97.プレゼント選び

 小黒のプレゼントを選びに、デパートに无限大人とやってきた。十歳くらいの男の子は、どんなものをもらうと喜ぶだろう。小黒はおもちゃはほとんど持っていない。サッカーボールなど、外で遊ぶ道具くらいだ。最近だったら電子ゲームもいいのかもしれないけれど、それもどうなんだろうとも思う。考えれば考えるほど、悩んでしまう。小黒が喜んでくれるプレゼントって、なんだろう。
「うーん、難しいですね……」
「悩んでいるね」
「小黒が喜んでくれるものって思うと、ぴんとこなくて」
 とりあえずおもちゃ売り場を覗いたけれど、ロボットや電車や車のおもちゃで遊んでいる姿はイメージできない。ブロックなんかは楽しいかもしれないけれど、身体を動かすことの方が好きだろう。
「服はあるし……」
 次に服屋を見てみたけれど、いまのところ新しい服は必要なさそうだった。
「本は……まだ字が読めないんですもんね」
 本屋に来て小学生向けのコーナーを眺めてみる。私は本が好きなので、小黒にも読書の楽しさを知ってほしいけれど、まだ早そうだった。
「絵本ならいいかな?」
 こちらで定番の絵本はどれだろう、と絵本コーナーに移動する。いくつか平積みにされている中で、興味を引くものをぱらぱらと捲ってみる。
「よさそうだけど、小黒が喜ぶかっていうとな……」
 どうだろう。渋い顔をされるかもしれない。无限大人は小さく笑う。
「あの子なら、君が作ってくれたケーキで十分喜ぶと思うが」
「もちろんケーキは作りますよ! でもやっぱり、物も贈りたいじゃないですか。形の残るものを」
 とはいえ、二人は基本的にはホテル暮らしなのであまり物を持たない。かさばらなくて、楽しめるもの。
「……あ、靴はどうでしょう」
「靴か」
 ちょうど靴屋が目に入って、立ち止まる。子供用のスポーツシューズが並んでいた。
「今履いてる靴、結構くたびれてきてましたからね。そろそろ新しいのにしてもいいのかも」
「そうだな」
「これとかかっこよくないですか?」
 一番目立つところに置かれていた靴を手に取って、无限大人に見せる。
「サイズは……ありますね。どうしようかな。これにしようかな」
 いろいろな角度から眺めて、他の商品とも見比べて、考える。
「どうですか。かっこいいと思います?」
「いいと思うよ」
「うーん……。じゃあ、これにしましょう!」
 たっぷり時間をかけて悩んで、最後は无限大人に背中を押してもらって、決定した。レジでプレゼント用に包んでもらって、購入する。
「ふふ。喜んでくれるといいな……。小黒」
「きっと喜ぶよ」
 買い物が終わってほっとしたところで、カフェに寄ることにした。コーヒーとケーキを頼んで、一息つく。
「誕生日会をしようって提案したの、无限大人なんですね」
 冠萱さんに聞きました、と言うと、无限大人はうん、と頷いた。
「すごく素敵だと思います。妖精は、誕生日をお祝いするってことをしないけれど……。小黒は无限大人と出会ったから、そういう習慣があることも知って、私のことも祝ってくれて。私も、小黒が生まれたことをお祝いできるのがとても嬉しいです」
「あの子を喜ばせてあげたくてね」
 无限大人はそう答えて、コーヒーを一口飲む。
「小黒は、无限大人と出会えて、館に来れて、本当によかったなって、思っちゃいます」
 无限大人が館に連れてきた妖精はこれまでもたくさんいただろう。彼らには様々な思いがある。けれど、小黒に限っていえば、よかったのだろうと確信できる。だってこんなに大事にされているのだから。无限大人は少し眉を下げた。
「だと、いいんだが」
「小黒を見てればわかりますよ」
 私が心からそう伝えると、无限大人は少しはにかんだ。なんだか珍しい表情だった。ちょっと、かわいい。ついにこにこしてしまうと、无限大人は咳ばらいをして誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。

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