Raindrops


雨の日は、そのまま溶けてしまいたいと思う。



「レン。」

朝、目が覚めて、ベッドの中。
雨がざわざわと騒がしい外をじっと見つめていると、隣で寝ていたクラウドが俺を抱き締めた。


「……クラウド。」

「レン、おはよう。もう起きてたのか。」

「ああ……おはよう、」


雨になりたいと思って外を見てた。
なんて言えるはずもなく、クラウドの胸元に鼻を埋める。





素直に生きるのが、ずっと苦手だ。

女の子を好きになれない自分に、ずっと負い目を感じていた。
それはクラウドが隣にいてくれるようになってからも変わることはなく、時々こうして、どうしようも無い寂しさみたいなものに苛まれる。
女々しいなって、自分でも思うけど。

……寂しさは、狂気だ。
それは人を傷つけ、そしてその付けた傷に気付けなくなる。
だから俺は、この気持ちを必死に押さえ込んだ。


「要らない事を考えてる顔をしてるな。」


そう言って、クラウドが俺の眉間を親指でぐりぐりと押す。


「い、いでで、痛い。」

「目が覚めるだろ。」



胸に溢れる幸福感と、病気みたいな愛おしさ。
この胸を苦しくさせる病に、治療法は無い。


話しながらもどこかぼうっとしている俺にクラウドは目敏く気付いて、もう一度俺を抱きしめ返すと、首筋にキスを落とした。


「……レン。愛してる。」

「……うん、」


最初は恥ずかしがって言おうともしなかった愛の言葉。
それでも優しいクラウドだから、俺の心の穴に気付けば、そこを塞ごうとするみたいに俺に囁いてくれる。


幸せなこの日々は、奇跡だ。
……でも、何かが足りなかった。



クラウドの、積み木みたいな優しさ。
高く積まれて、でもそれは次第に脆くなっていく。
それを崩してしまうのはいつだろうかと、俺は気が気じゃ無かった。



ぐるぐると考える俺の腕を、クラウドが突然引き寄せる。


「うおっ、」


そのままボスっとクラウドの胸元に倒れ込んだと思えば、その背が壊れ物を扱うようにそっと摩られた。

そのまま、髪にキスが落ちてくる。
それから額に、頬に触れるその柔い唇の擽りに、俺は思わず肩を竦めた。

ふふ、と思わず笑った俺の唇に、クラウドのそれが重ねられる。



静かな、2人きりの部屋。
顔が傾けられて晒された首に腕を回して、俺は目を閉じた。

後頭部を支える手と、啄むように重なり合う唇が心地いい。



それからゆっくりと唇が離れて、俺たちは額を合わせる。



「クラウド、」

小さく呼んだ俺の声に、クラウドが「ん?」と、甘く掠れた声でこたえた。


「俺たちは、上手に"恋愛"できてるかな。」


尋ねた俺にクラウドは、ふっと笑う。


「どうだろうな。でも、俺は満たされてる。」

「……うん、俺も。」


外で囁く雨に目を向ける。
それを引き戻すみたいに、クラウドがもう一度触れるだけの口付けを落とした。


「……人生は、天気みたいなものだと思うんだ。」

鼻先で言葉を紡ぐ、離れた唇。


「天気……?」

「ああ。晴れたり降られたりする。ああやって。」


窓の外を一瞬見やったクラウドが、俺の指をそのしなやかな手で絡めとった。
指先から、クラウドの温もりが、俺にうつっていくのを感じる。


「傘なら、俺が持っておくから……ひとつでいよう。このまま、ずっと。」


そう言って口付けたその温もりは、俺の不安や寂しさごと溶かすみたいに、俺を食い尽くした。






指先で触れたのは、首筋に残ったクラウドの痕。

幸せな日々に足りなかった何か。
それはきっと、未来もずっと、彼がさしてくれる傘だと気付いた。



雨に溶けるのは、やめだ。

クラウドの傍にいるには、どうやら俺はこのまま居るしかないらしいから。






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