Till the full moon sets.





満月の夜、吸血鬼である彼の瞳は魔晄の蒼から深紅に変わる。


「んっ……く、」


首元から聞こえる、私を喰らう音。
彼が舌を這わせて時々聞こえる水音に、私は目を瞑った。


「……ナマエ、」

「ん……もう、終わった?」


こくりと頷く彼の髪を撫でる。
「大丈夫か」と申し訳なさそうに私を見上げるその瞳には、もうあの飢えた色は残っていない。



この世界には、人知れず人間に紛れて、吸血鬼たちがひっそりと暮らしている。
その吸血鬼たちは満月の夜、その腹を満たすために人の血を啜るのだ。
クラウドの秘密を知ったのは付き合って少ししてから。
満月を背に私を捕らえた彼は吸血鬼だったのだと、その時初めて知らされた。




「平気だよ。クラウドは、もうおなかいっぱい?」

「ああ。」


彼をぎゅうっと抱き締めて、今度は私が彼の首元に顔を埋める。
深く息を吸い込むと、彼の優しい香り。
そこに口付けると、クラウドは擽ったそうに首を竦めた。


「口濯いだら、キスしてもいいか。」


私の襟元を直しながら呟いた言葉に、思わず笑う。


「そんな事、わざわざ聞かないでよ。」


私の答えに彼は微笑むと、額に口付けていそいそと洗面台の方へ向かった。

健気で可愛いんだから、まったく。


彼が戻ってきてそのままベッドに押し倒されながらキスをする。
絡む熱に時々触れる彼の尖った牙。
そこに舌を滑り込ませると、触れさせまいとまた彼の舌がそれを絡めとった。


「んっ、ぁ……クラウド……っ、」


私の下唇を食む感覚がくすぐったい。
時々聞こえる彼のくぐもった声にどきどきする。


そのままその唇は離れずに下に辿って行って、私の首筋に牙を立てた。


噛まれる……!
そう思って目を瞑ると、予想とは裏腹に穏やかな感触。
甘噛みなんて、犬みたい。


「噛まないの……?」


ぼそっと呟いた私の言葉に、にやりと彼の口角が上がった。


「噛まれたかったか?」

「そ、そういう訳じゃないです……!!」

「安心してくれ。もう今日は十分あんたを貰った。」


ちゅ、ちゅ、と何度もあちこちに優しく啄むようなキスを落として、やっと再び見えた目が優しく細められる。
首に腕を回すと、応えるように彼が私を抱きしめた。


「でも……あともう少し、頑張れるか?」


髪を指で梳いた彼に、こくりと頷く。
飽き足らないとでも言いたげにごくりと唾を飲んだ彼の首筋に噛み付いた。



視線の先、窓の外で夜が更けていく。

満月が沈むのは、まだまだ先だ。








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