06. Too Late to Fix





「……レノ。いつになったら機嫌を直すんだ。」

ばたばたと音を立てるヘリの中、操縦席に座るルードがうんざりしたように俺を見た。


「別に、いつも通りだぞ、と。」

「よく言う。眉間に皺が寄ってるぞ。」


3番街の四三分室にあるヘリポートに降り立って伸びをする。
ったく、車の方がよっぽど窮屈しねえってのに。

わざわざヘリを使ったのは、音による威嚇のためだろうか。
周辺住民のことも考えず、よくもまあこんな夜中に飛ばすもんだ。


「八つ当たりなら連中に頼む。」

「はいはい。ったく、母ちゃんかよ。」


たどり着いた先は、一見すると普通の居酒屋。
用があるのは、この裏だ。
ルードに聞けば、定休日に連中が集まって、バックヤードで様々な計画を立てているらしい。

店のドアには、「定休日。明日以降お越しください。」の文字。
そのプレートを見て、俺らは目を合わせた。


「行くぞ、相棒。」

「ああ。」


ガンッとドアを蹴りあけて店に突入する。
カウンターで驚いた顔をした女にロッドを突きつけた。


「邪魔すんぜ。あぁ、変な動きすんなよ。
無駄な仕事は増やしたく無いんでね。」

「タークスだ。ここに居る全員その場で手を挙げろ」


ルードが銃を構えて踏み込むと、そこには男が5人。
テーブルの上には、確かに盗まれた資料が乱雑に広げられている。


「ハッ、来ると思ったぜ。
夜中にあんな爆音で来られちゃあこっちだって準備出来ちまうってもんよ。」

「つーことで全員でフル装備でお出迎えしてやったぜ、感謝しな!!」


ガチャガチャと音を立てて男たちも銃を構え出した。
あの1番でけぇサブマシンガン持ってるのがリーダーってとこだろう。
M4カービンか……なるほど、悪くねえ。


「オイオイ、俺らにそんな装備で、しかも5人かよ。
舐められたモンだよなぁ、ルード。」

「ああ。奇数だが、どっちが3人だ?」

「そんなの早い者勝ちだぞ、と。」

「了解。」


瞬間、ルードがその拳銃で電球を撃ち抜いた。

相棒が左の1人を倒したのを見て、右手前の1人をぶん殴る。
そのまま倒れたそいつの銃を奪って、引き金を引いた後ろの1人の懐に入り込んだ。
ポケットから取り出した懐中電灯をそいつの目の前で光らせれば、簡易閃光弾的な要領で相手が目を瞑る。
そのまま銃のマガジン部分でこめかみを殴って、振り抜いた流れで1番奥のM4を握る手を腕ごと撃った。

そうして4人の男をぶっ倒した後、痛みに喚くそいつを縛り上げる相棒。
息も切らさねぇで、バケモノかよ。


床にうつ伏せにされたそいつの背中に座って、ルードがほかの4人を拘束する様子を横目に、首筋にM4の銃口を突き付ける。



「最近神羅にでけぇネズミが入ってな。
ここが巣だってんで来たんだけど、お前何か知ってる?
つか、知ってんだろ?」

「ぐっ、し、知ってても言うか!!」

「へぇ、これでもか。」


撃ち抜かれたそいつの手を、靴の踵で踏みつける。


「ぐぁぁぁああっ!!!」

「うるせぇなぁ。大の大人が喚くなよ、と。」


引き攣るように息をするそいつに、再び銃を向け直した。


「それで、何だっけ?
"知ってても言うか" だっけか?」

うん?と聞き直すと、男がぶんぶんと首を振る。


「わかった、わかった!!なんでも言うからもう勘弁してくれ!!」


ったく、尋問のし甲斐もねぇ。


「盗んだ機密情報は何に使った?」

「う、売ったんだ!神羅の秘密は誰もが知りたがってて、買い手は山ほどいた!
悪かったと思ってる!!」


ぎゃんぎゃん鳴き喚くなよ、うっせぇな。

こんなヤツらとグルだったのかよ……ナマエは。


「スパイの女を捕らえてる。あいつは?」

まぁ、ナマエがあんなに仲間意識を持っていたやつだ。こう見えても情には篤いところがあるのかもしれない。


……そう思って、俺は絶望した。



「あぁ、あの女か!
あんなのたまたま拾って、妙に懐くもんだから使いやすいってんで使っただけだ!
あんたの好きにしてくれて構わねえ!!」







気付いた時には、俺はその男の頭を撃ち抜いていた。


「……レノ。そいつは重要参考人だ。」

相棒が俺の手から銃を取り上げる。


「……分かってる。始末書は俺が書く。」

「そうじゃないだろ、レノ。」


俺の肩を掴んで揺するルード。
サングラスの奥に見えた瞳が、真剣に、焦ったように揺れたのが見えた。


「前から心配してたんだ。
お前、あの女スパイに情が移ったんじゃないのか?」


情?
なるほど、"情" ね。


可笑しくて思わず笑いを零すと、ルードが心配そうに俺の名前を呼ぶ。

相棒。手遅れだぞ、と。


「もうそんな可愛い物じゃねえんで、俺も困ってんだわ。」









- ナノ -