落ちた青薔薇











 僕は今、ある人の部屋の前にいた。
 きっと僕の顔を見れば嫌がるんだろうな。
 そう思うと自然に口元が上がる。
 
 勢いよくドアを開ける。



「なっ!?お前は……!」
「僕の顔、覚えててくれたんだ?」



 突然入ってきた侵入者を咎めるように、彼は盛大に顔をしかめた。
 彼の顔はあまり男らしくない。
 最初に見たときは女狐みたいだと思ったけど。

 でも僕が見たいのはその表情じゃない。



「出ていけ!下劣な傭兵が入れる部屋じゃない!」
「ふぅん?この穴でカナンでも覗いてた?」
「なっ」



 僕はお構いなしに部屋へ踏み込むと、壁に空いた小さな穴を指で塞いだ。
 すると彼がますます顔を歪め、大股で僕に近付いてきた。



「貴様!無礼にも程があるぞ!」
「ジルはカナンに御執心、だね」



 挑発するように笑って彼の束ねた髪に触れる。
 貴族の匂いがする。
 即座に僕の手は弾かれ、彼が剣を抜いた。



「今ここで斬り捨ててやろうか」
「できないくせに」



 向けられた切っ先を指先で摘むと、そのまま剣を横に逸らして彼の顎を捕らえる。
 逃げることもできただろうに。
 僕は自分より高い位置にある彼の顔を見上げた。
 彼の表情が屈辱に歪む。



「っ…貴様!」
「経験不足だよね」



 更に歪む表情。
 あぁ、これで彼は僕の手中に落ちた。
 僕は口元をあげて追い詰める。



「人も斬ったことないんでしょ?あんたは緩い貴族社会で何の苦労も何の経験もせず生きてきたんだ。あんたの中身はいつも空っぽで周りを妬み罵ることでしか満たされない。でも今や婚約者も奪われて────」
「黙れ!」
「彼女のこと別に好きじゃないよね?あんたが人を好きになれる訳ない。だって好かれたことなんてないでしょ?彼女だってあんたのことが好きじゃないさ」



 気高い彼の絶望した表情。
 唇がわなわなと震えている。
 この表情が見たかった。










「でもね、僕は好きだよ」
「な……」
「初めてジルを見たときからね」



 僕は哀れな彼を抱き締めた。
 貴族の匂いが濃厚になる。



「僕が、ジルに足りない物を教えてあげる」



 からん、と彼の手から剣が落ち、ゆっくりと抱き返される。
 僕は声を出さずに笑った。

 なんと下劣な手段だ。
 でも僕は傭兵だからいいんだ。
 彼を絶望の淵まで追い込んで、唯一の味方の振り。

 あぁ愉快極まりない。
 先程まで傭兵がどうだとか言っていた彼が僕に縋っているなんて。
 彼が傷付いたって構わない。
 こうでもしないと彼は手に入らないんだから。
 手に入れたあとに治してあげれば何の問題もない。



「お前…名は」
「ユーリス」
「ユーリスか……私のことが好きなのか?」
「そうだよ」



 体を離し彼を見上げる。
 少し絶望が和らいでいる。



「あなたを好きなのは僕だけだ」



 僕は笑って、もう一度彼を抱き締めた。























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何故こうなったのか私にも…っ
そしてこの組み合わせ需要ないだろ(^ρ^)
ただの突発ネタでしかない←

お付き合い頂きありがとうございました!



 2012.3.16


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