▼ 第三十八話 憤怒
Xioの面々に見送られ、大地を乗せたスペースマスケッティを片手に、ウルトラマンゼロは地球を飛び出した。
「いいか。俺があいつらの注意を引き付ける。その間に名前を救出するんだ」
「それから、装置の破壊だな」
大気圏を突破し、気象衛星の影に隠れて二人は月を見上げる。月の周りに、小惑星郡のように小型宇宙船が群がっていた。宇宙空間に出てから、大地はエックスとユナイトした。
月を睨みあげ、ぎり、と骨が軋むほど拳を握り込んでいるエックスに気づき、ゼロは彼の肩を軽く叩く。
「あんま力みすぎんなよ。彼女を助けるのが最優先だ」
「わかっている。だが、やつらのしたことは絶対に許さない……!」
「当たり前だ。思い知らせてやろうぜ。この星を狙ったツケを――」
「名前を拐い、その心を踏みにじり、危険な目に遭わせたことを! 行け、ゼロ!」
「えっ? 押すなよ! うわっ」
ゼロはエックスに思いっきり背中を押されて、宇宙船郡の真っ只中に投げ出された。
「おいおいおいおい、これじゃかっこ悪いっつーの! ったく、てめーら! 大人しく散れっ!」
ゼロが小型船を蹴散らすのを横目に、エックスは月の裏側から接近する。裏側は、いつも以上に暗く静かに感じた。
月の表面にスペースマスケッティを置くと、ユナイトを解除する。大地はスペースマスケッティの中でヘルメットを付け直し、周囲をスキャンした。
「北西に巨大建造物があるな……。よし、行くぞエックス」
「ああ!」
スペースマスケッティは月の表面を滑るように走り出した。
「まったく……相変わらず……しぶといですね……!」
びくともしないマックスに、攻撃を続けていたシャマー星人は疲れたように息を荒げ、肩を上下させる。
お前に言われたくはない、と思いつつマックスは肩の埃を払いながら立ち上がった。
「あ〜あ。日本の政府からの降伏はまだですかねぇ。ていうかウルトラマンエックスはどうしたんです? やっぱりこんな地球に愛想つかせて帰っちゃったんですかねぇ。よそのウルトラマンに任せっきりなんて」
側のビルに寄りかかり、引っこ抜いた看板をうちわ代わりにしながらシャマー星人は独り言のように言う。
「あの人質。エックスがご執心の女だっていうから人質にとってみたけど、見捨てたんですねぇ。所詮ウルトラマンにとって、ちっぽけな人間の女ごとき……ひょっ?」
マックスのマクシウムソードが頭部から鋭く投げられ、スカイマスケッティからの射撃とクロスするようにシャマー星人の幻影を突き抜けていった。シャマー星人は大袈裟に驚いたあと、楽しそうに笑う。
「えっ、なんですかぁ、怒ったんですかぁ? ははははははは! へーんなの! はははははははは!」
マクシウムソードを片手に凄むマックスを、シャマー星人はおちょくる。
「お前たちがそういう態度を取るなら、こっちにも考えがあるんだよ。もう忘れてるのかなぁ〜バカだなぁ〜。ほらほら思い出してね、人質ちゃんだよ」
「っ!」
近くのビルの壁面にはめ込まれていた広告表示用の液晶スクリーンが切り替わり、名前が映し出された。ぼんやりとした、焦点の合わない目をしている。
「抵抗するなっていったのに、ウルトラマンが出てきたんだから、かわいそうだけど彼女にはひどい目に合ってもらわないとねぇ。さて……どうしようかな?!」
マックスは手を伸ばしかけて、ぐっと握りしめる。シャマー星人はニヤニヤしながら手も足も出ないマックスを見た。
「あれが光子増幅装置か」
大地は月の表面に設置された巨大な装置と、その横に建てられたスペースシャトルに似た塔を見上げた。
「あそこだ、大地。あそこに彼女がいる!」
「よし、突入するぞ!」
大地はアクセルを踏み込んだ。
塔には、小型宇宙船の出入り用の口がついていた。ゼロが引っ掻き回しているせいか、ひっきりなしに小型宇宙船が出入りしている。大地は扉が開いた瞬間を狙って、スペースマスケッティで突入した。
銃を片手に素早くスペースマスケッティを降り、物陰に隠れる。
「誰もいない……?」
「ゼロの対処に追われているんだろう。今のうちだ、大地」
「わかった」
大地は銃を握り直して、階段を登った。
そのとき、頭上で悲鳴が聞こえた。女性の、いや、彼女の声だ。
「名前!」
エックスが叫んだと同時に、大地は自分の意識が身体からはじき出されるのを感じた。
大地の記憶はそこで途切れる。
「すまない、大地……。身体を借りるぞ!」
巨大化しては塔を壊してしまい、名前を救うことができない。
しかし大地の力では間に合わない。
エックスは大地の身体にユナイトし、迷わず飛び上がった。突き上げた拳で天井を突き破り、いくつかの階層をぶち破って最上階へ一気に昇り上がった。
「誰だ!」
そこにいたシャマー星人たちが、突然現れた大地――エックスを振り返った。
「私の大切な人から手を離せ」
エックスは銃を構え、ぴたりと銃口を突きつけた。