9.渡したい気持ち

 无限大人に渡す指輪。
 どんなものがいいだろう、と考える。同じシルバーで、シンプルなものでもいいけれど、何か石がついているといいかもしれない。
 翡翠は无限大人の瞳の色。この石を見るたびに、あの眼差しを思い出すことができる。そんなふうに、何か私を象徴するものがあればいいのに。私に関する何かを、无限大人に持っていて欲しい。見るたびに、私を思い出して欲しい。
 でも、私を象徴するものってなんだろう。誕生石は、ガーネットだ。赤い色は好きだ。なんとなく、他の色より好ましい気がする。でも、无限大人は青が似合う人だ。无限大人に似合うものを選んだ方がいいのかもしれない。何がいいだろう……。
 ガーネットについて検索していると、お守りとして持つこともあったという文章を見付けた。お守りなら、いいかもしれない。无限大人は強いけれど、危険な任務に向かうこともあるだろう。無事に帰ってきて欲しいという祈りを込めて。
 青が似合うからこそ、その中に、一点だけ、小さく、けれど確かな輝きを放つガーネットを身に着けてくれたなら。
 私という存在が无限大人の一部となれたかのような気持ちになりそうだ。それはとてもいい思いつきだと感じた。
 普通、誕生石は自分自身が身に着けるものだろうけれど、今回は石に私の心を託して受け取ってもらおう。
 そう決めると、あとはどんな指輪を贈るかだけだ。
 まずはネットを見て、いいデザインの指輪がないか探した。ガーネットの石の大きさや、台座の意匠、様々な種類があったけれど、なかなかこれだ、と思うものに行き当らない。何日か掛けて探すことにした。仕事の休み時間もじっと端末を見ているものだから、雨桐に真剣な顔で何探してるの、と聞かれてしまった。
「指輪を、私も无限大人に贈ろうと思って」
「へえ、指輪交換だ。いいね」
「そ、そう、ともいうね……」
 平然と声に出して言われると照れてしまう。なんだか、すごく大胆なことをしようとしている気分になった。
「ペアリングじゃなくていいの?」
「うん。无限大人が選んでくれたみたいに、私も、自分の選んだ指輪を渡したいなって思って」
「ふうん。いいんじゃない」
「でも、たくさん種類があってなかなかいいのが見つからないんだよね」
「じっくり選びなよ。大事なプレゼントなんだから」
「うん。そうする」
 指輪を渡したときの反応を想像しながら、満ち足りた気持ちでページをめくる。无限大人は、どんな気持ちでこの指輪を選んでくれたんだろう。こんな風に、幸せな気持ちでいてくれただろうか。
 无限大人の左手の薬指に、私が選んだ指輪が嵌められているところを想像してみる。青い色の中に一点、赤が灯っている。それは私の色。ささやかだけれど、確かな存在感を持って、そこにある石。
 无限大人が受け取ってくれて、身に着けてくれるということが、どれほど嬉しいことか。考えただけで胸がいっぱいになって、幸せに浸ってしまう。こうなったら、納得のいくものに出会えるまで、徹底的に探してやろうという気になった。无限大人につけてもらうのだから、美しいものじゃなくちゃだめだ。
 早く渡したいという気持ちを押さえつつ、いくつか気になったものをピックアップし、見比べて、他にもっといいのがあるんじゃないかとまた探す。そうして数日かけて、ようやくこれだというものに辿り着いた。
 何度も写真を見て、本当にいいか確認する。无限大人がつけているところを想像すると、しっくりきた。やっぱり、これしかない。
 注文をして、決済を済ませる。これであとは届くのを待つだけだ。
 ふうと息を吐いて、壁に寄りかかる。ベッドの上で三角座りをしていた足を伸ばして、検索している間ずっと縮こまっていたことに気付いた。
 到着して、実物を見て、問題がなかったら、渡そう。
 いよいよその時が近づいてきて、胸がどきどきした。
 喜んでもらえるといいな。

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