67.東京観光

 浅草寺までの道のりは人でいっぱいだった。外国人観光客の姿が目に付く。雷門の前にもたくさん人がいて、みんな写真を撮っていた。せっかくだから、とお父さんがそこに全員を並ばせて、写真を撮った。
 雷門をくぐると、仲見世通りが浅草寺までまっすぐに伸びている。両側にお店がずらりと並んでいた。
「いいにおいがする」
 小黒が鼻をひくひくとさせる。小黒の両側には妹たちがついていて、しきりに小黒に話しかけていた。
「どれが食べたい?」
「美味しいものいっぱいあるよ」
「あれはなに?」
「モテモテだな」
 そんな小黒を无限大人は微笑ましく見守る。大人たちは子供たちのあとをゆっくりと雑談をしながらついていった。おじいちゃんはここぞとばかりに浅草寺や日本の歴史について无限大人に語って聞かせるので、通訳が大変だった。でも、无限大人もとても興味深そうに聞いてくれるから、なんだか嬉しくなった。
「あんまりなんでも買っちゃだめよ」
 小黒がよく食べるものだから、妹たちもぽんぽん買い与えているので、見かねて注意する。妹たちは悪びれずはーいと返事をした。
「お参りしますよ」
 やっと浅草寺について、おばあちゃんを先頭にお寺を参拝した。无限大人と小黒も見よう見まねで手を合わせ、おじぎをする。
 妖精にとって、信仰はどう見えるだろう。時代が時代なら、妖精は崇め奉られる側だ。きっと、小黒にとってはお寺はお祭りを行う場所くらいの認識だろう。
 帰りは伝法院通りを歩いて、駅に戻ると東京に向かった。東京駅で下りると、浅草とは一転して都会の真っ只中に入った。
「ここが首都です。上海に比べるとそこまででもないかもしれませんが……」
「きれいな街だな」
 確かに向こうから戻ってきてみると、道がきれいなのを感じる。
 東京駅を眺めてから丸の内仲通りを歩く。おしゃれな建物が並んでいて、これがこの国の最先端だと示していた。そこから皇居まで足を延ばし、皇居東御苑の旧江戸城を眺めた。
「屋根の形、似てるけどずいぶん違うね」
「そうだね」
 小黒と一緒に、門の上の黒い瓦屋根を観察する。向こうの屋根は湾曲していて鮮やかな色をしているけれど、こちらは黒でシンプルな雰囲気だ。ここでもおじいちゃんがいろいろなことを教えてくれて、私も勉強になった。
 地元に戻るころには日が傾いてきていて、外でご飯を食べることになった。ちょっと豪勢に、お寿司屋さんのお座敷だ。
「小黒はお寿司食べたことある?」
「あるよ! 向こうにもお寿司屋さんがあるんだよ。小香に連れて行ってもらったんだ」
「へえ、そうなの?」
「味も一緒かな」
「美味しかったよ!」
 小黒は何を食べたかひとつひとつ名前を上げる。お母さんや妹たちはよく知っているのねと大げさに驚いて見せるので、小黒は得意気だった。
「日本酒をいただこうか」
「はい」
 无限大人がそう言うので、私も付き合うことにする。食べて飲んでいるうちに、会話が弾むようになって、お母さんからそういえば、と質問された。
「どうやって二人は出会ったの?」
「それは……」
 无限大人と顔を見合わせる。出会ったばかりのときの気持ちは、无限大人にちゃんと話したことはない気がする。
「えっと、最初は仕事で。あるとき、お客さんともめているところに无限大人が来て、助けてくれたの。それで、お礼に食事に誘って……」
「えー、お姉ちゃんやるね!」
 お酒の回っている妹に冷やかされて、酔いよりも恥ずかしさで顔が赤くなった。
「いつから好きになったの?」
「もう、いいでしょうそういう話は」
 もう一人の妹につつかれて、誤魔化そうとお酒を煽った。

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