140 | ナノ




「アルバさん!なぁに!?これ何作ってるの!?」
「からあげだよ。ルキ、好きだろ?」
「やったー!今日はからあげー!」
「あ、危ないって!火傷したら大変だからできるまで向こうに行ってて!」
「はぁい!今日はからあげ〜!からあげからあげ〜!」

「随分ご機嫌だな」
「ロスさん!今日の夕飯はね、アルバさんがからあげ作ってくれてるの!」
「…からあげ」
「アルバさんのからあげ、美味しいんだよー!…って、ロスさん?」
「…でかいやつはオレのだからな」
「…何言ってるの。レディファーストでしょ」
「太るぞ」
「成長期だもん」
「「……」」

「(ボクがからあげ揚げてる間にあの二人に何があったんだろう…)」

20150215








「初めて会ったときのことを覚えてますか」

唄うようにそう問いかけられたのは、あたたかな春の日のことだった。珍しく過去を振り返るような問いかけに、思わず彼を凝視してしまう。
彼はそんなボクと目を合わせると小さくくすりと笑い、どうなんですか、と再度問いかける。覚えてますか、だなんて。

「覚えてるに決まってる」

今日のようなあたたかな春の日。美しく豪奢な城の、だだっ広い玉座の間。一際目を引く男がひとり。
細身に大きな装備を背負って、旅立つ人々を見送りながら大きな欠伸をしていた。王宮戦士のロスです、とボクに向かって彼が手を差し出した、あれは一体どれほど前のことだろう。

「勇者さん、あんなにちっぽけだったのに」

くすり、くすくす。彼は心底おかしそうに笑い声を上げる。
ニセパンダはおろか、スライム一匹すらまともに倒せませんでしたね。泥だらけで剣に振り回されて、オレからの攻撃だってまともに受けてましたね。ああ、それが止めで気を失ったこともありましたっけ。

「お前はボクを痛めつけて楽しんでただろ」

お陰で背後からの攻撃に気を張るようになったし、耐性だって少しは付いただろうけれど。そんなことを言ってたまるか。
言葉を飲み込んで、ボクは笑う。彼はボクの飲み込んだ言葉をするりと抜き取って、そうして自身に沁み渡らせるようにまたくすりと笑った。

「オレは世界一、どの時間軸にいる人間よりも、幸福でした」

人より少しばかり変わった人生を歩んだお陰で、心から大切だと思える人にたくさん出会えました。
たくさんのことを学びました。たくさんの幸せを知りました。たくさんの宝物を手にしました。たくさんの奇跡を目の当たりにしました。彼は言う。

「ボクだって、誰よりも幸せだったさ」

単なる村人Aだったボクが、人と出会い、世界と出会い、過去や未来と出会い、幸せや奇跡と出会い、たくさんの、本当にたくさんの光と出会い、そうして、勇者としてここに立っていること。生きたこと。
誰にも負けない幸福を、ボクは今、間違いなく手にしている。

「勇者さん」

彼がボクを呼ぶ。昔から変わらない呼び名で、ボクを呼ぶ。

「なんだよ、ロス」

だからボクも彼を呼ぶ。昔から変わらない呼び名で、彼を呼ぶ。そこにはふたりにしか見えない絆があるんだね、といつか魔王の少女が言った。
ボクと彼は顔を見合わせて笑った。そんなものはないさ、と笑った。

「オレの生きた世界がここでよかったと、心から思います」

この美しい世界で、多くの人と出会い、笑い合い、歩み、幸せを掴めてよかった。そうして、オレを救ってくれたのがあなたでよかったと、心から、思っています。
だから、ありがとう。彼があまりにも穏やかに笑うから、ボクは遂に泣いてしまった。

「お前がボクを選んでくれたから、ボクは勇者になれたんだ」

だから、礼を言うのはボクの方だ。
弱っちくて泣き虫で、何の力も知恵もなかったボクにも、大切な人を救うことができるのだと、その勇気が眠っているのだと、勇者になれるのだと、教えてくれてありがとう。
ボクは初めて、彼が泣くのを見た。

そろそろ行きますか、と彼が言う。ボクは先を行く彼の隣に立って、そろそろ行こうか、と応えた。
振り返る。そこにはたくさんの仲間が立っていて、たくさんの思い出が、きらきらと輝いていた。
ボクと彼は、笑って、前を向く。そうして次の一歩を、踏み出した。歩き出す。

これは、ボクと彼が、歩き出した話。

((いってきます!))
(いってらっしゃい!)

【(せんゆう4章完結おめでとうございます!!)】

20150228








「勇者さん」
「アルバさん」
「甘いものが足りません」
「このままじゃ私たち死んじゃうよアルバさん」
「禁断症状が出ます勇者さん」
「甘いもの」
「甘いものが食べたいです」
「アルバさん」
「勇者さん」

「わかった。わかったからそのチワワのような潤んだ目でこっちを見るのやめて。なんでか罪悪感が芽生えるから。お願い。ダッシュでケーキ買ってくるから。な?」

【城下町の有名なお菓子屋さんの前で張り込んでれば月に2,3度の頻度で勇者アルバに会えるよ!勇者アルバは突然真っ黒な穴から飛び出してくるから頭上には注意することだ!】

20150324








さよならは嫌い、と君は目を細めた。僕はそんな君を見つめて、きっと困った顔をしたのだろう。君はくすくすと笑い声を上げた。
さよならは嫌いよ。だって、さよならを交わしてしまったらもう会えないじゃない。僕は、そんなことないだろ、と言う。君は一粒だけ涙を零して、嘘つきね、と不器用に笑った。

さよなら、と。その言葉だけ残して、あなたは私を置いていくわ。あなたは一度だけ私から目を逸らして、そうして少しだけ嬉しそうに笑う。
また会えるから、もう泣くなよ。乾いた私の頬を撫でる手は温かくて、縋りたくなる。離したくないと思った。さよならを言うくせに、なんて幸せそうに笑うのかしら。

だからね、私は。頬を撫でる彼の手を掴んで、握り潰さんばかりに力を込めて、ぎょっと目を剥く彼に向かって微笑んで、こう言ってやったの。
そんなに嬉しそうに笑うくせに、さよならなんて許さない。逃すもんですか。彼はますます目を見開いて、諦めたように、殊更幸せそうに笑ったのよ。
ざまあみろ!

【レオくんはミシェーラちゃんにさよならを言うことを考えたことがあったらいいしミシェーラちゃんはそれに勘付いて絶対さよならなんか言わせないってレオくんの手を握っててほしいなと思いました】

20150612








ボクには神様からのお告げが聞こえる。そう言ったらお前は、何ですか厨二病ですかやめてください外で変なこと言うの、とすぐさま全否定したよな。
そうなるだろうことは想定内だったので、ボクは、だよな、と一言相槌を打つだけで終わったのだけれど。覚えている?ああ、覚えていないようで安心したよ。

覚えていないようだからもう一度言うけど、ボクには神様からのお告げが聞こえる。こんなことで嘘をついてどうするんだ。その微妙な顔、やめてくれよ。悲しくなるだろう。
証拠を見せろって、そう言われることも想定内だから、ボクは神様から、お前に対するお告げを貰っておいた。いいか、よく聞けよ。

ひとつ、人を愛しなさい。人を愛した分だけ、人に愛される人間になれるでしょう。
ひとつ、努力をしなさい。努力をした分だけ、必ず報われる日が来るでしょう。
ひとつ、夢を持ちなさい。夢は今日を生きる活力になるのだから。
ひとつ、笑いなさい。何があっても笑っていればなんとかなるでしょう。

ひとつ、前を向きなさい。あなたの前には光が溢れているのだから。
ひとつ、苦しみや悲しみから逃げてはなりません。それらがあったから、今のあなたがいるのです。
ひとつ、あなたらしく生きなさい。仮面を被る必要などないのです。
ひとつ、幸せになりなさい。幸せを、幸せと受け止めなさい。

あなたが今ここにいることは奇跡です。
あなたが今ここで生きていること、笑っていること、怒ったり悲しんだり苦しんだりしていること、幸せを享受していること、あなたの隣にたくさんの人がいて、たくさんの人と手を繋げること。
それらはすべて奇跡であり、真実であり、当然で必然のことなのです。

人を愛しなさい。そして自分を愛しなさい。
自分を受け入れ、抱き締め、手を繋ぎなさい。
温もりを分け合って、悲しみや苦しみに溺れるあなた自身を、あなたの手で、幸せにしてやりなさい。

なんだよその微妙な顔。信じてないだろう。これは、歴とした神様からのお告げだ。
神様からのお告げなんて、きっとボクにしか聞こえていない。だけど、神様はボクらを見ていて、ボクらが生きていられるように、そっと側に寄り添ってくれてるんだ。
ねえ、だから、そんな顔しないで、信じてくれよ、ロス。

そうやって、神様になったあなたが泣きそうな顔をして笑っていたから、だからオレは神様なんて信じないし、神様が寄り添ってくれているなんて嘘だと知っていたし、あのお告げは、神様からのお告げなんかじゃなくて、あなたからの言葉なのだと正しく理解していた。

そんな嘘に塗れた言葉なんて、受け取ってやる気はさらさらない。勝手に人の幸せを願って勝手に神様になったやつの言葉など信用できない。信仰心なんてくそくらえ。
そんな勝手なことしかできない神様なんて、無理矢理に地上に引き摺り下ろされて、神様を愛した人たちに手を繋がれていればいいのだ!

(自分勝手に神になった勇者を地上へ引き摺り下ろして、ただの人間へと戻すまで、神様からのお告げを聞き入れることはできそうにない!)

20150706











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