140 | ナノ




【アルバ「空月さんは『レッドフォックスと幼少期シオンで手をつなぐがキーワードな話を描いてみたらどうかな?かけたら見せてね!」 http://shindanmaker.com/372409】

夢を見ていた。ボクが知っている彼よりも随分小さな彼の夢だ。
彼は何でもない日常を楽しそうに生きていて。ボクは、彼がこんな風にあどけなく笑う姿を一度も見たことが無かったのだなあと改めて感じた。
このときの彼はちゃんと幸せだったのだな、と。今の彼はなにを思っているのかな、と。そう思って。

気付いたら手を伸ばしていた。小さな彼の手に触れていた。
ボクはちゃんと彼のことを迎えに行けるのだろうか。不安になって、今このときだけでも、あのとき掴めなかった手を掴んでおきたくて。
夢の中だからそんなことできないと知っていたけど。

「あんた誰?」

触れた手は、小さくて、あたたかかった。

「シオンはさ、今楽しい?」
「楽しいよ」
「じゃあ、未来のお前は?」
「楽しいんじゃないの」
「どうして」
「だってそこにはきっと、オレが望んでる未来があるんだろ」

小さな手がボクの手を握り返す。ボクもその手を握り返す。そうか。

「じゃあ、ボクはやっぱりお前の望んでる未来を迎えに行かなきゃな」

繋いだ小さな手があたたかかったから。未来を見ているお前の目が変わらず真っ直ぐだったから。
お前にだってあんな笑い方ができるのだと知ってしまったから。ボクがお前ともっと話したいから。
もっともっと未来の話をしたいから。理由なんてそれだけで充分だろ。

「絶対に迎えに行って、一発ぶん殴る!」

20140112








殺してください。男は言った。殺してください。死んで楽になりたいんです。だから殺してください。
自分じゃ死ねないんです。自分の命を自分で奪うことができないんです。だから殺してください。男は切々と懇願する。
殺してください。お願いします。ボクは男の肩に手を置いて、笑った。それはできない。

殺してください。少年は言った。殺してください。もう生きているのが嫌なんです。
いつまで続くか分からない追いかけっこを続けることも、見えない未来に希望を抱くことも、夜眠れないことも。もう嫌なんです。少年は滔々と涙を流す。
殺してください。ボクは少年を抱き締めて、笑った。それはできない。

殺してください。男が、少年が、あいつが、彼が、泣いている。殺してください。殺してください。生を終わらせてください。もう終わりにしてください。
誰か、どうか。泣いている。
そんな青年の、今にも折れそうな細い背中に。ボクは渾身の力を込めて、飛び蹴りを放った。甘ったれるな、死んでも生きろ。

責任取ってください。青年が笑っていた。あんたがオレの背中に飛び蹴りなんか食らわしてきたせいで。死ぬより大事な使命ができました。
あんたを殺す一歩手前まで痛めつけてからじゃないと死んでも死にきれないですからね。
責任取ってオレに殺されてください。ボクは腹を抱えて笑った。それはできない。

【殺してくださいってお願いされても絶対に殺してやらないし一緒に死のうって言われても絶対に一緒に死なないし殺されてくださいって言われたって絶対に殺されてやらないくせに生きろよって一方的に投げつけて死ぬことも殺すことも殺されることも許さないあるばさんまじ勇者】

20140113








疲労困憊、満身創痍。足には力が入らない。剣を握る腕も痺れて動かない。
どれくらい血を流したか。どれくらい走ったか。頭が重い。もう動きたくない。それでも、それでも。諦めるわけにはいかない。
ボクが諦めたらすべて終わってしまう。そんなの嫌だ。まだ歩ける。足に力を入れて、ほら。まだ走れる。

20140115








君とボクとがここにいて、出会って息をして、同じものを見て笑い合える奇跡を生んだ世界なら、どんなに汚くてもボクの知らないところでどんなことが起きていようともどうしようもなくても、それでもやっぱり世界を美しいと思えるし、ボクと君とを出会わせてくれた世界をただ愛しいと思ってしまうんだ。

(ハローグッバイ・ネバーエバーワールド!)

20140119








「よく頑張ったな」

小さなオレを抱き締めた。小さかったオレは泣きながら笑った。

「もう大丈夫だ」

少しだけ大きくなったオレを抱き締めた。やつれた顔をしたオレは泣きながら笑った。

「未来はもうすぐそこだ」

今とほとんど変わらない姿をしたオレを抱き締めた。装備を外したオレは泣きながら笑った。

ひとつひとつ、オレが辿った軌跡を追い掛ける。あの時もその時も、必死に生きているオレがいる。
彼らを忘れたりなんかしない。彼らの涙を棄てたりしない。彼らを拾いあげて、腕の中に閉じ込めた。
腕の中の彼らが、幸せなのかと問い掛ける。幸せそうな顔をしたオレが、幸せだよ、と泣きながら笑った。

20140119








あめが降ってきた。ばらばら。ころころ。びっくりして顔を上げたらちょっとだけ不機嫌そうなあいつがいた。
なんだよその顔。あめは止まない。降り注ぐ。ぐすり、鼻を啜った。すいませんでしたね。
降ってきたあめをひとつ手に取って、かさり、開いて。口に放り込む。仕方ないな、甘いから、もういいよ。

20140126








「お揃いだ!」
「お揃いだね!!」
「オレ達仲良し?」
「仲良し!」
「ふへへ」
「えへへへ」
「お揃いだよ!アルバさん!」
「お揃いだよシーたん!」

「……」
「いだあ!!照れてるのは分かったからいちいちボクのこと殴らないでよ!!」
「うるさいです勇者さん」
「いだだだだっ!!」

20140126








「おいしい?」
「まあまあですね」
「こっちは?」
「…まあまあです」
「じゃあそれは?」
「……まあまあ」
「これもおいしいと思うんだけど」
「……」
「ねえこれ、」
「煩いですよあんたは黙って食事もできないんですかいいから黙って食えこのカス」
「ええー、だって。お前があんまりにも楽しそうだから」

【いっぱい食べるろすさんの本がほんとにほんとにときめいてろすさんにいろんなもの食べさせてあげたくなった】

20140224








誕生日プレゼントをあげます。オレが呼んだらそこの鍵を使って扉を開けて、自分で外へ出てください。
時刻は深夜3時。今にも落ちそうな瞼をこじ開けた先に見えたのは、何やら神妙な顔をした家庭教師だった。
彼はボクにそう告げるとさっさと外へ行ってしまう。遠ざかる足音に首を傾げた。一体何なんだ。

数分が経って、数十分経って。それでも呼ばれることのないボクの名前。
こんな時間に叩き起こしておいて、もしかして勝手に帰ってしまったのだろうか。理不尽さに怒りすら込み上げてきて、ボクはヤケクソになって叫ぶ。
もういいかい。わんわんと反響する声。もういいよ。笑いを含んだ答えが返ってきた。

鍵を手に取って、扉の外側に取り付けられた南京錠に鍵を差し込む。がちゃん。重いような軽いような音を立てて鍵が開く。
手で押せばいとも簡単に扉が開いて、ボクは一歩、足を踏み出した。
暗い洞窟を通って、外へと、向かう。淡い光。大きな満月を背負って振り返った彼の赤い瞳が、柔らかく弧を描いた。

「あなたにあげたいものがありました」
「それは時間です。それは自由です。それは愛で、笑顔で、涙で、日常で、そのすべてを、あなたにあげたかった」
「あなたにプレゼントがあります」
「それはこの世界です」

満月を背負う彼は、酷く幸せそうに微笑んでいた。

「おかえりなさい、勇者さん」

飛び出した世界は、それは美しく、少しだけ肌寒く、やわらかく、優しく、いつもと変わらず、そこに。ただ、そこに。

「誕生日おめでとうございます」

今日から貴方は自由です。さあ、何処へでも行きましょう。彼が笑って、ボクも笑う。
深夜3時の卒業式を、新たな門出を、大きな満月だけが見ていた。

(ハッピーハッピーバースデー!)

(鍵を開けたのも扉を開いたのも、呼んだのも足を踏み出したのも、全ては貴方自身。)
(おはよう、おめでとう、さあ行こう!)

【ある誕】

20140306








ボクが死んだらルキはひとりぼっちになっちゃうね。包帯を巻きながら彼がそう言った。
そうだね、私は一言だけ返した。
ボクが死んだらあいつもひとりぼっちになるのかな。消毒液が沁みたのか顔を顰める彼。
そうだよ、私はまた一言。
じゃあボクは死ねないな。彼が笑うから、私はうん、と泣いてしまった。

ねえ、ルキ。もし、もしだよ。もしもボクがあいつを迎えに行く前に死んでしまったら。ルキがあいつを迎えに行ってやってくれないかな。
ほら、あいつ、何だかんだと寂しがり屋だし。独りは嫌いそうだし。な、頼むよ。ルキだからお願いするんだ。
ごめん。
ごめんな。
ボクの我儘に巻き込んで、ごめんね。

【あるるきちゃんの二人旅に思いを馳せるとしにそうになる】

20140322








舞い上がり、舞い落ちる。ひらひらと舞う花弁をひとつ。ふたつ。手の中に捕まえて、そうっと目を閉じた。
どうか次の春には、私の大好きな人たちがこの桜の下で笑っていますように。祈り、目を開ける。
突き抜ける青空を、ひらりひらりと桜が舞う。ルキ、名前を呼ぶ声に返事をして、私は花弁を手放した。

【@ふぉろわさん 「桜散る」でした】

20140407








いつかあの人が大人になって、今とは違う視線でこの広く美しい世界を見たとき、何を思うだろうか。
美しいと思うだろうか、こんなものかと落胆するだろうか、それともありのままの世界を受け入れて笑うだろうか。
彼が世界への答えを出す前に、彼が出すだろう答えを探すのも、きっとそれほど悪くない。

20140407








すよすよ、耳を澄ませば聞こえてくる小さな寝息。起こさないようにそっと立ち上がる。
丸くなる三つの姿。狭いベッドに固まって、それでも安心しきった顔で眠る三人を見ていると。なんだか釣られて欠伸が出てしまう。
ああ、眠たい。こんな温かい日だ、少しくらい。三人に寄り添って、ボクも目を閉じた。

【@ふぉろわさん 「お昼寝」でした!】

20140407








夏空。天に向かって咲く彼らの、隙間を走り抜けた。
ざわり、揺れる。揺れる。夏のかおり。夕暮れのにおい。
夏の終わり。花が枯れ、人が消え、笛の音は遠く。
部屋から見る景色は、ほら、こんなにも夏を残しているのに。
ひまわりが、もう笑わない。

さよなら、さよなら。いつかの君が夏の向こうに消えた。

【@ふぉろわさん 「ひまわり」「さよなら」】

20140407








右には、いつかのあの日を笑って過ごした自分がいた。
左には、いつかのあの日を必死に生きた自分がいた。
後ろでは、そんな無数の自分の成れの果てがオレを引き摺り込もうと、今か今かとオレが立ち止まる瞬間を待っていた。

だからオレは前を向く。
前には、光が満ちていることを、オレはもう知っていた。

20140409








ジャンケンしよう、シーたん。オレが勝ったらお前の勝ち。お前が勝ったらオレの勝ち。
勝った方が生きて、負けた方が死ぬんだ。簡単なルールだろう。
いつまでもこんな鬼ごっこを続けるくらいなら、いっそ終わってしまおうぜ。
いいかい、シーたん。オレはグーを出すからな。ちゃんとオレを殺すんだよ。

20140409








「最近、夢を見るんだ」
「はあ」
「ロスがいて、ルキがいて、クレアさんがいて、ボクは勇者をしてて、四人で世界を旅してる。そんな夢」
「それで?」
「きらきらしてて、ボクは楽しくて、毎日笑って、幸せだと思って」
「はい」
「ずっとこんな風になりたかったんだって思った」
「そうですか。バカですね」

「そんなに幸せだと思ってるのに、あんたは毎日、バカみたいに笑っているのに。それを夢だと思うだなんて。あんたは本当に大馬鹿ですね」

「…そっか。夢じゃないんだ。本当の本当に、こんなに楽しくて幸せで毎日バカみたいに笑ってるのが、現実なんだ」

幸せだと言う勇者の頬には涙が伝って、笑えているようで笑えていない実にぎこちない表情で、それでも全身からたくさん、声高に、幸せだと、満ち足りていると、叫んでいた。
そんな彼を見ていると不思議と自分まで幸せな気持ちになってくるから、とりあえず勇者を殴ってこれが現実であると確かめるのだ。

20140417











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