Episode 11
前回までのあらすじ。
仕事を予定よりかなり早く終えて、先輩方に連れられた私は、気付いたらウォールマーケットにいた。
え?なんで?
頭にたくさん浮かぶ「?」マークたち。
訳も分からないまま、とりあえず飯食おうと居酒屋に連れられ、ずいぶん話し込んでしまって、店を出た時にはすっかり日も暮れていた。
街のギラギラしたネオンが眩しい。
「さぁ……ナマエ。今からが本番だぞ。」
居酒屋を出たところで、リーダーは腕を組むと自慢げに私に言った。
「今から……?何がですか?」
「まあまあ。とりあえず私たちの可愛い後輩を、ある人に紹介しようと思って。」
2人が戸惑う私の腕を引いて、たどり着いたのはチョコボ屋の前。
チョコボ屋?乗るんだろうか。
私チョコボ乗ったことないけど。
「ナマエ、入るよ。」
「サムさーん!サムのおっさんいますかー?」
先輩に腕を引かれて店に入る。
リーダーが大声で呼ぶのは、サムさんという男性らしい。
声を聞いて店の奥から出てきたのは、髭をたっぷり貯えたカウボーイ風の服のおじさまだった。
「誰かと思えばお前らか。」
低く響く声がなかなかカッコいい。
「お世話になってます。
今日は俺たちの後輩を紹介しようと思って連れてきました!
ナマエ、自己紹介!」
「あっ、こ、こんばんは!
ナマエです、よろしくお願いいたします!」
咄嗟に言われてとりあえず名乗ったが、何の自己紹介だ、これ。
私の戸惑う様子を見て、サムさんはふっと笑った。
「嬢ちゃん、とりあえずコイツらに連れられて訳も分からずウォールマーケットに来たって感じだな。」
「は、はい!いえ!」
「ナマエ、俺らはな。
サムさんのおもちゃ作ってんだ。」
先輩方は毎回説明が少なすぎると思う。
ウォールマーケットに突然連れてこられたかとおもえば、居酒屋に行って、チョコボ屋に行って……
そして、私たちは何故か地下闘技場にいる。
「ナマエ、グロいの行けるクチか?」
「別に、大丈夫ですけど……」
「だったらよく見とけ。
ただの見世物じゃねえ、勉強にもなる。」
勉強?一体何の話だ?
そう思いながらもコロシアムに目を向ける。
会場は熱気に包まれており、どの観客も興奮冷めやらぬ様子だ。
「しかし、今日は異様に盛り上がってんな。何かあったのか?」
「さぁねー。殺し合いに金掛けて楽しめる神経が私には理解できんよ。」
「俺はサムのおっさんに掛けたぜ」
「最ッ低」
『皆様、たいへん長らくお待たせいたしました』
『予想外の展開を見せた今宵のコルネオ杯も、あと1試合を残すのみとなりました』
『名残惜しいのは 我々も同じです。
しかし、物事は必ず終わりを迎えます。
ならば、その終わりを皆で大いに盛り上げようではありませんか!!』
突然、アリーナの真ん中に立った2人が観客を煽り出す。
ホストのような人達なのだろう、盛り上げ方も手馴れていて上手い。
いったい誰の試合を見せられるんだろう。
きっと先輩方の事だ。
ただサムさんの仲良しって訳ではなさそうだけど。
ここで私は、今世紀最大の驚きを経験することになる。
『まずは、小柄ながら並み居る強豪を華麗になぎ倒し、大いに盛り上げてくれました驚異のカップル。
マダム・マム推薦、クラウド&エアリスの入場です!』
……えっ?
ゲートから入場する、サラサラつんつんの金髪に、首元の詰まった袖なしの黒ニット。
見慣れない女性を連れているけど……間違いない。
「クラウド!!!???」
「えっ、ナマエ、知り合い?」
「知り合いも何も、」
好きな人です、先輩。
『対するは、優勝回数5回。再起不能にした相手は数知れず』
『病院送りは当たり前』
『ゴミ掃除はおまかせあれ』
『断罪の処刑マシン チョコボ・サム推薦、カッター&スイーパーの入場です!』
対して向かいのゲートから出てきたのは、両腕に大きなノコギリの刃のような腕と、ガトリングガンをそれぞれ装備した巨大マシンが二体。
おもちゃって、そういうこと!?
どちらも神羅の倉庫にあるものとは違って、オリジナルのカラーリングが施されている。
言っていたとおり、サムさんが所有するマシンなんだろう。
「あれ、ちなみに俺たちによって魔改造済み。」
「ナマエの知り合い、私も応援しとくよ……」
焦る私の背中に先輩がぽんと手を置く。
優勝回数5回って……
しかもあんな大きな機械ふたつに、華奢な女性と小柄なクラウドが勝てるわけない。
でも、もちろん試合を止めさせることは出来ないんだろう。
「クラウド……頑張って……」
先輩方の手前、大声で応援は出来ないけど、思わず手を祈るように組んで彼を見つめた。
『さあ、100万ギルはいったい誰の手に』
『さあ、泣いても笑ってもこれがラストだ』
『コルネオ杯決勝戦 レディィィファイッ!』