10.瞳の熱

 久しぶりに、无限大人と一緒に食事をすることになった。仕事が終わってから駅前で待ち合わせをして、店に入る。まだ、一緒にいると緊張してしまう。付き合う前の方が、もう少し落ち着いていたかもしれない。付き合っているという状態に、なかなか慣れることができないでいる。でも、まだ数回しか会っていないから仕方ないとも思う。これから、何度も会うごとに、少しずつ落ち着いていければいい。
「決まったか?」
「あっ、はい、ええと……」
 なんて考えていたら、メニューとにらめっこしたままどれにするか決めるのを忘れていた。
「ええと……无限大人と同じもので」
「わかった」
 无限大人は店員を呼んで、注文をしてくれた。私はそわそわしながらそれが終わるのを待っていた。まだ、指輪を贈るという話は内緒だ。実物を確認しないといけないし、心の準備もある。
「もうすぐ春節だな」
「そうですね」
「実家に帰るのか?」
「まだ決めていないんですけど……」
 去年は雨桐のうちで過ごした。今年はどうしよう。少し前に帰ったばかりではあるし、こちらで過ごすのもいいかもしれない。
「よければ、一緒に過ごさないか」
「はい! そうしたいです」
 无限大人は私の答えの勢いに目を丸くしてから、肩を揺らして笑った。一緒に、と言われたときにはもう考える前に答えてしまっていた。我ながら、反応が早すぎる。即答してしまったのを繕うように、付け足す。
「あの、小黒がよければ、ですけど……」
「もちろん、いいと言うよ」
 无限大人はそう請け負ってくれた。
「雨桐のうちで、春節のお料理習ったんです。だから、それを作ろうかな」
「それは楽しみだな」
「あ、じゃあ、うちに来てもらうのがいいですね」
「いいのか?」
「はい。ぜひ来てください!」
 雨桐のご両親にお料理を教わっておいてよかった。こんな風に役に立つなんて思っていなかった。新しい年のお祝いを一緒にできるなんて、とても嬉しい。
「去年は、メッセージをくれたな」
「そうでしたね。日付変わった瞬間に送ろうって構えてたんです」
「ふふ。ぴったりの時間だった」
「今年は、直接おめでとうって言えるんですね」
 そう考えたら、なんだか胸がいっぱいになってしまった。それだけ距離が縮まったんだ。
「……やっぱり、まだ不思議です。こうして、无限大人と話せていることが」
「小香……。すまない、私が……」
「いえ、違うんです。それはもういいんです。だって、今、こうしていられているから……。でも、それがずっと、奇跡みたいで、夢みたいで……。幸せすぎて、不思議なんです」
 頬を押さえて、ふふふと笑い声が漏れてしまう。
「こんなに想ってもらえて、幸せ者は私の方だ」
 无限大人は目を細めて私を見つめてくれる。ああ本当に、この人が私の前にいてくれている。幸せでいっぱいで、溜息が出てしまう。
「君のその瞳で見つめられるたび、胸が熱くなる」
「无限大人……」
 テーブルの上に手を伸ばしてくるので、私も手を伸ばし、指を絡め合った。温かな体温が指先を通して伝わってくる。
「私への愛で満ち溢れた視線が、得がたくて、かけがえのないものに感じる」
「そんなこと……。ただ、つい見つめたくなってしまって……」
「そんな瞳に、いつしか絆されてしまったんだ」
 私の想いが无限大人に届いたんだと、実感が湧く。无限大人の瞳が、そのことを雄弁に伝えてくれる。店内だというのに、泣いてしまいそうだった。
「幸せです……すごく……」
「私もだよ」
 料理はすごく美味しくて、いろんなことを話しながら食べていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

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