envy
「……おい、」
「……なにー?」
「ナマエ、」
「あっ、ごめん、ちょっと待って。今いいとこ。」
夜も深くなった時間。
俺は、彼女の言葉に思わず眉をひそめた。
「いつまでやってるんだ、それ。」
彼女が握るのは、今流行りのゲーム機のコントローラー。
テーブルでコーヒーを啜りながら、俺はソファの前の床に腰掛けてテレビにかじりつくナマエの背中にそう尋ねた。
数時間前。
ただいまー!と意気揚々帰ってきたナマエの片手には、有名なメーカーの大きな紙袋。
いつも通り荷物を置いて、手を洗って、俺にキスをして、それから彼女が一直線に向かったのはテレビの前だった。
「ナマエ、何買ったんだ。」
俺の問いに、ナマエが満面の笑みで振り返る。
「ゲーム機!!!今日発売!!!」
そしてその単語だけ言い放つと、すぐに作業に戻る。
それからゲームを開いて、最初は俺も隣で見ていたが、2時間を越したあたりから目が疲れてきた。
それから、さらに2時間ほど経って、今に至る。
帰って早々ゲームに夢中で俺には目もくれないナマエに、小さくため息をつく。
「ナマエ。ゲームも良いが少し休まないか。
もう何時間やってるんだ。」
「待って、あとちょっとだけ!!」
……子供と親の会話か、これは。
試しにソファのナマエの真後ろに腰掛けて、彼女の髪を雑に撫でてみた。
「ちょ、待って、揺れる!見えんって!」
これではナマエは俺の方を向かない。
次いで、ナマエの頬を摘んでみた。
やめてー、なんて言って、それでも彼女の意識はまだまだゲームの方。
こうなったら、と、俺はナマエの両目を手で隠した。
「っ、ちょっと!クラウド!?見えないってば!!」
焦ったように振り返ったナマエの顔を、逸らさせまいと頬を掴む。
「やっと俺の名前を呼んだな。」
「へっ?」
そしてそのまま、ナマエのその唇に口付けた。
「んっ……んんっ、!!!」
ばしばしとナマエが俺の胸を叩くのにも構わず、キスを深くしていく。
そのままナマエの手からコントローラーを奪ってローテーブルに手探りで置くと、俺は彼女を床に押し倒した。
唇が離れると、ぽかんとした彼女の顔。
「いい加減、今日はゲームをやめろ。」
「どして?」
危機感もなく、彼女が俺を見上げた。
その無防備さに、気持ちが煽られるのを感じる。
「ずっとゲームしてたら、目が悪くなる。」
適当に理由をつけると、こてんと首を傾げるナマエ。
うーん、と小さく唸って、その瞳がまた俺を見上げた。
「クラウドは、私のお母さんですか?」
ぷちん、
理性の糸が切れる音が、俺の中に響いた。
ふっと笑って、ナマエのシャツの下から指を這わせる。
「ひあっ、ちょっと!クラウド……!」
必死に服の上から俺の侵入を防ごうとする両手を取って、彼女の顔の横に押さえつけた。
「母親か、と言ったか?」
見下ろした俺に、ナマエがぴきっと固まったのが分かる。
その焦り顔をふっと笑って、彼女の耳元に唇を寄せた。
「あんたの彼氏だって忘れたなら、是非とも身をもって思い出してくれ。」