01. Unexpected Thing





「はぁ?拷問?」


赤髪の男は、ソファに寝転びながら呆れたように顔を向けた。


「そうだ。何だ、不満か?」

「そうじゃねえけど……かったりぃんだよなぁ、拷問って。」


肘置きに寄りかかり直す彼に、結んだ黒髪を揺らしながら男がため息をつく。
資料の束でその寝転んだ頭を叩くと、叩かれた方は「いてっ、」とマヌケな顔をしてやっと起き上がった。

「文句なら聞く気は無いぞ、レノ。
さっさと行って吐かせて来い。」

「はいはい。わかったぞ、と。
ったく、主任は人遣いが荒いねぇ。」

「何とでも言え。」






神羅電気動力株式会社総務部調査課、通称「タークス」。

神羅カンパニーお抱えの部署の一つで、仕事といえば調査、諜報、誘拐、暗殺など。
タークスは神羅の、いわゆる"裏の顔"ってやつだ。


ここに身を置いてもう何年経ったか、あの時の俺はそんな悪者役も板に付いてきた頃だった。
仲間も出来た。仕事も出来るようになった。
タークスになる前には味わうことの出来なかったスリルや体験に満たされる日々。

彼女と出会ったのは、そんな時だった。





「よぉ。拷問っつーからどんなヤツが待ってるかと思えば……
まさかこんな美人な姉ちゃんだとは思わなかったぜ。」


薄暗い牢の中、俺は目を疑った。
そこに居たのは、少し小柄で細い、どこか儚げな女。
こめかみからつうっと血が流れ落ちるのが見えるが、それさえも扇情的で、俺は思わず唾を飲み込んだ。

先程受け取った資料を初めてそこで開く。
この女で間違いは無い。
もう捕らえられてから2日経っており、その間既に多少の拷問は受けているようだ。
それでも吐かなかったから、仕方なく俺に回されたという所だろう。


「ありゃあ、こりゃ随分殴られてんな。
痛くねえの?」


「……」



傷だらけでも俺を睨むその鋭い目に、無意識に自分の口角が上がっていたのに気がつく。

へぇ、なるほどな。おもしれぇじゃねえか。


「なあ、痛くねえの?聞いてんだけど。」


太ももに電磁ロッドを当てて、試しに電流を流してみる。
気絶こそしないが、そこそこ痛い筈だ。

バチッと音を立てて、暗い部屋に光が弾ける。
様子を窺うと、女は黙ってこちらを変わらず睨みつけていた。


「……あんたらには何も話すことは無い。」

「へぇ、案外痛みには慣れてんのか。
可哀想な女。」


喉元にロッドを突き立てて押し付けると、生理現象で女が咳き込む。
そのまま肩を床に踏み倒してから、その女の顎をつま先で上げさせた。


「お前、ナマエって言うんだってな。」

立ったまま顔を覗き込んで、不敵に笑う。


「ナマエ。いい子にしないとタークスが来るぞ、と。」









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