140 | ナノ




「私が家族になってあげる!」

桃色の髪の女の子。オレよりも随分と低い位置にある彼女の目を見ると、きらきら、効果音でも付きそうなくらい輝いていた。

「…ん?」
「私がクレアさんの家族になってあげる!」
「…えっと、どうして?」

尋ねると、少女はこてん、と首を傾げた。釣られてオレも首を傾げる。

「だってクレアさん、ロスさんのこと、いつもちょっと羨ましそうに見てるから」

家族が欲しいのかと思って。女の子は真っ直ぐにオレの目を見ていた。オレは心臓が鷲掴みにされた気分だった。見透かされていた。冷や汗が背中を伝う。少女は、笑った。

「だから、私がクレアさんの家族になってあげるの!」

少女にだって家族がある。父親と母親と妹。そんな少女と、オレが、家族。想像が付かなかった。

「…ルキちゃん、家族になるっていうのは…」
「もちろん、私がクレアさんのお嫁さんになるんだよ!」
「デスヨネー」

少女は胸を張って自慢げに告げる。笑えない。オレだってお嫁さんは欲しいけれど、これは。

「だって私、クレアさんのこと、結構好きだもん」

少女は笑った。10歳かそこらの少女の浮かべる笑みではなかった。大人びていて、全てを見透かしていて。これは、敵わない。さすがは三代目魔王様だ。

「…じゃあ、ルキちゃんが大人になるまで待ってる」

だからオレは、ズルい大人のフリをするのである。

「クレアさん」

桃色の髪の女の子。あれから長い時が過ぎ、女の子はいつの間にか少女とは呼べない年齢になっていた。ああ、困った。

「私が家族になってあげる」

私、大人になったんだよ。だから、約束守ってね。女の子は綺麗に笑った。完敗だ。これじゃあもう、何も言い訳ができない。

「…はい、喜んで」

【っていう唐突なルキクレちゃん がんがん行こうぜなるきたんまじかわ】

130923








「すきです」
「なにが?」
「…このクレープに決まってるじゃないですか」
「そうなの?」
「そうです」
「ボクじゃないの?」
「なにがですか」
「お前がすきなの」
「クレープの方がすきです」
「ボクはクレープよりお前がすきだよ」
「勇者さんはクレープ以下です」
「ボクは甘いたまごやきよりお前がすき」

【ろすあるろすちゃんきゃわゆいけどわたしが書くときゃわいさのカケラも伝わらない上に今とんでもなく恥ずかしいからきっとこっそり消えてる おほもさまはわたしにはハードルが高いのですね】

130927








「幸せとかけて、幽霊と解きます」
「…その心は?」
「きっと近くにあるのに分からない」
「…なんだよそれ…」
「勇者さんは?幸せとかけて、何と解きます?」
「…幸せとかけて、春の太陽と解きます」
「その心は?」
「ぽかぽかあったかい」

幸せって、そんなもんだろ。春の太陽のように、少年は笑った。

130928








――え?ボクの仲間ですか?戦士と魔王が一人ずつ。頼りになる仲間です。
――戦士の方はロス、魔王の方はルキです。勇者と戦士と魔王のパーティっておかしいですよね(笑)
――えっと…そうですね。一言で言うなら、天使です。
――いや、だから、天使です。ボクの仲間は二人とも天使なんですよ。

――ロスはドSだしボクのこといじめるのが趣味みたいなやつですけど案外優しいところもありますし、甘いものが好きだったり器用だったり強かったり、とにかくすごいヤツです。本人には言いませんけどね。ルキは最近ロスに似てきたのかボクの扱いがひどいんですけどいつも一生懸命でかわいいですね。

あの二人ってすごい仲良いんですよ。話してる内容がすごく微笑ましいんですね。どこどこのケーキが美味しかったから一緒に行こうとか。たまにどうやってボクをいじめるかの計画立ててるらしいですけど。二人が楽しそうに喋ってるのを見るとこっちまで嬉しくなっちゃってついつい眺めちゃうんですよね。

そしたらボクの視線に気づいて一瞬だけだけど二人も嬉しそうな顔するんですよ。すぐにゲスい顔しますけど。その一瞬の表情が好きでかわいくてたまらなくてボクだって痛いのものけ者にされるのも嫌いですけどその顔が見れるならちょっとくらい別にいいかなあって思ってされるがままになってるんです。

なんだかんだとボクと一緒にいてくれるしかわいいしかわいいしかわいいし癒されるしボクの名前呼んで早く早くって手を引っぱってくれるしいやもうほんとあの二人って地上に舞い降りた天使なんだなって常々思ってるわけなんですけど…ってあれ?記者さん?ちょっと!どこ行くんですか!話はまだ終わって

【っていうろするきちゃんのこと大好きすぎるあるばさん 雑誌のインタビュー受けてこんな感じで答えてる もちろん記事にはしてもらえない 記者さんに逃げられるあるばさんをちょっと離れた喫茶店でケーキ突きながら見てるろするきちゃん いっつも逃げられるけどあるばさん何話してるんだろうねーって】

130929








「勇者さんは"勇者"ってどんな人物だと思ってるんですか?」
「また唐突だな…。そうだな、困ってる人を助けて、世界を守る人、かな」
「じゃあ勇者さんは"勇者"じゃないじゃないですか」
「はあ?」
「どうして世界を投げ捨ててまでオレを助けようとしたんですか。世界を守るのが勇者なんでしょう」

それは貴方の言う"勇者"の取る行動じゃない。"勇者"を名乗るのならば、目の前の一人より世界を取るべきだったんじゃないんですか。どうしてオレを助けたんですか。
結果的に世界を救って、貴方は伝説の勇者であると褒め称えられているけれど、貴方のやろうとしていたことは"勇者"の行動ではない。

言い募った。責めるつもりはなかった。彼がどう答えるか聞きたかった。我ながら面倒臭いと思った。だけどずっと疑問だった。どうしてこの人は。
この人のことを、オレが縛り付けてしまったのではないのか。オレのせいでこの真っ直ぐな勇者が世界に憎まれていたかもしれないと考えると。ぞっとしたのだ。

「お前そんなこと考えてたの?」

珍しく黙ってるかと思えば。面倒臭い奴だな。睨み付けていた教科書から顔を上げたその人は、実に微妙な表情をしていた。
そしてその人は、実に簡単に言ってのける。

「だって、世界の平和のためにお前一人が苦しむなんておかしいって思っちゃったんだから、仕方ないだろ」

そんなことより、ここ。難しくて分かんないんだけど。再び教科書に視線を落とした彼の頬を全力で叩いた。洞窟内にいい音が響き渡った。

「え?なに?何で?何でボク今叩かれたの?」
「腹が立ったんで」
「何に!?」

そうだった。この人馬鹿なんだった。呆れて溜め息が出る。そんなことじゃないだろうが。

馬鹿に馬鹿な質問をしてしまった自分の馬鹿さ加減に笑ってしまった。まあ、この人馬鹿だからどうせそんなことだろうと思ったよ。
赤く腫れ上がった頬に回復魔法を掛けながら、何だよ、とかぶつぶつ言っている。

「大体、勇者とか世界がどうこうじゃなくて、友達が苦しんでたら助けるのが当たり前だろ」

もう一回全力で殴っておいた。今度は反対側の頬。さすがの勇者さんも涙目になっている。オレだって涙目だ。
何だこの人、本当に馬鹿だった。普通はそんな理由で宛てのない旅なんかしないし世界を投げ打ったりしない。馬鹿なのか。馬鹿だったな。

ちょっと嬉しいとか思ったオレも、たぶん馬鹿なんだろう。

130929








服の裾を引かれた。手が繋ぎたいのかと思って少女の手を握ったら、軽く振り払われた。裾が引かれる。頭を撫でてやれば、先程より幾分かマシな顔でむくれた。
裾を引く少女。泣きそうな顔をしていた。驚いてぎゅうと抱き締めれば、少女は強くしがみついた。
さみしかったんだね。うん。少女は少し泣いた。



彼は私のことをそれはもう甘やかした。勇者さんがいないとき、甘いものを買ってくれた。頭を撫でてくれた。少しだけ笑ってくれた。
私に向ける甘さのほんのちょっとでも勇者さんに向ければいいのに。たまに思うけど。

「おいで」

私を抱き締める彼の方が幸せそうだったから、私は何も知らないふりをした。



赤いバラを手渡した。彼女は屈託なく笑って喜んでくれた。
真っ白なドレスをプレゼントした。彼女は私には少し大きいね、と笑った。
指輪を捧げた。彼女は大きな目をぱちくりとして、それから笑った。
彼女は気付かない。笑ってしまった。これで花嫁の完成だ。

少女は悪い大人に捕まってしまったのである。

【るきたんとろすあるくれあちゃん】

131002








「シオーン、アイスコーヒーひとつ!」
「そんな大きい声で言わなくても聞こえてますよ」
「お前が返事しないからだろ!」
「シーたん、ケーキ焼けたよー」
「ロスさーん、これ持って行くねー」
「ちょっとはあの二人見習って働いてくださいよアバラさん」
「は、働いてる、よ…!」
「毎日皿割るくせに?」

「そ、それは…お前が…っ!」
「自分のミスを人のせいにするんですか?店員の風上にも置ませんね」
「だ、だって…!」
「「あーっ!!」」
「またロスさんがアルバさん泣かせてる!」
「アルバくんがお皿割るのシーたんが足引っ掛けるせいじゃん!」
「アルバさん毎日最初に来て最後に帰るんだよ!?」

「お店が好きだからっていっつも掃除してくれてるの、シーたんだって知ってるくせに!」
「「謝りなさい!」」
「……すみません、でした」
「いいよ、別に。ボク、特別何かできるわけじゃないし。文句言うのは、シオンより美味しいコーヒー淹れられるようになってからにする」
「そ、れは…!」
「ん?」

「……せいぜい頑張ることですね」
「おう!今に見てろよ!」
「シーたん素直じゃないね」
「アルバさんの淹れるコーヒーが美味しいからって独り占めしてるのにね」
「まあ確かにアルバくんのコーヒーはオレたちだけで味わいたいけどね」
「だってアルバさんのコーヒーだもんね」
「「ねー!」」
「「?」」

【っていうカフェパロろすあるきくれあちゃん】

131005








空に舞った赤いスカーフ。何かに導かれるようにボクの手の中へと戻ってきた。いなくなったあいつの背中。届かなかった手。
楽しかったぜ、なんて。精一杯の虚勢だということはすぐに分かった。
今でも夢に見る。あの時、その時、ボクが強ければ。スカーフじゃなくてあいつの手を掴めたかもしれないのに。

後悔だけはしたくないと思った。ボクはボクの思ったように進まなければならない。何があっても前に進む。この赤いスカーフを彼に見立てて、誓った。
ボクは、強くなる。泣いてばかりのボクはもういらない。誰かに頼ってばかりのボクとはさよならだ。
踏み出した一歩は重い。それでもボクは前に進むのだ。

131005








「お前は誰だ」
「オレはお前だ」
「あの人たちは誰だ」
「お前だって知ってるだろう」
「どうしてお前はそんなに笑っていられる」
「楽しいからな」
「お前はオレなんじゃないのか」
「オレはお前だ。だけどお前とは違う」
「オレはそんな風には笑えない」
「どうして」
「オレは独りだからだ」
「本当に?」

「オレには誰もいない。家族も、親友もいなくなった。あの人たちだって、いつかはいなくなるに決まってる。オレの隣には誰もいない。オレは独りでいなくちゃいけないんだ」
「お前は大馬鹿だな」
「…は?」
「お前は本当に独りか?誰もいないのか?お前には夢も、希望もないのか?絶望しかないのか?」

「…そうだ」
「そう思ってるんだったらお前はとんだ大馬鹿野郎だ。脳ミソ入ってない勇者さんよりも馬鹿だな。勇者さん以下って。ぷーくすくす」
「…何が言いたい」
「ちゃんと目を開けろよ。現実を見ろ。逃げるな。目を背けるな。お前は本当に、独りなのか?」
「……」
「お前はオレだろう、ロス」

お前だって、笑えるだろう。そう言い残してオレとそっくりなあいつは消えた。目を開ける。

「あ、やっと起きた!」

起き抜けに阿呆面が目に飛び込んできたから、反射的に殴った。殴られた彼は地面に転がった。

「ロスさん、おはよう」
「…ああ」
「ロス!お前なあ!なんで毎回ボクのこと殴るわけ!?」

きゃんきゃんとやかましいことこの上ない。殴られた頬を赤くして喚く勇者の隣で、小さな魔王は楽しそうに笑っている。まるで、夢の中で見た彼らのようだった。
三人で歩く道。隣にいる人。お前は本当に独りなのか、オレと同じ顔のあいつが、もう一度だけ問い掛けた。オレは少し笑って、首を横に振った。

【WebろすさんとSQろすさん 最初は和気あいあいとしてるSQろすあるきちゃんにWebろすさんが嫉妬して羨んで文句言う話を書こうと思っていたはずなのに書き出しからずれていったから諦めた】

131006











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