87.妖精たちのお茶会 |
翌朝、朝食を買ってきて、部屋で食べた。そのあと无限大人はまた出かける。小黒は今日はお留守番だ。 「小黒、小香を頼んだよ」 「うん。師父も頑張ってね」 「では、行ってくるよ」 「いってらっしゃい、无限大人」 无限大人を見送って、小黒と目を合わせる。小黒は留守番を嫌がらず、むしろ无限大人が私を託していったので、張り切っているようだ。 「ぼくが一緒にいるから安心してね」 「ありがとう。心強いな」 小黒と微笑み合って、今日はどうしようかなと考える。 「せっかくだから、館の中を歩こうかな」 「じゃあ、案内するよ」 小黒に手を引かれて、部屋を出る。館の中には来たことがあったけれど、あまり奥までは入ったことがない。 「小黒、お出かけかい」 「小香を案内してるの!」 「おはよう、小黒」 「おはよう!」 顔なじみが多いようで、すれ違う妖精たちは小黒に挨拶をしていった。 「あら、小香」 「深緑さん。こんにちは」 「こんにちは……。小黒も、こんにちは」 「深緑、こんにちは!」 小黒は深緑さんとも知り合いだったようだ。 「どうして館に?」 「ちょっと事情があって、しばらく泊ってるんです」 「そうなの。じゃあ、午後からお茶会があるのだけど、来る?」 「いいんですか?」 「ええ。小黒もいらっしゃい」 「うん。行こうよ、小香」 「じゃあ、お邪魔します」 深緑さんのお誘いをありがたく受けることにして、小黒とお昼を食堂で食べた後、誘われた部屋へ向かった。そこは公共の場となっていて、広く、テーブルと椅子がたくさん置かれている。 「みんな、紹介するわ。小香よ。館で働いている人間の子なの」 「はじめまして、小香」 「私は会ったことがあるわ。ね、覚えてる?」 妖精たちは次々に挨拶をしてくれた。私はそれに返事を返していく。 「ここに座って。私がお茶を淹れるわ」 淹れ方、うまくなったのよ、と深緑さんは笑みを浮かべる。小黒はお茶が待ちきれずにお菓子を頬張っていた。 「はい、どうぞ」 「いただきます。……うん、美味しい!」 「そうでしょう」 笑みを零す私に、深緑さんは満足げだ。 「他にもいろいろ覚えたのよ。料理とか、刺繍とか」 「いいですね。楽しそうでよかったです」 「彼女が私をお茶に誘ってくれたの」 深緑さんは隣に座る桃色の髪の兎のような顔をした妖精を示した。 「館に来たばかりで、まだ馴染めてないみたいだったから。私はもう長くいるから、そういう人には声を掛けるようにしてるの。お節介だけど」 「そんなことないわ。感謝してるもの」 「ふふ。ここでの暮らし、悪くないでしょ?」 「ええ、思ったよりわね」 深緑さんはつんとしているけれど、それは照れ隠しだとわかる。友達ができて、うまくやっているようで本当によかった。 「お困りのこととかありませんか?」 「いまのところは問題ないわ」 「普段は、どんなことをして過ごしてるんですか?」 「そうね、こうしてお茶したり……」 職場で話すよりも、リラックスした場のせいか、深緑さんはいろいろなことを話してくれた。他の妖精たちともいろいろな話ができて、有意義だった。館の妖精たちが普段どうしているのか、もっと詳しく知ることができた。 ← | → |