Heat





「恵、おはよー!」

「ん……?ああ、名前か……」


朝起きて、支度して、教室に入ってからの恒例。
席に座って本を読む彼に朝の挨拶をすると、彼は私を見上げて「おはよう」と笑う。


ただ、その日は何かが違った。
本を読まずに頬杖をつきながら外を眺める恵。
時には本の気分じゃない時もあるかもしれない。
そう思いつつ声を掛けると、どこかパッとしない返答。

何かおかしい。



「恵、どうかした?」

「いいや、何も無い。大丈夫だ。」


いつもよりどこか弱々しい笑顔を浮かべた彼が、私の頬に手を伸ばす。


「おっ、苗字、伏黒、おはよー!」

「あんたら、朝からおアツいわね。」


その手が触れた瞬間、虎杖と釘崎の声も耳に入らず、私は目を見開いた。


「熱いよ、恵!!!」


「……はっ?」


よく見ると、赤くなった頬に少し潤んだ瞳。
もう、もっと早く気付いとけよ……!!
とにかく、今は保健室に連れていこう。
彼の手を引いて教室を出ようとした時、ちょうど五条先生が現れた。



「みんなおっはー、今日も一日ぶちかまして……あれ、名前?
どこ行くの?」

「ちょっと恵がおアツいので!!!」

「は……?」


ぽかんとした先生をよそに、ちょっと失礼します。と頭を下げて、彼の腕を引く。
とりあえず保健室に……いや、部屋に帰した方がいいかもしれない。


「恵、大丈夫……?」

彼の髪を撫でると、恵はどこか困ったように私を見た。


「……名前、帰ったら多分面倒なことになってるぞ。」


面倒?
首を傾げて、ああ。と頷く。


「抜け出したからってこと?
気にしなくていいよ。恋人が体調崩した時くらい許してもらえる。」

「いや、そうじゃなくて……」

「はい、恵の部屋到着。ほら、入って。」


渋々鍵を差し込んで扉を開く恵についていって、なんだかんだ御託を並べる彼をベッドに押し込んだ。

実際、相当キツかったんだろう。
ベッドに身体を横たえた彼は、ふぅ。と深く息をついた。


全く、そんなに辛いならちゃんと言えっつの。


水をコップに注いで彼に手渡す。
彼が背を起こすのを手伝うと、申し訳なさそうに彼はちらりと私を見遣った。


こくり、と上下する喉。
潤んだ瞳に汗ばんだ首筋。

うっわ、やばいかも。


……っていかんいかん。相手は病人だぞ。
咄嗟に首を振って、彼が差し出した空になったコップを受け取る。
とりあえず近くのテーブルに置いて、再び寝転んだ彼の肩に布団を掛けた。

心苦しいけど、教室に戻らなきゃ。


「……恵?」

「ん……?」

「私、そろそろ教室に戻るね。」

「……ああ。」


寂しそうに私を見上げる彼の頬を撫でると、その手に彼が擦り寄る。

今日だけでもずっと、隣にいてあげられたらいいのに。
その汗が浮かんだ額にかかる前髪をはらって、そっと口付けを落とした。


「授業終わったら、すぐに帰ってくるから。
……待っててね。何かあったらいつでも連絡して。」


小さく頷く彼の髪を撫でると、私は後ろ髪を強く引かれながら、その部屋を後にした。





「あ、名前。おかえり。
どう?恵はやっぱりおアツかった?」


この後教室に戻ってから五条先生に散々イジられたのは、言うまでもない。





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