お姉さんとアイチくん4




「ミサキー! やっほ」
「やっほ」
「ゆりかさん!」
 自動ドアが開くや、僕はガタンと椅子を揺らして立ち上がった。
 ファイト中だった櫂くんはもちろん、他のお客さん全員が僕に注目する。
 僕は慌てて椅子を直し、そそくさとカウンターに近寄った。
「あれ、アイチくんだ! どうしてここに?」
「えっ?」
 とても不思議そうな顔をされてしまって、言葉に詰まった。
 あれ、昨日、会ったばっかりなのにな。
 昨日話したこと、もう忘れちゃったのかな。
 僕は、今日ゆりかさんが来てくれて、すごく嬉しかったのにな……。
「あの、僕……ヴァンガード、やってて、その」
「ヴァンガード? ああ、今一番人気なカードだっけ」
 そういえば昨日ファイト見せてもらったね! とゆりかさんは笑顔になる。よかった、思い出してくれたんだ。
「あのときの子、今日は来てないの?」
 ゆりかさんはミサキさんに訊ねる。僕と話してたのに……。
 ミサキさんはん、と顎で店の奥を示した。
 櫂くんの隣に座ってた三和くんが、ゆりかさんにひらひらと手を振る。
 ゆりかさんは手を振り返す。
 そうだよね、僕に会うためにここに来てくれたわけがなかったんだ。
 何を舞い上がってたんだろう。
「今日は別の人とファイトしてたんだ、アイチくん」
「うぇっ? あっ、はぁ」
 突然ゆりかさんの視線が僕に向けられて飛び上がりそうになる。
「昨日ちょっとだけルール教えてもらったし、また見学してってもいいかな?」
「も、もちろんです!」
 僕はゆりかさんを席に案内する。三和くんが準備よく、ゆりかさんの分の椅子を引き寄せてくれた。しかもわざわざ、僕の隣に。ゆりかさんはまったく気にせず僕の隣に座るものだから、僕は思わず三和くんに助けを求める。三和くんはウインクした。
 ゆりかさんがすぐ隣に座るなんて!
 僕はどうすればいいの!?
「おいアイチ、お前のターンだ」
「あっ、うん!」
 ずっと待たされていた櫂くんがじろっと僕を睨む。ゆりかさんは三和くんに何か質問をしていた。
 早くカードを並べないと。えっと、僕は何をしようとしてたんだっけ。えっと、こうだっけ?
「……おい」
「あー、アイチくん。それは悪手すぎるっしょ」
「えっ、え?」
「そういうときは、これじゃない?」
「あっ」
 櫂くんに舌打ちされ、三和くんに呆れられ、あわあわしていたらゆりかさんに手札から一枚のカードを抜き取られた。
「……あっ、それだ!」
 そうだ、さっき僕が打とうとしていた手。
「おっ、やるねぇ、ゆりかちゃん」
「ふっふー。昨日の三和っちの教えの成果さ」
 三和っち……?
 いつの間にかアダ名で呼ぶほど仲良くなってる!?
 なんでー!?
「おい、さっさと続けろ!」
「はっ、はいぃ!」
 三和くんとゆりかさんの会話が気になって気になって、今日のファイトも散々だった。
 ああ、ゆりかさんの前ではもう少しだけでも、かっこよく……見えなくても、せめてみっともなくないように、頑張ろうって思ってたのに。

 なんだか上手くいかないな。
 僕はどうしたらいいんだろう。
 僕は……どうしたいんだろう……?

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