78.紫羅蘭と洛竹A

「今度ね、洛竹と紫羅蘭と公園に遊びに行く約束したんだけど……」
 小黒がもじもじしながら言うので、耳を傾ける。小黒は人差し指同士をつんつんとしながら、上目遣いに私を見上げた。
「お弁当、作って行きたいから……一緒に作ってほしいの」
「二人とも、きっと喜んでくれるね」
「うん!」
 もちろん、断る理由はない。快諾すると、小黒もとびっきりの笑顔を見せた。
「小香も一緒に行こうね!」
 无限大人はしばらく忙しくしている。その間は小黒とまた二人暮らしだ。お互いの行動やタイミングがなんとなくわかってきて、一緒にいてぎこちなくなることが減ったと思う。小黒も遠慮がだんだんなくなってきて、自分のしたいこと、してほしいことを我慢せず言ってくれるようになった。
「おにぎりは任せて! ぼく得意だから」
「ふふふ。ふりかけとか、しゃけとか、いろんなおにぎり作ろっか」
「ウインナーいれる!」
「ウインナー? あはは、それもいいね!」
 小黒と思いついたことを取り入れながら、楽しくお弁当を作った。デザートにマンゴーを切ってタッパーに詰める。これで準備万端だ。
 小黒は麦わら帽子を猫耳の上から被って、靴を履いて、私が仕度を終えるのを待っていた。
「お待たせ小黒」
「早く行こ!」
 駆け出しそうな小黒に待ってもらいながら、玄関の鍵を閉め、待ち合わせをしている公園まで歩いて向かう。
「おーい、小黒!」
「洛竹!」
 公園の入口近くまで来ると、待っていた洛竹くんが大きく手を振ったので、小黒はぴょんと跳ねるようにして駆けて行った。洛竹くんの後ろには紫羅蘭ちゃんもいる。
「こんにちは、洛竹くん、紫羅蘭ちゃん」
「こんにちは! ふふ、小香と館の外で会うのは初めてだね」
「そうだね! 二人は、街にあるお花屋さんで働いてるんだよね?」
 小黒と洛竹くんは先に芝生の方へ走って行って、持ってきたボールを蹴り始めた。私と紫羅蘭ちゃんはそのあとをゆっくり追いながら、話をする。
「うん。言ってなかったっけ。風息公園にあるんだよ。今度遊びに来てね」
「そうだったんだ。ぜひ行くね」
「待ってるね! あ、洛竹が呼んでる。私たちも行こう!」
 荷物を置いて、紫羅蘭ちゃんに手を引かれて二人の元へ駆け寄る。
「行くよ!」
 小黒がボールを蹴ってくるので、紫羅蘭ちゃんにパスした。紫羅蘭ちゃんは洛竹くんにパスすると見せかけて、また私の方へパスしてきた。
「小香、ゴールして!」
「えっ、ゴールどこ?」
「させないぞっ! 小黒、そっちからだ!」
「任せて!」
「待って、待って」
 突然二対二のチーム戦が始まって、洛竹くんと小黒が左右から迫ってくるので慌てながら紫羅蘭ちゃんにボールを戻す。紫羅蘭ちゃんは上手くボールを操り、ボールを取ろうとする洛竹くんを軽々とかわす。そこに小柄な小黒が回り込んで、一瞬の隙をついてボールを奪うと、ゴールに見立てた場所にボールを蹴り込んだ。
「やったな!」
 洛竹くんと小黒は片手を上げてタッチして勝利を分かち合った。たくさん遊んで、お昼になり、小黒と作ったお弁当を広げる。
「へえ、お弁当ってこんななんだ! 手が込んでるなあ」
「へへ、おにぎりはぼくが作ったんだよ! ウインナー入ってるの!」
「美味しそう! 小黒、すごいわ。ありがとう」
 二人ともお弁当をとても喜んでくれて、小黒も得意そうだった。二人によくしてもらっているから、少しでもお返しができて嬉しいんだろう。その手伝いができてよかった、と小黒の満足そうな顔を見て思った。
 その日はくたくたになるまで遊んで、夕方になって二人と別れ、家に帰った。今日は小黒も素直にお風呂に入ってくれて、布団に入ったら私も小黒と一緒にすぐ寝入ってしまった。快い睡眠だった。

|