41.回復

 咽喉が乾いて目が覚めると、枕元に无限大人がいてくれていた。
「気分はどう?」
「まだ……。お水が欲しいです」
「もってくるよ」
 私に起きないように手ぶりで伝えて、リビングに向かう。汗を掻いていて、不快感があった。どれくらい寝ていたんだろう。端末を見ると、夕方ごろだった。熱は変わっていない感じがする。まだ身体がだるくて、起き上がるのも億劫だった。
「飲める?」
 コップを持って戻ってきた无限大人に、なんとか上半身を起こして、コップをもらう。冷たい水が咽喉を潤して身体に染み渡った。
「変えようか」
 額に貼っていた冷却ジェルシートを剥がしてくれる。
「まだ熱いな。汗を掻いただろう」
「はい……」
「タオルを持ってくるよ」
 甲斐甲斐しく世話をしてくれる无限大人に、申し訳なさと嬉しさが入り交じる。ちょっと甘えすぎかもしれない。けれど、慣れない土地で弱っているところに、頼れる人がいるというのは本当に心強い。もし一人だったら、もっと心細くて、世界に独りぼっちのような気分になっていたかもしれない。それくらい心も弱っていた。元々風邪を引きにくい方だったから余計だ。
 无限大人はタオルを持ってくると、私の身体を起こして、首回りを拭いてくれた。他の部分は自分でやる。それだけでも少しすっきりした。
「他にしてほしいことはあるか?」
「大丈夫です。あとは、薬を飲んで寝ていれば治ると思うので……」
 だから、帰ってもらっても、そう言った方がいいのはわかっているのに、うまく言葉にならない。だって、まだいてほしいと思っている。迷惑をかけてしまうのに。
「小黒を呼んでもいいか? 騒がしくはしないから」
「え……」
 それは、今夜は泊ってくれるという意味だ。いてほしい、と言えないでいるのに、无限大人の方からそばにいてくれようとしてくれるのが嬉しい。
「はい……」
「ご飯だけ、外で食べてくるよ」
 その間は寝ていなさい、と无限大人は優しく私の頭を撫でる。少しの間離れることも寂しく感じてしまう。どうしてこんなに弱ってるんだろう。自分の弱さがいやになってくる。无限大人はただ慈しみ深い瞳で私を案じて見つめてくれる。大好きという気持ちがただただ溢れていく。
 无限大人が出て行くと、とても部屋が静かに感じた。今はとにかく眠ろう。寝て、早く元気になろう。そう思って目を閉じたら、すぐに意識が落ちた。
 次に目を覚ました時には、部屋に誰もいなかった。けれど、リビングから物音がする。二人とも、来てくれてるみたいだ。起き上がってみると、少しだけよくなっているのか、それほどしんどくなかった。そっとドアを開けると、ソファに无限大人と小黒が座っていた。
「あ! 小香!」
 小黒はぱっと耳を立てて、私の方へ駆け寄ってくる。
「もう大丈夫? 元気になった?」
「小黒、心配してくれてありがとうね」
「少しはよくなったか?」
 飲み物を飲む私に、无限大人はさっきよりはちゃんと立っていることを確認する。
「少しお腹が空いたので、おかゆ作ろうと思って」
「なら、私が」
「師父、それは無理だから」
「む……」
 いつものやりとりに、笑う余裕ができてきた。これなら大丈夫そうだ。二人に心配そうに見守られながら、おかゆを作る。ほかほかの柔らかいご飯が胃に染みた。
「この分なら、明日は仕事行けるかな」
「大事をとって休みなさい」
「そうだよ、無理しちゃだめだよ」
 薬が効いてきたのか熱が下がってきたと思ってそう言うと、二人に止められてしまった。
「小香、何かあったら呼んでね」
「うん」
 二人がリビングにいてくれると思うと、もう寂しくなかった。その夜は、ぐっすり眠れ、翌日にはすっかり元気になっていた。

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