140 | ナノ




勇者アルバは貴方にとってどのような人物かと尋ねた。
銀に黒の混じった不思議な髪の色をした青年は、朗らかに笑いながらこう答えた。

――アルバくんは恩人だよ。オレも、オレの親友も、親友が守りたかったものも、世界も、何一つ残らずにすくい上げてくれた人。感謝してもしきれないくらい感謝してる。

勇者アルバは貴方にとってどのような人物かと尋ねた。
桃色の髪をしたまだ幼い少女は、はにかみながらこう答えた。

――アルバさんはね、とってもかっこいいの。いつもはそんな風には思えないような、ただのツッコミのお兄さんなのに。真っ直ぐ前を向いて、誰かの為なら何だってできちゃうすごい人だよ。

勇者アルバは貴方にとってどのような人物かと尋ねた。
赤い目をした青年は、表情をやわらかくしてこう答えた。

――勇者さんは、太陽です。照らして、導いて、必要で、見上げなくても傍にいて、いつだって明るくて、あたたかい。指針であり、中心であり、誰からも必要とされるような、そんな人です。

勇者アルバは貴方にとってどのような人物かと尋ねた。
赤と黒、色の違う瞳を持った少年は、困ったようにこう答えた。

――ボクはボクでしかないよ。ロスを救いたかったボクも、ルキと旅をしたボクも、クレアさんを取り戻したボクも、結局はボクでしかない。でも、今を生きているボクに一言だけ言うなら。

そうして勇者アルバは笑うのだ。
何もかもをすくい上げた、かっこいい、太陽のような彼は。幸せそうに、ここではないどこかを見て、まるで空に浮かぶ雲のように、ふわふわと。全てを許すように、全てを守るように、包むように、すくうように。

――今ここに生きていてくれて、ありがとう、と。笑うのだ。

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最期の最後の、本当にさいご。
まるで長い眠りから覚めたみたいにゆっくりと瞬きをした彼は、親友の手でオレの頭を撫でた。大きくなったな。笑う顔も親友のもの。
そこで初めて、二度と彼には触れられないのだと感じた。

ごめんな、幸せに。

それは何に対しての謝罪だったのか。分からないだろ、馬鹿野郎。

【よくよく考えてみればパパさんの魂が抜き取られる瞬間は物語として描かれていない訳で ろすさんが泣いてしまえるのだから きっと優しい終わりだったのではないかと そう思いました】

130810








「クレアさん!こんにちは!」
「ルキちゃん。こんにちはー!一人でお留守番?」
「ううん。クレアさん待ってたの!」
「そうなの?シーたんじゃなくて?」
「そうだよ、私が待ってたのはクレアさん!」
「…えーっと、何か相談事?」
「違うよー。クレアさんに早く会いたかったから待ってたの!」
「…ん?」

【っていうるきくれちゃん くれあさんはガンガンいこうぜモードのるきたんにたじたじになってればいいと思うの はああん るきたんまじ小悪魔 かわいい】

130810








星が見たいと、少女が珍しく駄々を捏ねた。
星なら散々見ているだろうと言っても、少女は見たいのは流星群なのだと言って譲らない。
さてどうしたものか。野宿だったら見えたかもしれないが、今日は生憎と街の中だ。それも、よく栄えている。
こんな明るい場所からでは一番明るい星だって見えやしない。

オレはほとほと困り果てて、ただ宥めるように少女の頭を撫でることしかできなかった。
すっかり機嫌を損ねた少女に何を言おうか迷って悩んで、口を閉じたり開いたり。
こんなときにどこに行ったんだあのバカ勇者は、と八つ当たりにも程があることを考えた、正にそのタイミングで。ただいま、と呑気な声。

帰ってきた勇者はにこにこと笑っている。ルキ、と少女の名前を呼んだ。少女は涙を浮かべたその大きな目で勇者を見る。

「ほら、流星群!」

ばらばら、きらきら、ころころ。勇者の手から、たくさんの流れ星。
小さな星のかけらがいくつもいくつも流れては床に落ち、その星たちは少女の目を奪っていった。

落ちた星をひとつ、手に取って。甘いかおりのそれを、少女はひょいと口に放り込んだ。あまい、と緩む口元。

「ね、ルキのお願い事、叶ったでしょ?」

甘いものが食べたかったんだよね。勇者のその言葉に、少女はうっすらと頬を染めた。ああ、なんだ。そんな簡単なこと。床に散らばった星をひとつ。

美味しそうに星を頬張る少女の姿をだらしない顔で眺める勇者に向かって、手に取った星を投げつける。
きらきら、星が流れて、勇者に落ちた。墜ちた星を拾う勇者が、こちらを向く。

「ほら、戦士も食べよう?」

両手いっぱいに星を持った勇者は、星に負けない甘さで、のんびりと微笑むのだった。

【星を拾う勇者さんのお話】

130812








ぞわり、肌が粟立った。数日前までの猛暑が影を潜め、どこからともなく寒さが運ばれてくる。
夏が終わり、秋を過ぎ、冬が来て。季節が、巡る。
この平穏な世界で、微温湯に浸かりながら。巡る季節の中に、ひとり、立っているという事実が。
また肌が粟立った。ぞわり、ぞわり。

恐ろしくて、たまらない。

「冬は嫌いです」

そう彼は言った。理由が分からなくて首を傾げていると、だって寒いじゃないですか、と子供のような理由が返ってきた。

「寒くて、暗くて。ひとりが、恐ろしくなる」

どこか遠くを見てそう告げる彼の手を取る。まだ夏だっていうのに。

「ひとりが怖いなら、一緒にいたらいいじゃないか」

【っていう1章ろすさん】

130825








お前バカだろ。

何でこんな風になる前にボクを呼ばなかったんだよ。
ボクが強くなったことくらい、お前だって知ってるだろ。
今だったらお前よりも強いかもしれないんだぞ。
何でボクが来るまで待ってなかったんだよ。

おい、聞いてるのかシオン。

「…きたない顔、ですね」

誰のせいだと思ってんだこのバカ。

【22話であんな馬鹿なことをしたしおんさんはこれでもかと言うほどあるばさんに罵られたらいいと思います バカだろ、お前バカだろ なんとなく知ってた って あるばさんに罵られて反論できなくて悔しい思いをしたらいいよ ばかやろう】

130831








「戦争だ」
「うん、戦争だね」
「戦争するしかない」
「は?」
「ボク、ちょっと王様に軍隊を貸すように話付けてくるね」
「私はパパに報告してくる」
「じゃあオレは武器とか調達してくるね」
「…お、おい、」
「シオンはまだ本調子じゃないんだから安静にしてて」

大丈夫、起きた頃には全部終わってるよ。

【なんかあるるきくれあちゃんにわんわん泣いてたじたじになるしおんさんの妄想してたはずなのにいつの間にかあるるきくれあちゃんがガチ切れして戦争おっぱじめようとする妄想に切り替わってた こわい】

130831








前を向く。顔を上げて、堂々と胸を張って。いつまでも弱いままのボクじゃ駄目だ。頼られるように、一人で歩けるように。ボクが目指した勇者になれるように。
もう俯かない、立ち止まらない、もう泣かない。強いボクであるんだ。勇者であるんだ。その先に、目指したものが待っている。

さあ、笑え。笑え。

130905








「アルバさーん!」
「わ!もう、危ないだろー」
「えへへー」
「アルバくーん!」
「うわ!クレアさんまで何やってるんですか…」
「へへー」
「……」
「な、なんだよ」
「…別に」
「シーたんもおいでよー」
「おいでよー」
「……」
「ルキ、クレアさん」
「「うん!」」
「「「突撃ー!」」」

「ちょ、な…っ!」

何なんですかあんたら馬鹿なんですかまだクソ暑いこの時期に何考えてんですかただでさえ暑いのに更に暑くしてどうすんですかお前ら全員暑さで脳ミソ溶けたのか大体ルキはまだしも何が悲しくて男同士でくっつかなきゃいけないんですかおい聞いてんのか。

「(それでも離れろとは言わないんだよなあ…)」

【ろすあるきくれあちゃんいつでもいちゃいちゃべたべたしてくれてたらいいし暑いとか寒いとか関係なくぎゅっぎゅしてたらいいししおんさんは照れてくっつけないから三人でホールドすればいいししおんさん口では嫌がるくせに絶対離れろって言わないどころか勝手に離れたらちょっとむすっとしたらいいよ】

130905








勉強にバイト。毎日その繰り返しで、単調に過ぎていく。別につらいとは思わないけれど、たまには休みたいなと思わないでもない。勉強もバイトもやりたくてやっていることで、義務でも何でもない。投げ捨てたって誰もオレを責めないだろう。
重い体を引き摺って、なんとか家のドアノブを掴む。がちゃり。

「ただいま」

そんなに大きな声でもなかったけれど、その声を拾ったあいつらが、転がるように部屋から飛び出してきた。ばたばた、玄関まで駆けてくる。逃げやしないのに。思わず笑ってしまった。
正面に立った二人は満面の笑み。

「おかえりー!」

家族のこの一言があるから、オレはまだ、きっと頑張れる。

【家族パロろすあるきちゃん】

130905








がたんごとん。窓から射し込む夕陽が輪郭をぼかす。阿呆面で眠りこける三人。あたたかな橙色。がたんごとん。静かだ。電車の揺れる音。たまに漏れる小さな声。楽しそうに緩んだ口元。
なんてことない日常の中でふと感じる。自分は幸せだ。泣きたくなるような気持ち。じわりと染み込んだ。がたんごとん。

【現パロろすあるきくれあちゃん】

130910








ナイフ持って空に翳して光を弾いたそれを喉元に突き立てて。君は笑ってごめんねと言って僕は泣いて喚いて叫んで。溢れる赤は止まらなくて命の欠片が消えてなくなって。
ひやりとした手で君は僕の手を掴んで、ありがとうって言ってそして笑った。
嘘だ夢だと叫んだ瞬間、君の声が聞こえたんだ。おはよう。

130916








船に乗って海を渡った。ラクダに乗って砂漠も越えた。小型竜の背に乗って空も飛んだ。魔界にも行った。それでも終わることなく世界は続いている。
地平線の彼方にも、水平線の此方にも。たどり着けそうでたどり着けない。
いつだって世界は眼前に広がっているばかりである。

「世界は広いね、シーたん!」

130917








【SQあるばさんって果物の種飲み込んだらお腹から芽が生えてくるって信じてそうでかわいいなあ ってスイカの種を飲み込んだときに思った】

「うわああ!戦士!せんしーっ!」
「そんなにでかい声で呼ばなくても聞こえてますよゴミ山さん…。何なんですか」
「飲んじゃった…」
「はあ?」
「スイカの種飲み込んじゃったよおおお!」
「…それが何だって言うんですか」
「お腹から芽が生えてきちゃう…。どうしよう戦士ぃ…」
「あんたバカですか…」

130918








連れて行かれる、と思った。空に浮かぶ、丸くて美しくて、優しい光を帯びた月に。その光を浴びたあいつが、遠くを見るような、懐かしむような目をしているから。連れて行かれると、思ったのだ。

「…何してんですか」
「あ、いや、お前が…」

言葉を飲み込んだ。だって、あんまりにも馬鹿馬鹿しいだろう。

「月に、帰っちゃうかと…思った…」

あの時は届かなかった手。今は伸ばせば届く距離にいる。それなのにふとした拍子に恐ろしくなるのは、どこか彼の存在が浮世離れているからだろうか。

「…ぶふー!」

とんでもない音が聞こえた。ばっと顔を上げると、あいつが心底おかしそうに腹を抱えて笑っていた。

「つ、月に…!帰っちゃうかと…っ!ぶふー!」
「わ、笑い過ぎだろ!」
「だって勇者さん、あんたどんだけロマンチストなんですか」

目尻に浮かぶ涙を拭って、それでも彼はくつくつと笑い続ける。腹立たしくなって顔を背けてもまだ聞こえる笑い声。まあ、面白かったならいいか。月は頭上で微笑んでいる。

【っていうお月見ろすあるちゃん 勇者さんはそんな恥ずかしいことも平気で言っちゃう子だって信じてるわ】

130919








「シオンってさ、ボクと最初に出会ったときよりも小さいときから旅してたんだよね?」
「…はあ。そうですけど、それがどうしたんですか」
「じゃあ、青春、まだ?」
「はあ?」
「ボクも、青春っぽいことしたことないんだ」
「…だから何だって言うんですか」
「よし、青春っぽいことしよう!」
「…はあ?」

【9月21日の誕生花はイヌサフラン。花言葉は『悔いなき青春』。(戦勇。:アルバトロス)】

130921












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