インターホンが三回、ピポピポピポーンと続けざまに押されたので、露伴は鍵を捻るやドアの隙間から無愛想な顔をのぞかせた。冷たい外気がぶわっと吹き付け、一瞬で温度を奪い去る。
 露伴から暖気を奪い取った原因は、へらっとして片手を上げた。
「露伴せんせー」
「なんだなまえか……康一くんはいないのか」
 ドアからもう少しだけ身を乗り出してなまえの背後や両隣、植え込みの影へ目を走らせたが生憎小さな彼の影は見当たらない。がっかりして家に帰ろうとして、なまえの掌の赤さが目に付いた。
「ん? 手を怪我してるじゃないか」
 女の子が柔い肌に傷を付けるなんて。
「これ? あかぎれ」
「どうしてそんなもの。冷えてるじゃないか」
 傷をよく見ようと引き寄せると、外気と同じぐらい彼女の肌は冷たかった。
「手袋忘れた」
「この寒さでか」
 馬鹿だ。ドアの中に引きずり込んで、すぐに閉める。外気がだいぶ家の中に入ってしまった。よろける彼女に構わず背中を押して暖かなリビングへと連れ込む。
「……耳が赤い」
「帽子忘れた」
「鼻の頭が赤い」
「外寒かったから」
「ハンドクリームを塗れ! 帽子被れ! 手袋とマフラーもだ! なんだその薄着は馬鹿者!」
 バカを暖炉の前に座らせ毛布をかぶせ、塗り薬を押し付ける。
 なまえは毛布をぎゅっと体に巻きつけ、へらっと笑った。
「雪降ったから」
 ミルクを温め、ココアをかき混ぜる。甘ったるい匂いが立ち上った。
「露伴せんせー漫画描いてて気付いてないから教えてあげよーって朝イチで来たの」
「…………馬鹿者が」
 自分用にブラックコーヒーを淹れて、ココアをなまえに手渡した。湯気が彼女の凍った鼻先に触れ、ふと揺れる。頬の赤みが増したようだ。目を逸らして一口啜る。少し冷気を吸っただけで、外に出てすらいないのに、コーヒーの暖かさがありがたく感じられた。
「うへへ」
「雪が降ってることくらい知っている! 寒いんだから防寒もするさ。ところでお前、朝イチなら朝食はまだだろうな」
「うん」
「食べていけよ。昨日作っておいたシチューがある」
「やった!」




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