▼ 第三十九話 救出

 エックスの放った弾丸は正確な軌道を描き、一瞬で照明すべてを破壊する。光を失ったシャマー星人たちは狼狽えて本来の正体を現した。名前は支えを失い、がくりと倒れる。エックスは名前が床に崩れ落ちる前に彼女を支えた。
「照明が……! ああ! 人質も取られちゃった! どうしようどうしよう」
 エックスの足元を十センチほどのサイズになったシャマー星人がわたわたと走り回る。
 名前を抱えたまま、だん、と足を踏み込んでエックスは宣言した。
「よく聞け、侵略者よ! 私は地球を見捨てたりしない。名前を傷つけるものは何者も許さない! 私がいる限り、地球を支配なんて絶対にさせない! 諦めて母星に帰れ!」
 シャマー星人たちは悲鳴を上げて逃げ惑った。エックスは深追いはせず、名前の様子を確認した。呼吸はしている。外傷もないようだ。名前の頬をそっと撫でる。それは大地の手だったが、今はエックス自身の感触として感じられた。
 ふと、名前のまつげが震え、そっと目が開かれた。
 夢見るような瞳は、ゆっくりと焦点を調整し、ぼんやりとエックスへ向けられた。
「……エックス……?」
 エックスは大地の顔で、微笑んだ。
「もう、大丈夫だ。私がいる」
 名前は安心したように口元を綻ばせ、また意識を失った。エックスは名前をしっかりと抱え直す。耳や首元、腕につけられた装飾が耳障りな音を立てた。
 あの薄汚い宇宙人たちの手が彼女に触れ、これらをつけたのだと思うといますぐに外してしまいたかったが、残念ながら今は時間がない。
 エックスは名前を抱えて、先程ぶち抜いた穴へ飛び込み、スペースマスケッティへ向かった。



「324機目! あーもう、どんだけいるんだよ! 鬱陶しい!」
 ゼロは無尽蔵に沸いてくる小型船をひたすら捌きながら、エックスからの通信を待ちわびていた。
「ゼロ!」
「遅い!」
「名前を確保した! 光子増幅装置を頼む!」
「お前は来ないのかよ!?」
「すまない、消耗しすぎた」
「しょうがねえな!」
 ゼロは額のビームランプからエメリウムスラッシュを放ち、一面の小型宇宙船を薙ぎ払った。
「よっしゃ、あれだな!」
 開けた視界に、月の表面がはっきりと見えた。月を傷つけないよう気をつけながら、ゼロは装置を引き剥がし、宙に放ると、立てた右腕に左腕をL字に組み、右腕から放たれる光線――ワイドゼロショットで焼き払った。



「はっ、月が暗くなった……!?」
 シャマー星人は頭上に輝き出した星を見上げ、はっとしてマックスに目を戻したが、遅かった。
「見つけたわよ」
 アスナにビルの屋上にいた本体を突き止められ、逃げる間もなく撃たれた。
「隊長。目標排除しました」
「了解した。すぐにXio本部へ戻れ」
 アスナはすぐにランドマスケッティに乗り込む。
「本当に幻影だったんですね」
 スカイマスケッティからマックスを援護していたハヤトは、跡形もなく消えた巨大シャマー星人がいた場所を窓越しに見上げる。マックスはアスナとハヤト、ワタルに首肯いて見せると、夜空へ飛び上がった。隊員たちはその姿を敬礼と共に見送った。
「大地……」
 アスナはいつもの姿に戻った月を見上げ、心配そうに呟いた。

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