塩対応作戦: クラウドの場合 後編





彼が風呂に入ったのを見届けて、食材を準備する。
作るのはいつも高タンパク低カロリーの夕食。
彼は身体を使う仕事をしているから、できるだけその助けになるような食事を心掛けている。
逆に朝はカロリー多めのご飯。
しっかりエネルギーになるようにいつも真心を込めながら作る。
お弁当はお弁当でまたこだわりがあるけど、話してたらキリが無いので私は夕食の準備に意識を戻した。

豚の細切れと、絹ごし豆腐にしらたきとその他。
今日はこちらで肉豆腐を作ります。

煮込んで、盛り付けて、残りは深皿に入れてラップをする。
冷めたら冷蔵庫に入れておけば、明日は味が染み込んでもっと美味しくなるはず。


ほかのご飯を盛り付けて食卓に並べて、さっきの余った肉豆腐を冷蔵庫に入れた。


「あ、これ。」


目に入ったのは、さっきクラウドが買ってきてくれたシュークリームが入っているであろう箱。

こっそり取り出して、中身をのぞく。

私は思わず声を上げた。

「ほわ……駅前のケーキ屋さんのシュークリームや……クラウド大好き……!!!」





「その大好きな俺に、今日は随分と冷たいな。ナマエ。」

「あ。」


軽いTシャツ姿で腕を組む彼。
髪はまだ乾き切ってないのに、犬の耳みたいにぴんと立っている。
ってか、やべ。バレた。


「何か怒らせるようなことしたのかと思ってたが、どうやらそういう事でもなさそうだな。
何を企んでる?」

「いやー……なんすかね……へへ……」

「当ててやろうか。」

「え、」


私に歩み寄る彼。
蛇に睨まれたカエルみたいに動けない私を、彼はぐいっと引き寄せて抱きしめた。


「俺がそうそう怒らないから、1度試しに怒らせてみたかったんだろ。」

「……バレてた?」

「ナマエの考えそうなことくらい大体分かる。」


彼を見上げると、はぁ。とため息をつかれる。
まさに「しょうもない、呆れた。」と、そんな感じだ。


「クラウドは、どうして怒らないの?
私自分勝手だし、自由だし、腹立つことあるでしょ?」


こうなったらもう作戦は続けられない。
どうしようもなくて、私はずっと抱えていた疑問を彼に投げかけた。


「確かに、あんたは自由だな。」


いや……そうですよね……
やっぱりムカついたりしてたのかな。
自分で聞いたのになんだか後ろ向きになってしまって、彼の胸板に擦り寄る。

その髪を、彼は優しく撫でた。


「でも俺は自由に生きるあんたに惚れたし、第一、何をされても可愛いが勝って怒る気にならない。」

「なっ、」


いやっ、可愛いって、

あわあわし出す私を見下ろして、彼が笑う。
ぎゅうっと抱き締められると、肺いっぱい彼の香りで充たされた。


「今のあんたも、随分可愛いぞ。」

「……負けました。」


ほんと、しょうもないことしたな。
普通に聞けばよかった。
ってか、心配にも値しなかった。

……こんなにクラウドが私に夢中になってくれてるなんて、知らなかった。


思わずニヤけそうになった口元に、ふと、熱が重なる。

はっと見上げると、そこには優しく笑う彼。


「食べるか?シュークリーム。」

小さく首を傾げた彼に、私は大きく頷いた。

「食べる!コーヒー淹れるね!」


肉豆腐の隣に、肩身が狭そうにちょこんと座るシュークリームが、なんだかとても可愛く感じた。




塩対応作戦 クラウドの場合
結果 : 失敗 (でもまあいいや。)








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