをこぼした。
 不意に携帯電話に搭載されているカメラのシャッター音が耳に飛び込んできた。音のした方を見ると、若い学生風の男が数人、こちらに向かってカメラを向けていた。
 シシーからは見えないので気付いていないようだが、明らかにこちらにカメラのレンズは向いておらずシシーを撮ろうとしているようだ。
 シャッターを押した瞬間、シシーがカップを口に運んだので一度目は失敗したようだが、バーナビーはその姿が無性に不愉快に思えた。

「――そろそろ出ましょうか」
「え? でもまだ残りが、」
「そんなもの、今度僕が買って帰りますから」

 今一度撮影しようとしたカメラの前にシシーを隠すようにしてバーナビーは立つと、喫茶店を後にした。

「バーナビー様、腕が痛いです」
「っ、すみません!」

 喫茶店から無理やり飛び出してきた時に、無意識に掴んだ腕をバーナビーはすぐに離して謝った。

「どうなされたのですか?」

 シシーが訊いた。バーナビーは自分でも、よくわからないでいた。
 不愉快だった。腹が立った。ただ、その気持ちがどうして沸いたのかわからないでいた。説明しようにも、言葉にできない感情にバーナビーが黙っていると、シシーが先に歩き出した。

「ど、どこに行くんですか?」
「帰る事に致します」

 嫌われてしまったか、怒らせてしまったか。無理もないと、バーナビーは笑った。
 外に連れ出して、あまり相手もせずにファンにばかりかまけて、それでいて自分の都合で振り回してつれ回すなんて。
 さすがのシシーも呆れて一人で帰ってしまうのは当たり前だと、自分勝手に行動した事を悔いた。
 俯いているバーナビーの腕を、白い手が掴んだ。顔をあげるとシシーと視線がぶつかった。顔を見られたせいですぐに俯いてしまったが、シシーは小さい声で言った。

「――バーナビー様も、でございます。一緒に帰るのです」
「僕も?」
「今日は、あの、色々な方とお話されて、疲れているようですので……」
「ディナーは?」
「家にあるものでなんとかするので、ご心配なさらないでくださいまし」
「……わかりました」
「あの!」

 シシーは、掴んでいる手に力をこめた。顔は見えないが、耳まで真っ赤にしている。

「今日は、楽しかったです。私こういった場所に来たのは初めてで、連れてきていただいてありがとう、ございました……とても、嬉しかった……です……」

 どんどん小さくなっていく声だったが、バーナビーの耳には確かに聞こえていた。先ほどの気持ちとは打って変わって、晴れ晴れとした嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「そうですね、帰りましょう」
「――はい」

 バーナビーは握られていないもう片方の腕で、シシーの手を取って歩き出す。

「外で食べれなかったから、今日は一緒に食べませんか?」
「でも、食事を一緒にとるのは使用人として違反でして、」
「じゃあ、僕も食べません」
「ええ!? それは困りますっ……そういう事でしたら」
「素直で結構。夕飯何にするんですか? 僕も手伝いますよ」
「それば絶対になりません!」

 二人で手を握り合って歩く姿は、傍から見ればまるで恋人同士のそれだった。道行く人はヒーローの姿に驚いて見つめていた。
 その視線の中に、一人の男のものも混じっていた。

「え、あれ? え? あれ、バニーじゃね?」

 自問自答しながら、男は柱の陰で相方の楽しそうな姿を見つめていたのだった。




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