スキスキ我らが主将!×キセキ

「あっかしーぃ」

「征ちゃーん!」

「赤司ー」

「…?どうした。」

「いやいやどうしたじゃないのよ…」


洛山高校、体育館にて。普段ならいつも通り征ちゃんに言い渡される練習メニューをこなす。ハズなんだけど…
なんだか入口付近から異常なまでの視線を感じるのよね。うん、私たちに向けられるのは一種の殺意みたいなのが。


「あ、ああ…あいつらは気にしないでくれ。」

「いや、赤司さすがに無理だ」

「何故だ?お前たちならできるだろう」

「赤司が感じてる視線と俺たちに向けられてる視線は違うんだよーっ!」

「何を言ってる。人が同じなら視線も同じだろう」

「もう征ちゃんてばわざと?からかってるの?私たちを?」

「まさか。そんなこと僕はしないよ」


あざといくらいに綺麗な笑みを浮かべて私たちの話をスルーしようとする。でも、私たちもスルーできるならしたいのよ。けどさすがにあの威圧は…


「な、なんか集中できなくね…?」

「俺たちいない方がいいのかな…」


おかげで他の部員も怯んじゃって練習どころじゃないのよ。早く帰ってくれないかしら?私たちも練習したいのよ。いつも通りに!
そろそろ征ちゃん私たちの話を真剣に聞いてくれてもいいんじゃないの?


「あー…みんな赤司っちにまとわりついてー…」

「軽々しく赤司くんに話しかけないでほしいです」

「ああ。赤司は俺たちのモノなのだよ」

「話しかけるならまだしも触るとかありえねー」

「ったく、そろそろ出て行ってもいんじゃね?連れ戻すか!」


とんでもないバスケバカだけならまだしも…私たちの征ちゃんバカとは思ってなかったわ、"キセキの世代"!体育館の入口に仁王立ちみたいに立たれても本当に困るのよねー。
そもそも、俺たちのモノとか触るとかありえないとか連れ戻すとか何なの、何様なのよ!征ちゃんは自主的に私たちの元へやってきたのよ?それじゃあもう私たちの征ちゃんじゃない!元チームメイトだかなんだか知らないけど、征ちゃんは渡さないわよ!


「ねえ征ちゃん?ちょっと向こうでミーティングしたいんだけど…」

「そうか。それなら小太郎たちもおいで」

「なにー?」


取り敢えずこのまま征ちゃんを放置するわけにもいかない。半ば無理矢理な理由をつけてステージの裏へ連れてあいつらの視野から征ちゃんを外させる。これで一時はしのげるだろうと思ったけど…あいつらは慌てて洛山高校の体育館へズカズカと入ってきた。取り返すとか触るなとか言ってるけど私たちも引かない。
だけどさすがに征ちゃんもこの状況は注意すべきと思ったのか踵を返してあいつらの元へ向かった。


「ちょ、征ちゃん!?」

「赤司ー!」


私たちが呼んでも振り向こうとせずに少し怒ったように歩いて行った。
そしてあいつらの目の前に立った。


「お前たち、もう帰…」

「赤司っち戻ってきてくれたんスね!」

「うっし。じゃあ行こうぜー」

「赤ちんは俺たちのモノだからねー」

「やめろ、離せお前ら!僕は今から練習するんだ!」

「赤司離せよ!お前たち帰れよ!」

「征ちゃん離しなさい!練習できないじゃない、邪魔よ!」


すごい剣幕で向かって行ったはずなのに、アイツらは少しも怯むことなく何を勘違いしたのか意味分からんこと勝手に言い出しては征ちゃんの腕を掴んで無理やり連れ出そうとするのでそれはさせん!と私たちも慌てて征ちゃんの腕を掴みにかかる。

あの征ちゃんが言うだけじゃダメってどういうことよ!いつもみたく大人しくハイハイ言ってさっさと帰りなさいよ!


「過去のチームメイトが今更何の用よ!」

「なっ…チームメイトに過去も現在もありません。今でも赤司くんは大切な仲間です」

「あ…っ」

「っしゃ、テツGJ!」


あまりの正論さに思わず征ちゃんの腕を引く力が弱まってしまった。その隙をついて思いっきり向こう側に征ちゃんが引っ張られてしまった。しまったと思うと同時にまた腕を掴んで引き寄せると、隣で一緒になって征ちゃんの腕を引いていた小太郎も限界らしくイライラモードで言った。


「お前ら練習しなくていーのかよ…そろそろマジで帰れ!」

「俺たちも暇じゃないっスよ!だからいち早く赤司っち返して欲しいんス!」

「赤司いねーとイマイチやる気出ねえんだわ」

「今日のラッキーアイテムは優秀な旧友なのだよ。だから大人しく渡すのだよ!」


意味分からんこと勝手に並べて連れ戻そうとするけどそう簡単に我が主将をあげたりしないのよ!


「…つーか赤司がマジギレする前に収めたいから言うけどさ、お前ら高校別々じゃねーの?赤司は1人しかいねーのにお前らどうやって自分の傍に置こうとしてるわけ?」

「「「「「………」」」」」


見兼ねた永吉が腕を組んでため息交じりで征ちゃんの顔色をチラチラと伺いながら言い放った。するとまあ何とも大人しくなると征ちゃんを掴んでいた手を離したのでその隙をみて征ちゃんを抱き寄せた。
目の前にいる征ちゃんを除くキセキの世代が一体何を言い出すのかと思っていれば大声を出して喧嘩をしはじめた。


「俺が赤司を連れて帰る!」

「何言ってるんスか!俺っスよ!」

「モデル(笑)にガングロは黙ってください。赤司くんは僕のです」

「黒ちん嘘はダメ〜。赤ちん俺のだから〜」

「俺のラッキーアイテムだ。」


目の前で誰が征ちゃんを連れて帰るかという極めて私たちにとってどうでもいい討論が始まったのでさすがに我慢の限界がきてしまった征ちゃんが何とも様になっている仁王立ちをし、とても低いトーンで諭すように言った。


「お前たち?こんなところで油売ってる暇があるなら自分の高校に戻って練習すべきだろう。そんなんじゃいくら強豪校でも我が帝王洛山高校を倒せるはずが無い。それでも尚ここにいたいと言い出すバカはいないよな?まあ仮にいたとしたらそいつはバスケをやめた方がいいと思う。それかバスケが一生できないように息の根でも止めてやろうか…?」

「「「「「す、すみませんでした…」」」」」


勿論この征ちゃんのお言葉に異論があるものはおらず、即座に素直に謝罪した。反省の色が伺えるかはさておき、喧嘩も一先ず収まり静かになった。
おずおずと視線を征ちゃんに合わせないように泳がせる者もいれば、謝ったことは謝ったが不服そうに顔を歪めている者もいる。そんな元チームメイトの彼らを前にして征ちゃんは最後に言った。


「さあ帰れ。次はこんなところではなく、試合会場で会おう。その時は力尽くで僕たちを優勝への道を追い出してみろ。楽しみにしている」


ーーーー…


「…はあ……ッ」


色々とあったけど、本日の部活は終了。これから寮に戻るって時、さっきはあんなに堂々としていたのに、今ではかなり意気消沈て感じで深いため息ばかりの征ちゃん。声をかけようにも不機嫌なのか辛いのか悲しいのか分からず躊躇して近付けない。

だけどそんな時こそ何も御構い無しに話しかけるのが小太郎。いつもみたく明るく征ちゃんに話しかけてしまった。


「あっかしー?何でそんなにため息ばっかなの?」

「…少し反省しているんだ」

「反省?」

「ああ。」


予想打にしなかった返答に思わず立ち止まりそうになる。後先考えずに行動なんてしない征ちゃんが珍しく反省…
今日の練習メニューも指摘も全て的確だったハズ、なのに…一体何に反省を?


「せっかく来てくれたあいつらに、僕はひどい事をしてしまったんじゃないのかと思うんだ。京都なんて簡単に来れるところじゃないだろう?それに敦なんてわざわざ秋田から来てくれたんだ。…練習をサボってまでだ。それなのに僕はひどい事言って簡単に突き放した…」


態度を見る限りどうやら相当凹んでいるらしい…もしかしたらあの時、心を鬼にしてまであの子たちを追い払ったのかしら…

今にも泣き出してしまいそうな征ちゃんを見て思いっきり抱きしめてあげた。


「ねえ征ちゃん?今度休みがあったら、みんなで東京見物にでも行かない?それと秋田にも行きたいわ!そしたら次は私たちが会いに行ってあげましょうよ?」

「玲央…」

「おー!行きたい行きたい!おれスカイツリー見てみたい!」

「おれ美味いもん食いてえ」

「小太郎、永吉…」


腕の中にいる征ちゃんは、とても幸せそうな笑顔を浮かべて、次に会える事をとても楽しみにしているようだった。

征ちゃん、本当はあの子たちのことを一番に思い、心配して、大切にしているんだわ…チームの司令塔としてだけじゃなく主将としてだけじゃなく、赤司征十郎という人柄にみんな信頼を置くのね。


「だからー、そんなに自分責めなくてもいって!な、永吉?」

「ああ。」

「小太郎も永吉もそう言ってることだし、気にしなくていーのよ?そもそも、連絡一つも寄越さずに誘拐しようとする方が悪いのよっ」


悪態をついてしまうようで悪いが、今回の一件において征ちゃんが悪いことをしたとは到底思えない。

寮につくと、ここらで別れなければならない場所まできた。お互いにお疲れ様、と声を掛け合うとそれぞれの部屋に向かう。
数歩歩いて自室に着き、扉を開くと思わずこんな言葉が漏れてしまった。


「大好きよ、征ちゃん。」


…あらやだ、誰も聞いてないわよね?
まあ別に聞かれて悪いことじゃないけどね。


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なんだかレオ姉を思い浮かべると、とても安心する作品になるのは何故でしょう?






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