140 | ナノ




ありがとうとかごめんとか。おはようとかおやすみとか。好きだとか嫌いだとか嘘だよとか。悲しいとか楽しいとか幸せだとか。一緒にいたいとか笑い合いたいとか。
そんなことをひとつでも伝えていたら君との時間に終わりが来ることもなかったのかもしれない。
そんなもしもを考えて、馬鹿だなあと嘲った。

(今更そんなことを思ったって、君はここにはいないしぼくの夢は終わってしまったのだ。だからぼくが考えるのはただひたすらに仮定の話であって、イフであって、実現不可能な現実のことであって、その現実の中に、君は一片も含まれないのである。かなしいようでおかしい、ただの現実の話だ。)








いつかあなたは言いました。海を見ようと言いました。水平線の向こうには未知があるのだと言いました。いつかあなたは言いました。一緒に来てくれないかと言いました。未知を見に行こうと言いました。私はそれに頷いて、あなたと共に未知を目指しました。沈んだ海から見た光は、それは美しい道でした。








あの人を色に喩えるならば、あたたかな橙色だろう。
あの人を動物に喩えるならば、空を羽ばたく鳥だろう。
あの人を花に喩えるならば、太陽を向く向日葵だろう。
あの人を天気に喩えるならば、雲一つない晴天だろう。
あの人を何かに喩えることが出来るのならば、きっとそれは、慈愛に満ちた神だろう。

(あの人を何かに喩えたところで、あの人があの人であり、オレの勇者であることには変わりはないのだけれど。)

131023








「オレね、元魔王なんだ」
「…はい」
「厳密に言うと違うんだけどね」
「…そうですか」
「シーたんはね、優しいから。千年掛かっても魔王になっちゃったオレを助けようとしてくれた。それから、アルバくんはね。そんなシーたんを、そんでもってオレを。助けようって、一生懸命に手を伸ばしてくれたんだ」

「……」
「オレは何もできずに、ただ眠ってるだけだったけど。それを聞いたとき嬉しかったよ。誇らしかった。オレのために必死になってくれる人がいて、オレの親友を救おうとしてくれる人がいた。オレはね、ほんとうに嬉しかったんだ」
「…そう、ですか」
「…オレは馬鹿だからさ。うまく言えないけど」

「…はい」
「出来るとか出来ないとかじゃなくて、やりたいかやりたくないかだろ。出来るかどうかなんて後から考えればいいじゃん。出来なくてもやればいいんだよ。君の親友を迎えに行ってあげればいい」
「…っはい、」
「誰かが迎えに来てくれることってさ、実はすげー嬉しいんだぜ!経験者は語る!」

【おにいさんぶってるくれあさんが書きたかっただけ そるくんしゃべらなすぎたね】

131026








多数の中に埋没してしまいたい気持ちと、特別になりたい気持ちが、ぐるぐる混ざり合ってボクを作る。
ボクは多数の中の一人でいたいし、きっと誰よりも誰かの特別になりたいのだ。できることなら、伝説の勇者クレアシオンみたいに。
誰かの特別で、そして誰よりも多数の中に埋没している、伝説の勇者に。

【目立ちたくないあるばさんの話 本当は誰よりも誰かに認められたいのに、そのときの自分を考えると怖くて特別なことができなくて 考え方がネガティブでボクにはできないよ、っていつも言ってたのに ろすさんにできますって、って言われてから なんだ ボクにもできるのか ってなって
伝説の勇者だって結局は一人の人間なんだって気付いて 2章の終わりにろすさんとかるきたんに あるばさんは特別だよ 一人の人間なんだよ 誇っていいんだよ って言われて なんだ 埋れていたと思ってたのはボクだけだったのか って考え方が変わる話】

131026








とりっくおあとりーと!って言ったらお菓子貰えるんだってパパが教えてくれた。
ママに言ったら、あらあら、って言いながらパンプキンパイを焼いてくれた。パパは袋いっぱいにお菓子を詰めてくれたし、顔見知りの魔族のみんなはそれぞれにクッキーやキャンディをくれた。
誕生日の次に好きなイベント。

だから私はその日もいつもやってるみたいに。とりっくおあとりーと!って言ってみた。そしたら二人揃ってきょとんってして、それなに?って聞いてきた。
こんな素敵なイベントを知らないなんて!もったいない!
だから私は二人に教えてあげたの。お菓子が貰えるとっても素敵なイベントなんだよって!

「「「トリックオアトリート!」」」
「…オレが一番早かったのでオレにお菓子ください」
「何言ってるの!私が一番だったよ!」
「いいや、オレだった」
「もー!!ロスさん大人なんだから我慢してよ!」
「大人も子どもも関係ないだろ」
「関係ある!」

「…ねえ、そもそも楽しみ方はこれで合ってるの…?」

【お題@ふぉろわさん『ハロウィン』】

131029








足が痛かった。慣れない靴と長時間の移動。靴の中はきっと見るも無残なことになっているに違いない。痛くて。だけどそんな弱音を吐くのは悔しくて。我慢した。
足の感覚なんてもうなかった。前を歩いていた戦士が振り返る。
あんた意外と頑固ですね。そう言って彼は、ボクの靴を遠くの方へ投げ捨てた。

手際良く手当てしていく彼を何とはなしに眺めていた。傷をひとつひとつ確かめて、包帯や絆創膏を巻いてくれた。消毒液は染みた。痛かったけど、さっきまでの痛みよりはましだった。
回復魔法を使った方が早いんじゃないの。面倒じゃないの。彼は鼻で笑う。また痛い思いをしたいなら魔法で治しますけど。

幼い魔王が仲間になった。彼女と一緒に駆け抜けた。一年の間、ボクは何度も彼女の足を手当てした。いなくなってしまった彼のように上手に手当てはできなかったけれど、それでもあの頃よりは随分器用になった。
足の皮も厚くなって、長い距離を歩くのも苦ではなくなった。彼のお陰だと素直に思った。

珍しく魔界の牢にやってきた彼の足に白い包帯を見つけた。どうしたんですか、尋ねると、靴擦れ!と言った。ボクは笑ってしまった。もうボクは彼に手当てしてもらうことはないけれど、彼はまた誰かの手当てをしてあげるんだ。
彼がその手で掴むものが、どうか優しいものでありますように。そう思った。

121029








初めて仲間ができて嬉しかったんだ。その仲間が何かを抱えているのにも気付けず、一人でどこかへ行ってしまったことが悲しかったんだ。
仲間ってそうじゃないだろ。支え合って助け合うものだろ。
一人で何もかも抱えるなら仲間なんていらないだろ。

だからさ、頼れよ。ボクは勇者で、お前の仲間なんだぜ。

131029








「アルバさんアルバさん」
「なに、ルキちゃん」
「アルバさん疲れてるの?」
「え?何で?突然どうしたの?」
「だってアルバさんの持ち物、全部にバカって書いてあるから。アルバさん遂にヤケになっちゃったのかなって…」
「へ!?あ!何だこれ!?」
「勇者さん…自覚あったんですね…」
「…ロスーっ!」

131030








ロスさん、あれはね。これはね。私がロスさんに何かを教えるとき、彼は決まって少しやわらかい目をする。えらいな、とか。よく知ってるな、とか。
言葉にしなくてもロスさんが私を褒めてくれてるのなんてすぐに分かる。ロスさんのそんな目が大好きだから、今日も私は背伸びをする。

ロスさん、あのね。








ぴりりりり。私にだけ聞こえる魔法の笛の音。ゲートを開けて、飛び込んだ先には彼がいる。
その手に持ったケーキを私に差し出して、クレアには内緒だぞ、と笑った。アルバさんにも内緒ね。私も笑う。
美味しいケーキを頬張って、私はお礼にパイをあげる。内緒だよ。
私たちは内緒の甘いもの同盟なのだ。

【ろするきちゃんきゃわいい】

131031








普通に起きて普通に食事をして普通に寝て普通に息をして普通に生きていて。それはきっと窮屈で退屈な日々で、ただひたすらに単調なのだ。
そんな日々に飽き飽きして、たまにどこかへ飛び出したくなって。その度に何気ない幸福に気付いて。
父親と親友が笑っていて、釣られて笑う、日々が。そこにあって。

そんな夢を見たんだ。

131102








並木道が緑から黄色や赤に。移りゆく光景が好きだと言うと、彼は紅葉した葉のように赤い目を細めて、何がいいんですか、と言った。
綺麗だろ。虚しいだけです。首を捻る。どうして?
葉が落ちて、冬を越えたら、春が来る。落ちた葉は糧になる。素敵だろ。
彼は泣きそうな顔をして、そうですね、と言った。

131104








息苦しい。生き苦しい。窮屈だ。息が詰まる。ああ、息苦しい。生き苦しい。
どこの誰とも知らない人のために、どうしていきなければならないのか。どうしていかなければならないのか。
息苦しい。生き苦しい。
どうして彼は目の前で血を流すのか。何故彼は死を選ぶのか。

そうか、彼も、いきぐるしいのか。

【死にたがりなろすさんと生きたくないあるばさんが一緒に旅しながらなにかと命を終わらせようとするお互いの命をすくっては憎まれてまた命を捨てようとしてそんなお互いを生かそうと必死になっているうちに生きる目的になってしまったアルバトロスのぐだぐだどろどろした話】

131105








一体あとどれだけ歩けばいいのだろう。靴が擦れて足から血が流れても、誰一人として止まることを許してはくれなかった。諦めてしまいたかった。投げ捨ててしまいたかった。
だけど誰よりも自分自身がそれを許さなかった。

身体を打つ雨が、握り締めた親友との思い出が、ただただ冷たく、指先を凍らせた。

131105








泣くなよ。
泣いてませんよ。
泣くなって。
泣いてません。
馬鹿だな。
こっちの台詞です。
不器用だなあ。
大きなお世話です。
お前が泣くと苦しいんだ。
知りません。
お前は笑ってなきゃいけないんだ。
勝手に決めないでください。
だってお前は、ボクの友達だろう。友達には笑っていてほしいんだ。
…馬鹿な奴。

ボクはひとつだけ魔法をかけた。それは涙が乾く魔法だった。ぽろぽろと際限なく落ちる涙を、こんぺいとうに変えてやったのだ。目から溢れるこんぺいとうを見て、驚いたように目を瞠って、それから心底可笑しそうに笑った。ほらな。涙が乾けば笑顔になる。
ボクが使ったのは、そんな簡単な魔法だった。

131106












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