74.そして家族になる

 長いと思っていたお休みはあっという間に終わってしまって、向こうに帰る日になった。
「今度はいつ帰ってくるの?」
「お正月に帰れたらと思うけど……また連絡するね」
「无限大人、またいつでもいらしてください」
「世話になった。歓待に感謝する」
「小黒、またね」
「またね!」
 それぞれがそれぞれにお別れを言い、空港に向かう。ようやく飛行機に乗れて、ほっと息を吐いた。无限大人と小黒を家族に紹介できて、ゆっくり過ごせて、とても充実した休暇になった。
「楽しかったなあ」
 窓の外を見ながら、小黒がぽつりと呟く。小黒も満喫してくれたようで、なによりだ。
「あのね、なんだかね……。ぼくも、みんなと同じようにしてもらえて、嬉しかった」
「同じ?」
「家族のように、だな」
 小黒の言いたいことを、无限大人が察して教えてくれる。
「こういうのが、家族なんだね」
 小黒は感慨深げに息を吐いた。小黒にとっては、血の繋がった人たちの集まりを間近で見るのは初めてだったろう。妖精の仲間とは、また違ったつながり。それは、小黒の目にどう映ったんだろうか。
「无限大人も、小黒も……、もう、私の家族だと思ってます」
 思い切って、そう伝える。こちらに来て、みんなに二人のことを受け入れてもらえて、そう強く思えるようになった。小黒がはっとした顔で私を見上げる。私は心を込めて小黒の手を握った。小黒は唇をきゅ、と閉じて、手を握り返してくれた。
「そっか……。へへ!」
「ふふふ」
 そして、柔らかな頬を赤くしてにっと笑う。小黒の向こう隣に座っている无限大人が手を伸ばしてきて、私と小黒が握っている手の上に重ねてきた。二人とも、暖かい手。目が合うと、微笑んで頷いてくれた。
 機内放送がかかり、飛行機がゆっくりと飛び始める。これでしばらく日本とはお別れだと思うと、少し寂しいけれど、それ以上に二人と一緒に向こうへ戻れることが嬉しかった。これからずっと過ごすようになるのだから、もう第二の故郷といってもいいのかもしれない。そう思って、一人笑みが零れた。
 始めは外を見ていた小黒は、すぐに椅子にもたれて眠ってしまった。
「无限大人。ありがとうございました。来てくれて」
「こちらこそ。ずいぶんよくしてもらったよ」
 小声で話しかけると、无限大人も小声で返事をしてくれた。
「みんな、いい人たちだ」
「ふふ。気に入ってもらえたら嬉しいです」
「私はいい印象を与えられただろうか……」
 真面目に心配そうな顔をするので、つい笑ってしまった。
「大丈夫ですよ! 最初は緊張してましたけど、すぐ打ち解けてたじゃないですか」
「だといいんだが。君のご家族に受け入れてもらえて、ほっとした」
 无限大人は顔を正面に向けて、胸の内を吐露する。
「実は、反対されたらどうしようかと不安だった」
「そんなこと……」
「私は、いわゆる普通とは違うからね」
 无限大人も、そのことをずっと懸念していたんだと思うと、ちゃんと考えてくれているんだ、とじわりと嬉しさが広がった。
「それに、君をこちらに留めてしまったから。怒られるかもと」
「そんな、怒りませんよ」
 少し茶目っ気っぽく言われて、吹き出してしまう。
「君のことを大切にしているのがとても伝わってきたからね。少し申し訳ないが」
「……无限大人も、すごく私のこと、その、大切にしてくれてること、伝わってますから……大丈夫ですよ」
 自分で言うのもどうなんだろうと思ったけれど、口に出すのも大事だと思って伝える。无限大人は笑みを深め、目を細めた。
「釣りに行った時に、言われたよ。守ってやってほしいと。全霊を賭けて、と答えた」
「无限大人……」
 その言葉に、胸がいっぱいになって目が潤む。本当に、この人にこんなに思ってもらえるなんて、一生に一度どころか、何度生まれ変わったってもう起こらないくらいのすごいことだと思う。お父さん、お母さん、私はこんなに、幸せです。

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