ある昼下がり。
蝉の声が夏の暑さを倍増させている中、オレは一台のパソコンを見つめていた。
「なぁ、これどうしたんだ?」
「買いました」
この暑さで溶けかけているアイスを食べながらあやかが答える。
オレの分も出してくれればいいのに、と思いながらなおもパソコンを見つめ続ける。
「あやか、パソコン使えるのか?」
「全然使えませんよ」
「…え?」
それならなんで買ったんだ!と心の中でつっこむ。
「伊角さんはパソコンできないんですか?」
「オレはパソコン使わないよ」
「そうですか…」
あやかはオレに何を期待していたんだ?
していたというかまだしているな、この目は。
「あやか…」
「伊角さん、パソコンの使い方教えてください!」
「え…」
やっぱりそういうことか。
なんとなく予想はできていたが、オレもパソコンはほとんど使ったことがない。
そういえば昔、誰かのパソコンでなぜかDTMをやったな…。
あれは誰だっただろうか…。
というかなんでやったんだ…?
…と、そんなことはどうでもいい。
問題はオレがパソコンの電源をつけることすらできないということだ。
しかし、そんなことをあやかに言ってはきっと幻滅されるに違いない。
いや、そもそもあやかにはオレがそういうところで頼れるように見えているんだろうか?
そうじゃなかったらオレに言わないか…。
いや、あやかのことだからそんなことを考えていないってことも…。
「あのさ、あやか?」
「…ダメでしょうか?」
そう涙目かつ上目づかいで言われては断るに断れない。
…仕方ない。
「わかった。とりあえずしばらく使ってないから2、3日時間くれないか?」
「ありがとうございます!」
とりあえずそういってその場はしのぐことができた。
しかし…問題は3日後までにパソコンの使い方を覚えなくてはならなくなった。
一週間くらいにしておけばよかったか?
いや、それじゃあ不自然か…。
そんなこんなでオレはパソコンの使い方を3日でマスターすることとなった。
3日後。
あれからオレは和谷に教えてもらいながらパソコンの使い方をマスターした。
そういえばオレがDTMだけはできることを知った時、和谷がずいぶん驚いていたがなぜだったんだろうか?
そんなことは置いておいてだ。
パソコンについて教えてくれと言っていたあやかがなぜか朝からいない。
昨日の夜中に帰ってきたときにはベッドで寝ていたのだが…。
朝(と言ってもほとんど昼に近かったが)起きるまでにどこかへ出かけたのだろうか?
それにしても遅い。
もう夕方になるというのに…。
まさか何か事件に巻き込まれたんじゃ…
「ただいま。伊角さん、起きてますか?」
「おかえり、あやか」
起きてるかって…さすがに起きてるよ。
もう夕方だぞ?
「遅かったな。何かあったのか?」
「すみません、ちょっと懐かしい友人に会ったので話していたらこんな時間に…」
「そうだったのか…。とりあえず何もなくてよかったよ」
笑いかけてやると申し訳なさそうにオレを見上げるあやか。
…まさか、怒っているとでも思われたのか?
「すみません、パソコン教えてもらう約束だったのにこんなに遅くなってしまって…。それに心配かけましたよね…」
しゅんとして目を伏せるあやかの頭を撫でてやる。
「心配はしたけど、無事だったんだからそれでいいさ。それにパソコンはこれからでも大丈夫だろ?」
「…はい!」
あやかが笑顔を見せてくれたことに安堵し、オレも自然と頬が緩んだ。
「それじゃ、まずは晩御飯でも食べるか?」
そういって時計を指さす。
時刻はもうすぐ6時だ。
「そうですね。それじゃあ、今準備してきます!」
「オレも手伝うよ」
そして晩御飯の支度をするため、オレたちは二人で台所へ向った。
――食べ終わったらあやかにパソコンの使い方を教えてやらなきゃな。