140 | ナノ




例えばこの背中に翼が生えたとして、空を飛ぶことはできるだろうか。鳥のように悠々と風を掴まえることはできるだろうか。羽ばたくことができるだろうか。
そもそも人間に翼なんて生えるわけがないでしょうが。
そうやって隣に立つ彼がいつものようにボクを見下ろすから、それもそうかと笑ってしまった。

例えばの話だって言ってるのに。別に飛んで行きやしないのに。
人一倍臆病で人の三倍は意地っ張りな彼は、赤い目をいろんな感情でまぜこぜにしながらボクの腕を掴んでいた。
いつも人のことを散々馬鹿だばかだと罵ってくるけれど、お前はたまにボクの五倍はバカだよな、と言ってやった。全力で殴られた。

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アルバさん、私ね、ずるいんだよ。
またひとりになるのが怖くて、きっとおんなじ気持ちだろうアルバさんと一緒にいるんだよ。私にはやらなきゃいけないことがあるのに、もう独りになりたくなくて、何もできないのに、アルバさんと一緒にいるの。
私、悪い子なの。ロスさんが知ったら嫌われちゃうかなあ。

ボクも同じだよ。ボクは何もできない。強くもないし、ひとりじゃ旅だってできない。
あいつのことは何もわからないままだし、本当にあいつが、ボクがやろうとしていることを望んでるかなんてもっとわからない。
ボクは悪いやつなんだ。きっとルキよりも、もっともっと悪いやつ。嫌われても仕方ないんだ。

「嫌われたくないね」
「うん。嫌われたくない」
「じゃあこれは、ふたりだけの秘密だね」
「ロスには内緒だ」
「脅されても言っちゃだめだよ」
「ルキこそ。甘いものに釣られたらダメだからな」
「ロスさんに会いたいね」
「うん。会いたいな」
「会ったらね、好きって言いたいな」
「じゃあ、一緒に言おうな」

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勇者さん。オレね、さっき、目を開けたら貴方がいて心底安心したんです。
さっきだけじゃありません。あの時も、その時も。オレの前に貴方が現れて、どうしようもない状況を丸ごとひっくり返してしまう。
だから、今度も。ああ、貴方が来たからもう大丈夫だって。思って。

思わず、笑っちゃったんですよ。

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小さな箱に心を詰めた。中くらいの箱には武器を詰めた。大きな箱にはボクを詰めた。それらの箱を一番大きな箱に詰めた。
一番大きな箱にガムテープを巻いた。ぐるぐる、頑丈に。開かないように、固く固く封をした。
その箱を放り投げた。箱はぐちゃくちゃになった。

箱を開けると、そこには勇者がいた。

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ふざけるな、ふざけるなふざけるな!目に涙を溜めて、襟首を握り締めて、彼は激昂する。
腹の底からふつふつと沸き出しているのだろう怒りを、投げつける。どうしてお前はそうなんだ!いい加減にしろよ!彼は怒鳴る。涙を撒き散らす。
だからオレは笑うのだ。その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。

【お互いの自己犠牲精神だとか人への献身的な姿勢だとか とにかく自分を軽んじているところが嫌いなアルバトロス 言ってる言葉がそのままブーメランになるのに気付かないアルバトロス】

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最初はただの好奇心だった。幸せだったから。もっと幸せにしたくて。楽しいことを家族に与えたくて。本当にただそれだけで。魔法というものに興味を持った。
研究はうまくいかなかった。でも妻がいて、子供がいたから。幸せだった。騒がしくて、賑やかで、そんなありきたりな日常が、本当に大切だった。

魔法が失敗した。妻と子供がいなくなった。残ったのは小さな命と魔法のカケラだった。恨んだ。憎んだ。何を憎めばいいのかも分からないまま、ただ憎んだ。
大切だったはずのありきたりな日常が、消えてしまった瞬間。きっと自分の中の何か大切なものも一緒に消えてしまったのだと思った。憎らしかった。

妻と子供を消してしまえるほどの力を持った魔法という力に取り憑かれてしまった。小さな命はすくすくと育っていた。それを横目で見ながら、視界に入っていたのはあの日失ってしまったありきたりな日常だけだった。
取り戻したかった。幸せだったあの頃に執着した。何が正しいのか分からないままだった。

そうして。魔法を手に入れた。これでやっと念願が叶う。そう思って魔法を使った。威力は抜群だった。
凄いだろう!これでようやく!振り返った先には、変わり果てた小さな命があった。首を傾げる。何をしたかったのだっけ。どうして魔法が使いたかったのだ。
分からない。内にあるのは憎しみだけだった。

魔法を使って人に似た生き物を作った。そいつらが住む世界を作った。王になった。満たされなかった。だから壊した。
王になったのに独りで。望んでいたものはもう分からなくて。空っぽで。壊して、壊して、壊した先に、あの日壊してしまったはずの小さな命が、彼女に似た赤い瞳を燃やして立っていた。

ねえ、シーたん。オレはね、もう分からないよ。どうしてシーたんはオレを追い掛けるの。オレは何がしたかったの。オレは何を置いてきてしまったの。どうしてこんなに世界が憎いの。
問い掛けた言葉に、小さな命は、初めて笑顔を見せた。知るか。だよねえ。
オレも笑って、自身に突き刺さる剣を見ていた。

長い長い時を越えて。眠りについた魔王と勇者は目覚めた。眠りの中で見た夢は、いつかの幸せな夢だった。妻がいて、子供がいて。寄り添いあって、慎ましく、子供が育つのを見ながら、愛を囁きあって。そんな、あるはずだった幸せを。日常を。
夢見ては、ただただ世界を、憎んだ。炎が煌々と燃え上がる。

ねえ、シーたん。いつの間にか柔らかい表情をするようになったね。笑うと彼女そっくりだ。君のお兄ちゃんもそんな顔で笑ったのかな。
遠くなる意識の中で、すべて思い出して、少し笑った。
疲れちゃったからもう寝るね。きっとこれは全部夢で、起きたら妻と子供がいる、ありきたりな日常があるんだろう。

(ちゃんとあいしてあげられなくてごめんね、)

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「ポッキーゲームしますよ勇者さん」
「え、嫌だよ」
「何言ってんですか流行りにも乗れないんですかこれだから勇者さんはいつまで経ってもクズのままなんですよ」
「あれ、ボクなんで罵られてるの?」
「ほら、あーん」
「お前今日なんなの!?変なもんでも食ったの!?」
「いいから黙って食えよ」
「!?」

「どうです?美味いでしょう?」
「……」
「オレ、勇者さんのために頑張って作ったんですからね。感謝してください」
「…ねえ、ロス」
「なんですか」
「これ、なに…?」
「野菜スティック」
「……」
「野菜スティック」

「ねえ、ボクどこからつっこんだらいいの」
「どうぞ持てる技の全てを使ってください」

【なんか普通にポッキーゲームはみんなさせてるしちょっと面白い系もみんなやってるしどうやってポッキープリッツの日に参加しようかひたすら考えた結果ろすさんがいそいそと野菜スティック作ってあるばさんの口に突っ込む姿が思い浮かんだのでわたしのポッキープリッツの日はこれにて終了です】

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【#ふぁぼしてくれた人の紹介とかしたいけど純情な感情が空回りして思考回路がショート寸前だから代わりにその人イメージして好き勝手に小話書きます】

「アルバさんとロスさんはそこに座ってて!」

そうルキに言われてからもう三十分。一人で台所に立つ彼女は危なっかしい手つきで何やらごそごそとしている。向かいの席にはロスが心なしかそわそわしながら座っていた。
がたんごとん。ルキが小さく悲鳴を上げる度に思わず腰を浮かせてしまうのは仕方ない。

「できたー!」

がたり、二人揃って椅子から立ち上がり、ルキに駆け寄る。

「いつもありがとう、ロスさん、アルバさん」

へへ、と照れ臭そうにはにかんだ彼女の手にはホットチョコレートがみっつ。ボクとロスは顔を見合わせて、それから黙ってルキを抱き締めた。

【for ふぉろわさん 1人目】








ぎゃあぎゃあ。わいわい。前を歩く二人はとっても賑やかだ。
ぽんぽん言葉を交わして、文句を言ったり言われたり。
最初こそ、喧嘩になるんじゃないかな、この人たちと一緒に行って大丈夫かな、なんて。そんなことを心配していたけれど。彼らは何だかんだ笑っているし、こういうものなのかなって思った。

二人の少しだけ後ろを歩く。誰かと一緒に歩くなんて初めてで、どうしたらいいか分からない。くるり、勇者さんと戦士さんが振り返る。

「ルキ、大丈夫?」
「疲れたらちゃんと言えよ」

二人は心配そうに私のことを見ていて、なんだかちょっとくすぐったかった。

【for ふぉろわさん 2人目】








「雪が降ってますよ」
「見えてるよ」
「そうですか」

白い白い雪が舞い踊る。ひらひらと、静かに。白の中にぽつりと、黒が浮いている。ボクはそんな彼の横に並んで、空を見ていた。ひらひら。雪が、降っている。

「寒いですね」
「うん、寒い」

吐く息は白くて。まるで、真っ白な世界に放り出されたようで。

「寒いね」
「寒いですね」

そこはただただ静かで。冷たい空気が頬を撫でていた。

「寒い」

雪が舞う。手のひらに落ちて、そっと溶ける。

「うん」

並んだ彼の体温が。伝わる。こんなに寒いのに。寄り添って、触れ合ったそこから。じわりと、ぬくもりを分け合った。

【for ふぉろわさん 3人目】

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「なにこれ!?」
「何ってこたつですよ。見て分からないんですか」
「見れば分かるよ!だから驚いてるんだってば!」
「アルバさん、こっちおいでよー」
「ルキちゃんがこたつの精になってる…」
「勇者さん、みかん取ってください」
「ちょ、蹴るな痛い!」
「はやくー」
「ボクもこたつ入りたいんだけど!」

ぎゅうぎゅう。ぬくぬく。こたつでみかん。足からじんわりあったかい。ぽかぽか。
ほら、ルキ。みかんを剥いてくれるアルバさんが好き。もうちょっとこっちに来い。冷えた手を握ってくれるロスさんが好き。みかんもおいしい。
だから冬が好きなんだ。

【for ふぉろわさん 4人目】








卵を割る。ひとつ、ふたつ、みっつ。砂糖は多めに、牛乳をたっぷりと流し込む。
小麦粉と膨らし粉。粉がだまにならないように、空気を含ませながらふっくらと混ぜる。
フライパンに油をひいて、生地を流し込んだ。じゅわり。響いた音に、向こう側から歓声が聞こえる。
弱火でじっくり。焼けたら裏返して。

こんがりきつね色。皿に置いて、仕上げにバターとシロップを。

「はい、できましたよ」

フォークを三本取り出して。

「わああ!おいしそーう!」
「ロスのホットケーキだ!」

目を輝かせるふたりに、少しだけ笑って。三等分に切り分けて。さあどうぞ、召し上がれ。

【for ふぉろわさん 5人目】








「ルキ」
「なあに、アルバさん」
「ちょっと座って」

手招きするアルバさん。右手には包帯、左手には絆創膏。腰に付けた赤いスカーフが、ゆらりゆらりと揺れている。

「なにするの?」
「うん、ちょっとね」

鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌な彼は、徐に私の髪を掬い上げた。ゆっくり優しく、髪に櫛が通る。

上げられる髪。首筋がひやりとする。

「はい、できた!」

目を開けて、差し出された鏡を受け取った。高く結い上げた髪。真っ赤なリボン。

「ルキに似合うと思って。…ルキ?」

ばかアルバさん。無駄遣いだよ。言おうとした言葉は、涙に紛れて消えてしまった。

【for ふぉろわさん 6人目】

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