08. What Should I
ぐいっと強めの酒をあおって、口の端から伝った水滴を手の甲で荒く拭った。
思い出すのは、数時間前の主任のあの言葉。
"あの女は処分する。レノ、頼んだぞ。"
「どうするんだ、レノ。」
「どうするっつってもよ……」
隣で小さく酒を啜ったルードが、俺を心配そうに見つめている。
こいつはこんな見た目でもタークスの中で一二を争うお人好しだ。
俺があいつに……ナマエに惚れてると分かった今、この状況をどうするか親身に考えてくれている。
1人にしてくれよ。と思わなくもねえけど……まあ、これがルードだ。
今夜はそれに甘えるのも良いのかもしれない。
「タークスは裏切れねえし、死に場所だと思ってる。
たかが1人の女のために無碍には出来ねえ。」
タークスは死ぬまでタークス。
裏切りは許されねえし、そうする利点も無い。
どう考えても、誰から見ても、黙って俺はあの女をさっさと処分するべきだ。
「……って、頭では分かってんだけどなぁ。」
透き通ったあの肌を、
甘やかしてやりたくなるあの細い腕を、
そして、助けを求めるように俺を見つめたあの瞳を。
守ってやりたいと、思ってしまった。
「どうするつもりなんだ、これから。」
「どうすればいいか分かってりゃ、こんなに頭抱えたりしねえよ、と。」
「このままだと、あいつは誰かの手で処分されるだけだろ。」
「だぁから、んな事分かってんだって……」
「だったらせめて、レノ。お前の手で、」
「……だから、それが出来ねえんだろ!!」
バン、と拳で叩いた机が揺れて、店の客の視線が一気に俺に集まる。
「……悪い。」
静かに椅子に腰を下ろすと、ルードが俺の右肩に手を乗せた。
「時間は、待ってくれないぞ。」
店をあとにしたルードの背中を、俺はただじっと見つめる事しかできなかった。
「ツォン、一体どういうつもりだ。」
レノが勢いよく飛び出して、静まり返った部屋。
書類にサインをする手を止めないツォンに、ルードは責めるように言った。
「何の話だ。」
「レノにあの人質を処分しろなんて、酷じゃないか。」
ツォンは小さく笑って、首を振る。
「今までも経験してきた事だろ。
あの女だから何だ。レノは黙って任務を遂行すればいい。」
「気付いてるだろ。お前も。」
ルードの言葉に、ツォンの手が止まった。
やっと顔を上げたその瞳が細められて、再び書類に戻っていく。
「だったらどうする?」
その声は、いつものような張りのあるものではなく、どこか悲しげに聞こえた。
「神羅のために働き、任務をこなす。
それがタークス……違うか?」
その言葉に、ルードは何も返すことができなかった。
所詮俺たちは神羅という会社のひとつの歯車にすぎない。
助けたくても、どうもしてやれないのだと、彼はそう言っているように聞こえた。