▼ 第二十四話 勉強
名前さんは最近ウルトラマンについての資料ばかり集めているらしい。地球にやってきたウルトラマンはもちろん、グルマン博士や他の情報源から、別宇宙のウルトラマンについても調べているようだ。俺も、ウルトラマンがたくさんいて、彼らが様々な形で人と関わっていたということを知って、驚いている。
人との繋がり方も色々だ。
エックスはあまり自身のことを話してくれない。肉体を失ったせいで、記憶がはっきりしないということもあるみたいだけど、それだけじゃない気もする。もちろん、無理に追求するつもりもないけれど。
ゼロは去ったと思っていたけれど、ちょくちょくデバイザーに飛び込んできた。それも、狙っているのかってくらい、名前さんがいるタイミングにばかり現れるから、最近エックスはピリピリしてる。
「エックス?」
「ああ。聞いてる。それで?」
「ほんとかなぁ。警戒しててもしょうがないよ。ゼロからの通信は防ぎようがないんだから」
「本当か? 手を抜いてるんじゃないのか?」
「エックス、あのねぇ」
仲間からの通信を本気で弾こうと考えるのは、わりとやばいと思う。
「でも、ゼロって特別変わってる印象だよね。よく喋るし」
「そうかな」
「エックスもお喋りな方みたいだけど」
「そうか?」
「他のウルトラマンにも会ってみたいなぁ」
「そうだな」
「さっきから返事が適当じゃない?」
「そうか?」
「ほら、それ」
「ああ」
なんだか心ここにあらずって感じだ。
ゼロを気にしてるって風でもない。
「名前さんのことでも考えてるの」
「そっ、そんなことはない」
図星か。わかりやすいやつだな。
エックスはもごもご行ってたが、やがて押し出すように訊ねた。
「……大地。その……水族館とはどういうところだ?」
「今度は水族館行くの? まあ、海に一人よりは目立たないか……」
「そうなのか?」
俺はパソコンに水族館のサイトを表示し、エックスに説明してやった。
「水生生物がこんなにいるのか。人間は何に対しても熱心に研究するな」
「そうだね。どんなものにも専門的に研究してる人がいるし……。ウルトラマンはそうじゃないの?」
「そうだな。科学者もいるぞ」
「へぇ。光の国の科学ってすごいんだろうなぁ」
俺には到底理解できないようなレベルなんだろうけど、考えるだけでわくわくする。
「水族館で、何か気をつけることはあるか?」
「え、話が戻った……。そうだなぁ。暗いから、話に夢中になって足元がおろそかにならないように、とか?」
「他には?」
エックスは熱心に聞いてくる。あの一件があったから慎重になってるんだ。
「あれはなんだこれはなんだって質問ばっかりしないこと、かな」
「そんなことはしない」
「どうかなぁ」
絶対イソギンチャクとかカニとか見て名前さんを質問攻めにするに決まってる。
「だが、彼女が何かについて語って聞かせてくれるのを聞くのは好きだ」
「それ、わかる。名前さんの落ち着いた声で説明されると聞き入っちゃうよね」
「だろう?」
その点については大いに頷くところだ。
「何事にも造詣が深いし、わからないことはわかるまで追求する姿勢もいい。お陰でずいぶん私も人類の文明について詳しくなったぞ」
「へぇ。勉強熱心だね」
二人っきりでいるとき、どんな会話をしているんだろうと思ってたけど、意外と真面目な内容みたいだ。まあ、エックスの普段の様子を見ていればさもありなんってところか。
「例えば、人間が歯を磨くという習慣について古くはエジプトの時代に記憶が残っていて……」
「そうなの!?」
「名前の歯を見せて欲しいと言ったら恥ずかしいと言って見せてくれなかったな……」
「口の中を見せるなんて、歯医者さんに対してぐらいだよ。普通見せたくないものだよ。特に女の人は」
「そうらしいな」
エックスの口調には反省の色が見えない。
まあ、それくらいの方がエックスらしいか。
「あんまり彼女が嫌がることを無理強いするなよ」
「もちろんだ。そんなことはしない」
エックスはむっとして言い返す。
「だが歯磨きをするところは見せてくれた。実に興味深かった」
「何してんの!?」
確かに宇宙人に文明を説明するなら実際に見せるのが一番わかりやすいだろうけど、恥じらいながら片手にエクスデバイザーを持って歯磨きしてる名前さんが脳裏に浮かんじゃってなんか変な気持ちになっちゃったよ!
「そういうことなら俺に言えよ。名前さんに変なことさせるなよ」
「歯磨きは日常的な習慣と聞いたが」
「そうだけど!」
「それに大地、デバイザーは机に置きっぱなしにするじゃないか」
「洗面所に持ってたら水飛ぶし」
「名前が何でも教えてくれると言ってくれたから気にするな」
「ぐっ、なんでもって、何を聞く気だ……」
「色々だな」
「色々ねぇ……」
意味もなくキャスター付きの椅子の背もたれに凭れて、ぐるりと回る。
見慣れた研究室が一回転する。
「ま、楽しそうだね」
「ああ。充実している」
エックスの声は弾んでいた。